栃木県の県立高校のトイレで、男子生徒が別の男子生徒に暴行を加える様子を撮影した動画が、1月4日ころからSNSで拡散し、警察が暴行事件として捜査に動き出す事態となっている。
福田富一知事は1月6日の記者会見で、動画を視聴したうえで「絶句した」「卑怯者」「弱い者いじめはやめろと思った」と述べた。学校と教育委員会に対して、情報をまとめたうえで7日までに発表するよう指示をしたという。
9秒間の動画には、被害生徒の顔面を殴ったり蹴ったりする様子のほか、周囲の生徒らがそれをはやし立てる場面も映っていた。
警察が当事者の生徒らに事情を聴き、加害生徒が「本当に申し訳なかった」と語っていると報じる記事も出ている。一連の行為は許されるものではないが、こうした動画を投稿したり、拡散する行為とは切り分けて冷静に考える必要がありそうだ。
すでにSNS上では、当事者とみられる生徒の名前や学年などの情報が拡散されてしまっている。インターネットの問題にくわしい清水勇希弁護士に法的な問題点を聞いた。
──生徒が暴行に及ぶ動画をSNSに投稿する行為について、どのような法的問題が考えられるでしょうか。
無断で動画を撮影し、投稿する行為は、動画に写っている生徒らの名誉権などを侵害するものとして、民法上の不法行為が成立し、撮影者や投稿者に損害賠償責任が生じる可能性があります。
たしかに動画を見る限り、被害生徒に対する一方的で危険な暴行がおこなわれており、こうした行為は到底許されるものではありません。動画を拡散することで、加害生徒を懲らしめたい、被害生徒を助けたいと考える人もいるかと思います。
しかし、そのような目的であっても、動画をSNSに投稿する行為は、必ずしも法的に許されるわけではありません。
──どうしてでしょうか。
個人は、未成年であっても、成年であっても、名誉権という権利を有しています。
名誉とは、人が品性や徳行、名声、信用といった人格的価値について社会から受ける客観的な評価を指します。そして、名誉権が侵害されたかどうかは、一般人を基準として判断されます。
──名誉権が侵害されたということでしょうか。
今回投稿された動画は、特定の生徒が暴行を加え、周囲の生徒がそれをはやし立てながら見ている様子を映したものです。
こうした行為は社会的に非難の対象となる可能性が高いため、動画が拡散されることで、加害生徒の人格や品性が問題視され、社会的評価を低下させる可能性があります。その結果、名誉権侵害と判断される可能性があります。
刑事上も同じく、動画の投稿によって、加害生徒の社会的評価を低下させたとして、名誉毀損罪が成立する可能性があります。
──すでに投稿された動画を拡散する行為についても法的責任を問われる可能性があるでしょうか。
あります。すでにネット上に投稿された動画や画像を拡散する行為についても、民法上の不法行為が成立する場合があります。
X上の「リポスト」(裁判時は「リツイート」)が、民法上の不法行為にあたるかどうかについて、大阪高裁(令和2年6月23日判決)は、コメントを記載しない「リポスト」のような拡散行為も、元ポストの趣旨とは異なる趣旨でリポストされたものだと解釈されない限り、元ポストを投稿した者と同様の損害賠償責任(不法行為責任)を負うとしています。
したがって、今回のケースでも、名誉権などを侵害する元動画を拡散すれば、損害賠償責任を負う可能性があります。
──「正義感」から拡散していると考える人もいるかもしれません。
たしかに「そもそも加害生徒が一方的に手を出しているのだから、動画を拡散されて当然だ、拡散されなければ、いじめが放置されていた」といった考えもあるかもしれません。
しかし、法的には、加害生徒の行為が、違法だからといって、無断で動画を拡散する行為が必ずしも正当化されるわけではありません。
また、加害生徒への制裁という側面に目が向きがちですが、被害生徒にとっても、暴行を受けている様子を撮影された動画がネット上で拡散されることにより、名誉権などが侵害される可能性がある点には注意が必要です。
【取材協力弁護士】清水 勇希(しみず・ゆうき)弁護士弁護士登録以降、相続法務、不動産法務、刑事事件等に注力。リット法律事務所は、元裁判官の弁護士も在籍する等、民事・刑事事件問わず、多数の紛争案件の解決実績を誇る。「クライアントの未来を灯す」という理念のもと、クライアントのために、迅速な案件解決に力を入れている。事務所名:弁護士法人リット法律事務所事務所URL:https://lit-law-office.com/