群馬でクマに襲われた女性、犬が救う…紅葉シーズンの観光地にクマ被害の影響広がる

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群馬県内でもクマによる人的被害が過去最多となる中、紅葉シーズンを迎えた観光地への影響が広がっている。
出没が確認された沼田市の名勝地は遊歩道の一部が通行止めになり、東吾妻町の体験型アトラクションは2週間近く利用を中止した。北毛地域を中心に観光協会や観光案内所にはクマに関する問い合わせが相次いでおり、観光関係者は「来る際はできるだけ注意してほしい」と警戒を呼びかける。(桜木優樹、阿部文彦)
3連休初日の1日、沼田市利根町追貝の名勝「吹割の滝」は周囲の木々が赤や黄色に薄く色づき、観光客でにぎわっていた。
ただ、滝を囲む遊歩道の途中には「この先熊の目撃情報あり」と書かれた看板が立ち、一部通行止めに。観光客は「残念だね」と話したり物珍しそうに写真を撮ったりして、来た道を引き返していた。友人2人と訪れた千葉県山武市の会社員(55)は「(看板の)向こうに行きたかったが、クマが走って来たら怖いですね……」と不安そうに話した。
市によると、10月14日に遊歩道の近くでクマが目撃されたことなどを受け、同日から遊歩道約2・2キロのうち約1・2キロを通行止めにした。滝は見られるが、近くで見下ろす場所には行けなくなった。解除の見込みは立っていない。
沼田市観光協会やみなかみ町湯檜曽の谷川岳インフォメーションセンターによると、今年は「クマが出ますか?」などと出没状況を尋ねる電話が例年より多く、1日数件寄せられる。同町観光協会も同様で、町内で人が襲われたと報道された直後は10件前後の問い合わせがあるという。
東吾妻町の廃線を利用した自転車型トロッコ「吾妻峡レールバイクアガッタン」は、上毛かるたにも登場する国指定名勝「吾妻峡」沿いを走り、山が色づく秋は平日でも予約で埋まることがある人気アトラクションだ。しかし、10月18日に線路付近でクマ2頭が目撃され、19~31日の運行を中止した。
町は、出発前にルート沿いを車で見回り、トロッコに防犯ブザーをつけるなどして今月1日に運行を再開した。町まちづくり推進課は「吾妻峡の観光や登山の際は、クマ鈴を持参して複数人で歩くなど、各自で対策もとってほしい」と求めている。
今年度のクマによる人的被害は10人に達し、県が把握する2009年度以降で最多となった。
「死ぬかと思いました」 みなかみ町のパート女性(76)は、クマに襲われた瞬間をそう振り返った。
10月18日午後4時頃、同町高日向の山林に近い住宅地の道路で、知人が飼う雌のシバ犬「リオン」と散歩していたところ、クマが突然やぶから現れた。逃げる間もなく、頭を殴られて転倒した。
クマはうつぶせになった女性に乗り、背中や肩をひっかいて上着を引っぱり始めた。「やぶに引きずり込まれる」と直感し、「助けて」と大声を出すと、それまでおとなしかったリオンがほえ、驚いたクマは逃げた。「クマの動きが素早く、抵抗もできなかった」
女性は頭の骨を折り、全身に傷を負った。服はぼろぼろになった。
入院して治療や抗生物質の点滴を受けた。痛み止めを飲んでも2週間の入院中は傷が痛んだ。退院した今も手のしびれが残るという。クマへの恐怖から、自宅の雨戸は必ず閉めるようになった。
襲われた翌日、現場近くで猟友会がクマ5頭余りを駆除した。その後、付近で出没情報はない。
けがは軽くても、爪などに付着した細菌により、感染症で重症に陥るケースがある。
沼田市でクマに襲われ、右肩などに裂傷を負った60歳代男性は軽傷と診断され、自宅で療養していた。しかし高熱が出て3日後に受診したところ、皮下脂肪組織に侵入した細菌が痛みや発熱を引き起こす蜂窩織炎(ほうかしきえん)と診断された。ほかの人への感染はないが、約2週間の入院が必要となった。
クマに詳しい獣医師の坂庭浩之さん(60)は「傷の適切な治療管理を行わないと、重篤な感染症になるおそれもある」と話している。
前橋市は7日、市内でクマの食害や目撃情報が相次いでいる状況を踏まえ、柿の木を伐採した世帯に1本当たり1万円の奨励金を交付する事業を始めた。1世帯上限3本で、事業費150万円は予備費で対応する。来年2月27日まで受け付ける。
市農政課によると、対象地区は大胡、宮城、粕川、富士見の4地区と田口町、小坂子町、嶺町、金丸町。周辺では柿の木のそばでの出没や柿の実を食べたとみられるふんの確認が相次ぎ、10月下旬以降に31件の被害が報告されているという。
申請には伐採前後の写真が必要で、市農政課や各支所に提出する。
柿の木がクマを住宅地に引き寄せているとして、小川晶市長は「伐採や剪定(せんてい)、実の早期収穫などでの協力をお願いしたい」と話した。

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