【真壁 昭夫】社内で頼りにされていた「エクセルの達人」の末路…いよいよ日本企業で人員削減が加速する

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日本企業の間で、業績好調や人手不足の状況下でも人員削減に踏み切る動きが加速している 。
近年目立つのは、単なる経営悪化への対応ではなく、ソニーやパナソニックのように成長分野へリソースを集中させるための「黒字リストラ」だ。
世界経済がかつてないスピードで変化する中、長年維持されてきた新卒一括採用や終身雇用といった「日本流雇用慣行」は限界を迎えつつある。企業にはもはや業績に貢献しない人材を抱える余裕はなく、生き残りをかけて収益を生み出せる「プロ人材」重視への転換を急いでいる。
前編記事〈日本企業はもう“窓際社員”を養えない…黒字でも人手不足でも人員削減を進める「過酷な時代」〉では、その詳細を解説している。
現在、世界中では、実力のある人材の熾烈な争奪戦が繰り広げられている。
コンサル業界では、業界未経験者であっても、財務・マーケティングなどで高い専門性を持つ人材を採用する企業も増えてきた。業界未経験だからこそ、過去の発想に縛られない大胆なアイディアが期待できるとの見方もあるだろう。
AIの利用増加も、人材の削減、専門人材の獲得を加速させている。
現在のAIは、学部卒や大学院を修了した若手の社員が従事する、定例業務(書類作成、データ入力などのルーティン業務)を代替し始めている。マニュアルなどで言語化、定型化できる業務は急速に機械にとって代わられている。
米国では、大学を卒業して2~3年間は就職できない若者が、新卒者全体の25%に達するとの予測もある。
反対に、マニュアル化が難しい業務では、これまで以上にプロ人材の重要性が高まるだろう。
代表的なものは、経済分析を駆使した政策や事業戦略、投資戦略の策定、コラムの執筆、芸術などだ。
これは、私たち一人一人の仕事に大きなインパクトを与える可能性がある。日本の企業では、キャリアを重ねても定例業務を続ける人が多い。そうした人たちは今後、AIに代替される可能性が高い。
社内で経験を積んで、エクセルの達人といわれた中間管理職がいたという。ところが、コロナ禍の後に、大学院卒のデータアナリストを採用したところ、中間管理職の専門性の低さが露呈したそうだ。
その後、AIの利用が急速に進み、やる気さえあれば老若男女を問わず、ある程度のデータの分析ができるようになった。この中間管理職の活躍の場がなくなったのは言うまでもない。こうしたケースが、わが国でも加速度的に増え始めている。
今後、わが国の労働市場では一段と人材の流動性が高まるだろう。どの企業にも当てはまるのは、実力のある人をより多く確保し、一日でも長く活躍してもらいたいということだ。
具体的には、業績の拡大、新規分野への参入を実現して成長に貢献する人を増やしたい。他社で実績を上げたプロ経営者の登用も増えるだろう。
そうした変化に伴って予想されるのは、個々人にとっての権限と責任が明確になることだ。
従来の日本企業では、非管理職、管理職、担当役員に分けて押印欄を設け、役職が下位の人間は左斜めに(お辞儀をしているイメージで)ハンコを押して決裁をとることが普通だった。
個人で責任を取らない、つまり、だれも責任を取らないための形式だ。AIの利用頻度の加速や世界経済の激しい変化の中で、そうした発想は通用しなくなっている。
個々人にとって重要なのは、自分なりのロジック(考え)を明確に示し、中長期の視点で所属する部署、部門(事業部)、さらには組織全体の向かう方向を示すことである。それは、事業戦略の策定に直結する。
そうした考え方が身につけば、自分の人生をどう設計し、どういった専門性を身につけるべきか、おのずと明らかになるだろう。人員削減が増え雇用流動化が加速している現在の状況は、個人にとって専門性の獲得と習熟の重要性が高まっていることを意味する。
ある意味ではチャンスだ。
既存事業の収益性の低下に加え、今後、米国経済の減速や日中関係悪化の影響もあり、企業のコストカットのための人員削減は増える可能性がある。わが国の成長性の低下から海外事業を強化し、国内事業をリストラする企業も増えると予想される。
そうした変化に対応して人生を謳歌するために、一人一人が最先端の理論に習熟しAIにはない力を発揮することが大切だ。他社の人員削減は他人ごとではない。
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【さらに読む】〈ジャパンの言いなりになるもんか…買収したUSスチールに振り回される「日本製鉄の憂鬱〉もあわせてお読みください。
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