42歳から不妊治療も5回の流産経て出産断念…日本は治療受ける人の4割が40歳以上

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「仕事は大事。でも、若い時から妊娠や出産について知識があって、もっと考えていれば」
8年間の不妊治療を経験し、夫と2人で暮らす名古屋市の会社代表、酒井みゆきさん(57)は悔やみきれない思いがある。
若い頃から昼夜を問わず仕事に打ち込んだ。企業の広報時代は全国を飛び回り、37歳で起業してウォーキングスクール経営に転身した。「いつかは子どもがほしいな」と考えていたが、「まだ猶予はある」と思い込んでいた。
結婚をきっかけに42歳から不妊治療を始めた。クリニックには月3~5回通院し、卵子と精子を体外で受精させて子宮に戻す「体外受精」で5回の妊娠に至ったが、いずれも流産。50歳を前に出産を諦めた。「努力さえすればできるものと思っていた。今は夫との充実した生活を楽しんでいるが、すぐには現実と向き合えなかった」と振り返る。
2023年に国内で実施された体外受精で生まれた子どもは、約8万5000人に上る。生まれた子の8人に1人に相当するが、不妊治療を受けても子どもが持てない人も少なくない。
厚生労働省が20年に示した資料によると、日本は不妊治療を受ける人のうち、「40歳以上」が4割程度と海外より高い傾向にある。35歳を過ぎると体外受精で出産できる割合は低下し、40歳以降は大きく下がる。
こうした妊娠や出産に関する情報は、若い世代ほど知らない可能性がある。ニッセイ基礎研究所の乾愛研究員(母子保健)は「学校教育などを通じ、若いうちから出産を含めた将来設計を考えられるようにすることが大事だ」と指摘する。
海外には、不妊治療を受けやすい環境づくりを積極的に進める国もある。
フランスでは不妊治療に対する手厚い支援制度があり、人工授精は最大6回、体外受精は最大4回まで費用が社会保険で全額カバーされる。21年には年齢の上限が43歳以下から45歳以下に引き上げられ、支援対象も未婚のまま産みたい女性などに広げられた。
不妊治療を行う医療機関は、生物医学庁が監督し、治療データの収集・解析などを担う。毎年、医療機関ごとの治療実績を公表し、信頼できる施設を選べるようにしている。
一方、日本では22年から不妊治療の一部が公的医療保険の対象となった。将来の妊娠に備えた「卵子凍結」への助成に乗り出す自治体もある。だが、不妊治療の医療機関ごとの成績開示は限定的だ。厚労省研究班による23年調査では、不妊治療経験者の約7割が医療機関選びに迷ったことがあると回答し、開示を求める患者の声は大きい。
不妊治療と仕事の両立に向け、企業の支援も求められるが、厚労省調査では従業員向け支援に取り組む企業は26・5%にとどまる。
不妊治療に詳しい片桐由起子・東邦大産婦人科教授は「治療成績の開示は、医療機関任せでは信頼性のあるものにはならない。国などの公的な機関が統一した基準を用いてデータを取りまとめていくことが望ましい」と話している。

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