最近まで「ネットは選挙で役に立たない」が常識だった…専門家が明かす「動画とSNSで話題になってナンボ」時代が訪れるまでの“ネット選挙”ウラ話

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1月27日、第51回衆院選が公示されたが、今回の選挙では、これまで以上にネットとSNSの重要性が増している。現状の衆院選を巡る「ネットと選挙」の特筆すべきイシューについてここで振り返ってみよう。今回感じるのは、NHKの政見放送よりも、ネットからの情報発信の方がおおいに影響を与えている件である。かつては政見放送で奇天烈なことを言う候補がネットを通じて面白がられたが(でも当選はしない)、今はそうしたオモシロ候補ではなく、本命にも近い候補がネットを存分に活用しているという点だ。【取材・文=中川淳一郎】
【写真】選挙でまた激痩せしちゃう? 自民党の選挙の顔「高市早苗」の笑顔今昔
インターネット論が専門の筆者はいわゆる「ネット選挙」については数年前までは「そこまで影響はないのでは……」というスタンスだった。というのも、知人の選挙経験者に実感を聞くと、こう言われ続けたからだ。
「いやぁ~、ネットは効果ないです。やっぱり、お爺ちゃん、お婆ちゃんのところへ行き、握手をすることが効くんですよ……。このダサいタスキ姿と、選挙カーでの名前連呼も元々バカバカしいと思っていたのですが、コレが本当に一番効くんです。『この人は私らのことを考えてくれている』と捉えてくれまして」
当事者からのこうした感想も踏まえ、私は、選挙のネットの影響については限定的、と思っていたが、そんな中、ネット選挙解禁元年となった2013年7月の第23回参議院議員通常選挙・宮城県選挙区の件は別格に扱っていた。
この時、自民党の愛知治郎氏に勝つことは難しく、2位当選を狙う戦略を取ったと思われるみんなの党公認(当時)の和田政宗氏(元NHKアナウンサー)は、保守派と反左派の票獲得をネットの生放送番組で徹底して狙った。具体的には、2位争いをするライバルの民主党候補・岡崎トミ子氏の復興政策批判や、韓国での反日デモに参加した過去について取り上げた。
この頃のネットでは「そんな“反日候補”に投票するなら、1位確実の愛知氏よりは、和田さんに入れるわ」といった空気感が醸成され、和田氏は22万207票を獲得し、岡崎氏に5102票差をつけて勝利した。私の感覚ではあるものの、この和田氏のネット活動がなければ岡崎氏は勝っていたのではなかろうか。
その後、目立った「ネット選挙成功事例」はあまりなかったが、2024年の石丸伸二氏の東京都知事選での蓮舫氏を上回る2位獲得や、同年の兵庫県知事選での(パワハラが取り沙汰された)斎藤元彦氏の勝利、参院選における国民民主党の躍進についてはネットの力が大いに作用したことは認めねばなるまい。ネットの発言だけでなく、その発言や中継の内容を様々なメディアが報じ、これら候補者への支持が拡大した形となった。
さて、今回の選挙では、そうしたネットの力を活用しようとする候補者・政党が多数出ているほか、一般のネットユーザーが自身の応援する候補・政党を応援し、対立候補・政党をいかにして叩くか、を考えている。以下、箇条書きで様々な争点を紹介していこう。
【高市早苗首相vs大石晃子・れいわ新選組共同代表】 これは、典型的なコタツ記事が多く、テレビ番組等での発言とネット上での反応を基にしたものだが、このようなものがある。
《高市早苗氏「名誉毀損になりますよ」警告も大石晃子氏反撃「そちらこそ名誉毀損!」スタジオ騒然》《れいわ・大石共同代表の“暴走”に高市総理も「目を見開いて」ビックリ! 司会者無視し「私は、子どもを戦争に送るために産んだんじゃない」党首討論会で主張止まらず》
大石氏と高市氏の対比をすることで、どちらが大人でどちらが幼いか、といった論調を作ろうとしているのが明白なのだが、親・高市派は大石氏を批判のターゲットにした感がある。これまでれいわを牽引してきた山本太郎氏が病気で参議院議員を辞任したことを受けての苦しい選挙で大石氏は頑張っている様子は分かるものの、それは空回りしている。そして、総理まで昇りつめた高市氏の経験の豊富さをいかに際立たせようか、といった感覚がある。
【AIお婆ちゃんに注意】 昨今、「ディープフェイク」とも呼ばれるように、AIにフェイク動画を作らせたり、まったく関係のない動画を繋ぎ合わせてウソを垂れ流す状況になっている。それこそ、渋谷のスクランブル交差点前でお婆ちゃんに政権批判をさせているインタビュー動画があっても、実際はAIで作成者の都合の良い主張をさせているだけだったりする。
さらに、横断歩道でスマホに夢中になっている女性を間一髪で交通事故から救った男性が、その後女性から「体を触られて不快感を覚えた」などと訴訟沙汰にされ、「これだから女を救うのはイヤなんだ」といった論調を作ろうとする動画もある。実際、この交通事故回避動画と裁判動画は別なのだが、この動画を基に女性批判が巻き起こった。
【減税日本・ゆうこく連合・原口一博氏の積極さと危うさについて】 立憲民主党所属だった佐賀一区の原口一博候補は、日々YouTubeでの配信を行い、支持者に政策をPRしている。また、古巣である立憲民主党批判も展開するなど、選挙に興味のある人にとってはたまらないコンテンツとなっているが、若干の危うさを私は感じている。というのも、味方についていない人が味方であると自身の解釈からフライングで発表し、後に味方でなかったことが明らかになったりしたことだ。具体名としては末松義規氏のことである。Xにて、末松氏のスタッフが否定することとなった。
河村たかし氏の「減税日本」と組み、愛知県を中心として候補者を18人も出すことに。佐賀だけの有権者を狙うには原口氏のネット戦術の効果は限定的だが、自身が主軸を務める政党が全国各地で候補者を擁立する状況になり、幅広い層を相手にするようになるとネットは一気に強さを発揮する。何しろ、原口氏のYouTubeライブは面白いのである! 自身の主張はもちろん、恨みつらみもあれば、一転して元同志をホメたりと「目が離せない」動画を日々放送している。
【れいわ・社民・共産はもっと発信を!】 比例選挙区がある以上、個々の候補者によるネットでの情報発信が全国に影響を与える状況になっている。そんな中、この3党については、発信が弱い。もはや、コタツ記事全盛時代、「選挙は話題になってナンボ」といった感もあるため、テレビ番組からのコタツ記事作成・配信だけでなく、自身のYouTubeやSNSでの情報発信、さらには街頭演説でのアンチからの妨害なども含めて各政党と候補者はネットを最大限活用すべきだろう。
私自身、「ネットウォッチャー」としてのキャリアは20年を超えたが、今回はこれまでで最もネットにおける情報発信に注目している。有権者に様々な選択肢を与えるためにも、そして若者も選挙に行ってもらうべく、各政党・団体・候補者はネットを最大限活用してほしい。
ネットニュース編集者・中川淳一郎
デイリー新潮編集部

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