梅毒感染者が激増!ソープランド経営者が語る「コロナ禍と外国人客が招いた」驚きの影響

  • このエントリーをはてなブックマークに追加

日本の中で急激に増加している梅毒。いったい日本の性の世界で何が起きているのか。風俗業界で働く人々の声をもとに【前編:梅毒感染者が激増の意外な背景】につづいて考えていきたい。
なぜ2022年の今、梅毒の新規感染者が急増したのか。首都圏でソープランド3店を経営する男性は次のように話す。
「原因は、新型コロナだよ。コロナのせいで、これまでの風俗のあり方が根っこから変わってしまったんだ。店のサービスも、客の要求も、女の子の質も何もかも。ちょっと前には考えられない状況になった。よく考えれば、その変化がことごとく梅毒を増やす要因になったんだ」
新型コロナの感染が拡大したことで、風俗業界でどのような変化が起きたのか。
2020年春以降の流れとしてあるのが、風俗嬢が個人売春をする率が高まったことだという。
緊急事態宣言が出された時、店舗型のソープランドは一斉に店を閉めた。ソープランドは合法的に営業しており、かつ監視の目が厳しいため、「お上」に逆らうことをしたがらないのだ。
だが、店で働く女の子は完全歩合制だ。店が休業すれば、当然収入を奪われることになる。かといって、大っぴらに言えない職業である上に、これまできちんと納税していないので、国に支援を求めるわけにはいかない。
そこで彼女たちは自力で生き延びようとした。それまで店に通ってきてくれていた常連客に連絡を取って外で個人的に会ったり、スマホのマッチングアプリなどを利用したりして個人売春をはじめたのだ。それまではソープランドという限定された店舗で働いていた女性たちが、野に放たれるように外で売春をするようになったのである。
さらに、ソープランドの方でも大きな変化が起きた。店の多くは2020年の夏までに営業を再開したが、この頃から客の質が大きく変わった。感染症に無頓着な人が増えたのだ。
コロナ禍においてソープランドを利用するのは、新型コロナどころか、性感染症すら気にしないような人たちだ。病気を怖がる人は遊びに来なくなり、そうでない人の割合が増えていく。すると、店としてはサービス内容を後者の人間に合わせなければならなくなる。
先の経営者は次のように述べる。
「お客さんが病気のことをあまり気にしなくなったね。それでノースキン(コンドームなし)の要求が急激に高まったんだ。ノースキンの個人売春に慣れたということもあったかもしれない。
いずれにせよ、ノースキンの店ばかり客が集まるもんだから、今までそうじゃなかった店もノースキンに切り替えざるをえなくなってきた。ノースキンじゃなきゃ、店はやっていけないという事態になったんだ。こうなれば、当たり前の話だけど、性感染症は広まるよな」
不景気で風俗嬢が増加して競争が激しくなったばかりか、数少ない客の多くがノースキンを求めるようになれば、女性たちは嫌々ながらも要求を受け入れざるをえなくなってくる。これによってノースキンの波がドミノ倒しのように起きたのだ。
【前編】に登場した吉原のソープランドの経営者は言う。
「吉原もノースキンブームだね。ノースキンじゃないと店がつぶれるくらいだよ。でも、これじゃ、梅毒は広まるばかりだよね。だって、今まで潜在的な梅毒感染者がたくさんいたところに、ノースキンに個人売春となれば、どうやったって感染拡大しないわけがないじゃないか」
これまでソープランド業界の水面下でゆっくりと広がっていた梅毒。これがノースキンブームと、個人売春の増加によって世間に拡大していったというのである。
これは感染者の内訳からも明らかだという。国が発表した統計によれば、梅毒感染者を年代別に分けると、もっとも多い層が男性が30~34歳、女性が20歳~24歳となっている。人数としては、男性が女性の倍くらい多い。これについて先の経営者は次のように分析する。
「男と女で10歳違うってことは、普通に考えれば風俗での感染だろ。一般的には、恋人じゃここまで年齢は離れないし、そもそも経験の少ない20代前半の女の子の感染率が高くなるわけがない。また女の子が売春を介して多数の男性とセックスして感染を広めていると考えれば、男の感染者が多くなるのは当たり前だよね」
では、今後どうなるのか。彼らによれば、さらに増加することは間違いないという。
現在のソープランド業界では、ノースキンの流行を止めることは不可能だそうだ。さらに、新型コロナの影響で売春する女性が増え、個人売春に流れる人も増えている。そう考えれば、梅毒がさらに広がることは必至だそうだ。
吉原の経営者はこう語る。
「性感染症の震源地は昔から売春なんだよ。そこで食い止めなければ感染拡大は止められない。じゃあ、どうすればノースキンが減るかっていえば、俺は外国人客が3倍、4倍と増えることだと思っている。
女の子たちは日本人相手なら仕方なくノースキンでサービスをするけど、外国人にはノースキンNGというケースが多いんだ。だとしたら、もし店の客の7、8割が外国人になったら、スキンをつけたサービスがスタンダードになるだろ。そうなれば感染を少しは抑えられるんじゃないかな」
あまりに極端な意見である気もするが、彼らは現場感覚としてそう考えているのだろう。
本記事はあくまでソープランドの経営者の「視点」から梅毒の増加について検討したものだ。これが日本における梅毒感染のすべてだと思わないし、他にも様々な要因が考えられる。
ただし、先ほどの話にもあったように、売春業界から様々な性感染症が広がっている可能性が高い。そうしてみると、現場を熟知する人々たちの目に映っている世界が事実の一端を示していることは間違いない。
取材・文・撮影:石井光太77年、東京都生まれ。ノンフィクション作家。国内外の文化、歴史、医療などをテーマに取材、執筆活動を行っている。著書に『絶対貧困』『遺体』『「鬼畜」の家』『43回の殺意』『本当の貧困の話をしよう』『格差と分断の社会地図』『ルポ 誰が国語力を殺すのか』などがある。

  • このエントリーをはてなブックマークに追加

SNSでもご購読できます。