《積水10億円解体マンションがついに更地に》現場責任者が“涙ながらの謝罪行脚” 解体の裏側と住民たちの本音「いつできるんだろうね」と楽しみにしていたくらい

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東京・国立駅から富士山の方向に南西に伸びる場所にある富士見通り。そこを10分ほど歩いた場所に、昨年まで10階建てのマンション「グランドメゾン国立富士見通り」はあった。しかしいまは周囲を白いパーテーションで囲われ、なかをのぞいてみるとその建物は跡形もなく、ガランとした更地になっている。
【写真】周囲を白いパーテーションで囲われ、ガランとした更地となった「積水10億円解体マンション」の跡地
国立市の都市計画課はこう話す。
「8月に解体終了の報告を受けていました。その後の利用計画などは出されていません」
2023年1月に着工したこのマンションを巡っては、完成直前に解体が決定するという前代未聞の騒動が起きていたことは記憶に新しい。事業者の積水ハウスは、2024年7月中間連結決算で約10億円もの営業外費用を計上するなど大きな話題となった。解体を終えたいま、住民はなにを思うのだろうか──。
富士見通りを含む国立駅前の円形公園は国交省の「関東の富士見百景」にも選定されている。国立市に在住経験のある詩人の草野心平が詠んだ詩の中にも、「文字通り富士見通りで。道路の真正面にまっぱだかの富士がガッと見える」(『天地氤』)という一文があるように、地元の人々に愛される名所だ。
この通りに、積水ハウスを事業者としたマンション建設の話が持ち上がったのは2021年。そこで学識経験者や市民などで構成する「まちづくり審議会」で富士山が見えなくなる懸念が出た。そこで事業者は当初11階建てだったマンションを10階建てに変更。審議会でも「一定程度の対応があったと思われる」と評価され、国立市の景観条例の範囲内であったことから建設にOKが出た。
周辺住民も個々には意見の相違があったものの、大きな反対運動などはなく建設は進んでいった。
「近所のおばあちゃんなんかは、毎日のように顔を合わせる建設現場の人と仲良くなったりして情が移った人もいます。『いつできるんだろうね』と楽しみにしていたくらいでした」(近所の住民)
ところが、建物が完成間近になると「富士山が見えなくなる」という話がSNSを駆け巡った。SNSでは完成間近のマンションによって富士山が半分ほど隠れている写真が拡散。マスコミも報道する事態になった。
すると事業者である積水ハウスは完成と住民への引き渡しが1か月前に迫った段階で事業の中止を発表。昨年6月11日付で以下のようなリリースを出した。
《建物の富士山に対する影響が現実的になり建物が実際の富士見通りからの富士山の眺望に与える影響を再認識し、改めて本社各部門を交えた広範囲な協議を行いました。その結果、現況は景観に著しい影響があると言わざるを得ず、富士見通りからの眺望を優先するという判断に至り、本事業の中止を自主的に決定いたしました》
当時の状況について地元住民の一人はこう話す。
「最初にマンション建設の話が出た時は正直言って驚きましたが、まちづくり審議会を経て高さの修正もあったので、住民としてもある程度納得していた部分がありました。反対意見はもちろんあったものの、ねじり鉢巻きをしてみんなが反対するような運動はなかった。
当時取材にきたマスコミも、反対する住民運動の絵が撮れないので拍子抜けしていましたよ。解体が決定しても多くの人がよろこんで万歳しているような姿なんてないからね。企業イメージの悪化を懸念して、10億円を天秤にかけて損切りしたってことなんでしょうかね」
突然の方針転換に翻弄されたのは市や住民、現場で建設作業に従事していた関係者だった。市の関係者は困惑気味にこう話す。
「市の条例に違反しているわけでもありませんでしたし、事業者の方から詳しい経緯も説明もなく『中止にします』という報告だけだったので疑問は残りました」
決定を下した事業関係者も複雑な思いを抱えていたようだ。「解体の際は、『ご迷惑をおかけしました』と建設現場の責任者の方が涙を浮かべながら近隣をお詫びして回っていました。よろこんで住んでもらえると思って作っていた建物を、誰も1度も住むことなく取り壊すわけですから、悔しさもあったんでしょうね」(近所の住民)
更地となったマンション跡地の今後について、積水ハウス側は「今後の活用方法については未定です」(広報室)と話す。「富士見通り」の名にふさわしい施設とはどういったものになるのか、今後の跡地活用にも注目したい。

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