「クマ駆除」を担う新人ハンターが“命の危険”に晒される懸念も…「長野県中野市4人殺害事件」がカゲを落とす「ハーフライフル規制」とは

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男女4人の命が奪われた凄惨な殺人事件が、クマ駆除に深刻な影響を及ぼしている──。この一文を読んで、すぐに意味を理解できる人はどれほどいらっしゃるだろうか。クマの駆除を巡っては“クマ愛護派”の抗議電話が社会問題になるなど様々な余波が広がっているが、まずはクマが今も猛威を振るっている状況を確認しておこう。(全3回の第1回)
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【写真】「お願いだからこっちを見ないで…」 山道では絶対に遭遇したくない瞬間…人間と目が合った瞬間のツキノワグマの凍りつくような眼差し
環境省は11月17日、クマによる被害状況の速報値を発表した。それによると、今年4月から10月末にかけてクマが人に危害を加えた事案は176件で、被害者は196人に達した。これは記録が残る2006年度以降、同期比で過去最悪だという。
犠牲者の数も増え続けている。11月5日の時点で、クマに襲われて亡くなった人は13人。過去最悪だった23年度は6人だったので倍以上に増えており、さらに、11月25日にも新潟県でクマに襲われたと見られる55歳男性の遺体が発見された。
「今の状況は異常。クマの駆除に力を入れ、個体数を減らす必要がある」と指摘する専門家は多い。クマの駆除には一般的に銃か罠が使われる。ところが、クマの駆除に強い威力を発揮する銃に対し、国が規制を強化してしまったのだ。狩猟に詳しい関係者が言う。
「2023年5月、長野県中野市で4人が殺された殺人事件が発生しました。当時31歳の男が2人の女性をサバイバルナイフで刺殺し、2人の警察官を猟銃で射殺したのです。今年10月に長野地裁で開かれた裁判員裁判で男には死刑判決が下りました。4人を殺した男が所持の許可を得ていた猟銃は『ハーフライフル銃』と呼ばれるもので、当時は散弾銃と同じ扱いだったのです」
猟銃は基本的に散弾銃とライフル銃に大別される。従来の銃砲刀剣類所持等取締法では、新人ハンターが所持できる猟銃は散弾銃。それから継続して10年以上、猟銃の所持許可を受けているとライフル銃が所持できた。
そして散弾銃でクマに立ち向かうのは無謀だとされ、クマの駆除に最も力を発揮してきたのはライフル銃だ。
ところがハーフライフルは散弾銃の扱いを受けていたにもかかわらず、散弾銃より有効射程距離が長く、命中精度が高いという優れた長所があった。
「ツキノワグマでも体長180センチ、体重100キロを超える個体もいます。しかも時速50キロという非常に早いスピードでの移動が可能です。100メートル走の世界記録保持者であるウサイン・ボルトさんの時速は37・6キロですからどれだけ早いか分かります。そんなクマを撃つ際、ハーフライフルは射程距離が長いので、より離れた場所からクマを狙うことが可能です。さらに弾はサボットスラッグ弾を使います。これは非常に威力が強く、大型の鹿でも打ち抜けるほどです。経験の浅いハンターは銃刀法の規制でライフルを所持できません。しかしハーフライフルとサボットスラグ弾を持てばベテランのハンターと共にクマの銃猟に参加できるのです」(同・関係者)
ハーフライフルはクマの駆除に“必要不可欠”な猟銃だった。ところが長野県中野市の殺人事件で凶器として使われてしまったため警察庁が規制強化に乗り出す。ハーフライフルを所持できる条件をライフル銃と同じレベルに厳格化する方針を打ち出したのだ。
読売新聞オンラインは2023年12月21日、「手製銃・猟銃も『発射罪』対象に規制強化、銃刀法改正へ…ローン・オフェンダーの事件防止狙い」との記事を配信した。
この記事で読売新聞は警察庁が銃刀法改正案を24年の通常国会に提出する方針を決めたと伝え、ハーフライフルに関して《所持許可の基準をライフル銃並みに厳しくする。ハーフライフル銃が長野の事件で使われたことを受けたものだ》と報じた。
「具体的には『散弾銃を10年間所持してきた』ハンターしかハーフライフルを持てないよう規制を強化したのです。つまりハンターになっても10年間はハーフライフルを使えないことになります。先に見たように、経験の浅いハンターこそハーフライフルとサボットスラグ弾が必要です。ところが、にもかかわらず10年選手しか持てないというのですから……。ハンターの危険性が高まれば、ただでさえ担い手不足が叫ばれる現状に拍車がかかりかねません」(同・関係者)
この規制には多くの狩猟関係者から反対の声が上がった。中でも強く抗議したのは北海道の猟友会だった。2024年1月10日に声明文を発表したのだが、その要点をご紹介する。
▼問題の本質は使用した男性被告にあり、銃の種類ではない。
▼ハーフライフルの有効射程距離は150メートル。一方、散弾銃の射程距離は50メートルしかなく、ヒグマ猟に必要な距離を確保できない。極めて危険だ。
▼北海道の狩猟を始める者のほとんどはエゾシカの捕獲を目的としており、有効射程距離が150メートル程度あるハーフライフル銃とサボットスラグ弾を使用している。
▼法改正が行われると、北海道ではエゾシカやヒグマの狩猟、有害鳥獣捕獲の担い手が不足する深刻な事態に襲われる。
現場を熟知する北海道猟友会の訴えは、国に届いたのだろうか──。
第2回【クマ駆除に暗雲の「ハーフライフル規制」に北海道では“特例”が出たが…ほかの地域では「そもそも銃でクマを駆除できるハンターが少ない」「若手の後継者もいない」現実】では、ハンター不足の問題は全国共通でも、ハーフライフルなど具体的な懸念事項は地域によって異なるという難しい現状をお伝えする──。
デイリー新潮編集部

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