NHK特設サイト消滅に波紋「未来に残して」署名1.7万人、広報「復活の計画なし」

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NHKの新しい配信サービス「NHK ONE」がスタートした裏で、これまでNHKが独自に調査、報道してきた記事や動画を集めたサイトが相次いで消滅している。
いずれも多くの記者やディレクターなどが時間と費用をかけて制作した優良コンテンツばかりで、特定のサイトを挙げて「消さないで」と求める署名活動も始まっている。
これらのサイト、なぜ閉鎖されたのか。そして、復活することはないのか。NHKに問い合わせた。
NHKは10月1日、新たにインターネット配信サービス「NHK ONE」を開始した。当初、システムの不具合が発生し、登録するための手続きがわかりにくいといった声が多く上がった。
そんな中、NHKがこれまで労力をかけて作り上げた特設サイトが相次いでネット上から消滅した。
すでに消えているためサイトの正式名称が正確ではない可能性があるものの、弁護士ドットコムニュースが確認した範囲だけでも、以下のサイトが見られなくなっていたり新たなサイトに切り替わったりしている。
・「性暴力を考える」・「19のいのち」・「災害列島 命を守る情報サイト」・「ミャンマーで何が起きているのか」
サイトを削除した理由について、NHK広報局は、弁護士ドットコムニュースの取材に次のように説明した。
「今回の放送法改正にともない、NHKはインターネットサービスの見直しを行いました。9月までは放送法、インターネット活用業務実施基準に基づいて運用していましたが、10月1日からは放送法、番組関連情報配信業務規程、NHK任意的配信業務実施基準などに基づいての運用になっています。新しいルールに基づいてNHKとしての編集判断をし、過去に掲載しているものも含めて、NHKのインターネットサービスを再構成しました」
削除されたサイトの数やタイトル名については「『19のいのちページ』のように、9月30日で公開を終了したものもあれば、NHK ONEの中に移設・統合したものもあり、単純に削除ということではない場合もあります。そのため、サイトとタイトルを単純にお示しすることは難しい状況です」という。

「19のいのち」は、2016年7月に神奈川県相模原市の障害者施設「津久井やまゆり園」で19人が殺害された事件を扱ったサイトだ。事件では、施設で働いていた元職員による犯行が社会に衝撃を与えたが、亡くなった被害者の名前を警察が匿名で発表したことにも議論が巻き起こった。
元のサイトURLをもとにアーカイブ閲覧サイト「Wayback Machine」で調べたところ、「19のいのち」の先頭ページには、次のような文章が掲載されている。
<”残虐な事件を、思い出したくないけれど、忘れてほしくない” あるご遺族が語ってくださった言葉です。19人の方々を知る人たちが語ってくださった思い出のかけらを集めて、確かに生きてきた「19のいのち」の証しを、少しずつここに刻んでいきたいと思っています。>
サイトには、犠牲者19人の似顔絵、遺族が語る思い出、裁判の詳細、関係者へのインタビューなどが掲載されており、事件の経緯や事件が社会に与えた影響を簡単に知ることができる作りになっていた。
「ミャンマーで何が起きているのか」は、ミャンマーで続く内戦の実情を様々な切り口や表現方法で伝えていたとされ、新聞社やテレビ局が十分な取材体制を敷けない海外での報道として高く評価されていた。

「性暴力を考える」のサイトには、レイプや痴漢、盗撮、男性の性被害、セクハラなど、さまざまな性的暴力について、被害者や加害者、支援者、研究者などに取材した記事が集積されていた。
これまで見過ごされてきた性暴力の実態を浮き彫りにした各記事には、性被害の当事者らから多くの反応が寄せられ、記者と読者が意見を交わす双方向的な報道を体現していた。
ところが、9月にこのサイトが閉鎖されることが知らされると、オンライン署名サイト「Change.org(チェンジ・ドット・オーグ)」で9月19日に、<NHK「性暴力を考える」サイトを消さないで>と求める署名活動が始まった。
署名活動を企画した有志は、切実な声でサイトの存続をうったえている。
「『性暴力を考える』サイトはすでに、単なる情報サイトではなく、あらゆる人たちが繋がる重要なプラットフォームとなっている」
「サイトが閉鎖されてしまうと、勇気を出してあげたこれらの声が見られなくなってしまうだけでなく、声をあげられなかったと悩む当事者が、自分を救ってくれる言葉に出会う貴重な場が失われてしまいます」
「勇気を出して被害を語った当事者たちの言葉、それを受け取った人たちの言葉を、貴重な調査結果を、今、そして未来にその情報を必要とする人のために残し続けてほしい」
11月10日夕の時点で、約1万7400の署名が集まっている。

これらの閉鎖されたサイトが再登場する可能性はないのか──。
弁護士ドットコムニュースの質問に対して、NHK広報局は「現時点で、公開を終了したコンテンツを閲覧できるようにする予定や計画はありません」と回答した。
コンテンツの復活を求める署名が集まっていることについては、次のような返答があった。
「今回終了したサイトについて、継続や代替手段を求める声があることは承知しております。今後も、NHKがインターネット上でも正確で信頼できる情報を発信し、健全な民主主義の発達に資するという公共的な役割を果たしていくため、新しいサービス『NHK ONE』の中で発信を続けて参ります」

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