「罪の意識は?」「まったくない」…4名殺傷犯が法廷で堂々述べた“衝撃の言葉” 【ボーガン殺人に無期懲役判決】

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2020年、兵庫県宝塚市の住宅においてボーガン(クロスボウ)を撃ち、家族3人を殺害。親族1人に重傷を負わせ、殺人罪などで起訴された野津英滉(ひであき・28)被告の裁判員裁判が9月25日から神戸地裁で開かれた。10月31日の判決公判で松田道別裁判長は野津被告に無期懲役の刑を言い渡した(求刑死刑)。
以下はこの裁判の傍聴レポートである。【前編】名が殺傷された凄惨な犯行の詳細について述べ、【中編】では、法廷で被告自身が語った自らの家庭環境と、犯行の動機について記した。【後編】では、被告が犯行をどのように振り返っていたのかについて詳述する。「後悔は?」「罪の意識は?」と弁護人に尋ねられた際、被告が残した衝撃の「答え」とは。そして、なぜボーガンを凶器に選んだのか。
【前中後編の後編】
【高橋ユキ/ノンフィクションライター】
***
【写真を見る】4名を殺傷した恐るべき凶器・ボーガンとは
裁判員裁判では被告が事件を起こすまでのインターネット検索履歴が証拠として取り調べられることがままある。野津被告も事件までに不穏なワードで検索を繰り返していた。
〈肋骨 胸骨 包丁で貫くことできるか〉〈クロスボウ 貫通しやすい〉〈ボーガン 殺傷能力〉〈クロスボウ事件 ニュースにならない〉〈ボーガン 頭蓋骨 厚さ〉
検索履歴を順に見ていくと、当初はナイフでの殺害を念頭に置いていたものの、途中から凶器をボーガンに変更したことが分かる。最終的に“家族の側頭部をボーガンで撃つ”ことを計画し実行したが、伯母に向けられたボーガンの矢は側頭部ではなく首元に発射されている。これはサイクリングを趣味としていた伯母が、事件の日も野津被告に呼び出されて自転車で現場に向かい、ヘルメットを装着したまま家の中に入ったことから、野津被告が側頭部を狙うことができなくなったためである。
陳述書で家族への憎悪をこれでもかと語り尽くしていた野津被告。そこでは、脳や腸の不調に対応できないのは家族が存在していたからだ……と述べていたはずだが、自らの手で家族を殺害した後でも、心身の不調で裁判員裁判の予定が一旦取り消されている。裁判員裁判が開かれた2025年になっても、まだ不調は続いていたようだ。被告が法廷で、坊主頭をほぼ直角に下げ、頭が胸にのめり込みそうな姿勢を取っていたことは【前編】で述べたが、被告人質問でその異様な猫背について弁護人から“どこか痛いのか”と尋ねられ、沈黙したのちに答えた。
「………首のあたりですかね」
質問に対し、常に長い沈黙を経て答える被告の発言を要約すれば、逮捕ののち拘置所に身柄を移されてから、首の痛みが発生したのだという。上半身を起こして話すことができるか、と問われると一度は顔を上げたが、次第にまた、もとの異様な猫背に戻り、弁護人が何度も被告人席のマイクの位置を調節していた。
そんな被告人質問で、被告が沈黙を挟まずに即答した質問があった。
「今現在、事件を後悔していますか?」
こう弁護人に問われると、くぐもった声で言ったのだった。
「ありません」
ところで被告は殺害した祖母、母親、弟の遺体の脇にそれぞれ盛り塩をしていた。被告なりに悼む気持ちの表れかと思いきや、全く違う思いからだったという。
「結界を張るため……霊媒的な意味での結界です。本人が死んだ後、霊媒体となって僕に取り憑いてくるのをなるべく避けないといけない。盛っておきました」(被告人質問での発言)
殺害した家族らに取り憑かれることのないよう、自分を守るための“結界”だったようだ。そんな被告は、逮捕時の気持ちを問われ「……やっと始まったなっていう感じですね」と、やはり、くぐもった声で振り返っていた。曰く、逮捕によって“自分が死刑になるための計画”がいよいよスタートしたと思ったようだ。つまり裁判員裁判も、被告にとっては、自分が死刑になるための計画が現実になりつつある、という状態に過ぎない。被告の目的は自分の思いを周囲に知ってもらってから死ぬことだ。そして現時点で計画は被告から見れば“順調”にいっているということなのだろう。
ならば、殺害した家族に取り憑かれようと、構わないのではないか。裁判員の一人がこう問うた。
「死ぬつもりだったのなら、どうして取り憑かれるのが嫌だったんですか?」
常に答えの前に沈黙を挟む被告が、この質問には驚くほど長く沈黙したのち、自分の“死に方”に対する美学を開陳した。
「取り憑かれるまでの間に、そういった……霊障……霊的な障害、そういったものが生じて死ぬより、綺麗なうちに死んだ方がいいと思う。当然のことと思う」(被告人質問での発言)
そして別の裁判員から「罪の意識はありますか」と聞かれ、これまでと同じゆったりした調子で答えた。
「全くないですね」
被告は事件前、学費未納により大学を除籍になっていた。かたや専門学校に進学した弟は希望の業界への就職を決め、交際相手もいた。事件を起こしたのは弟が就職先の社員寮に引っ越す前日だった。引っ越してしまうと家族を殺害するチャンスがなくなると考えてのことだったという。被告が家族に抱えていた不満は、それぞれは些細なものだが積み重なったことで増大していた。とくに母親に対する不満は、被告が思う“普通の母親”のように愛してほしい……という願望の裏返しにも見える。
しかし「いよいよ始まった」と思っていたはずの、“死刑によって死ぬ”計画は、被告が思うようには進まなかった。神戸地裁は野津被告に無期懲役という判決を言い渡した。犯行当時の完全責任能力は認めながらも、被告の強迫性障害や発達障害が動機形成に影響したと認定している。
確実に死刑になるために、恨みを抱いてはいなかった伯母に対しても矢を放った野津被告。自身の目的のために、他者の命を奪おうとしたことを、いつか後悔する日は来るのか。
【前編】では家族ら4名が殺傷された凄惨な犯行の詳細を記している。【中編】では、法廷で被告自身が語った自らの家庭環境と、犯行の動機について詳述している。
高橋ユキ(たかはし・ゆき)ノンフィクションライター。福岡県出身。2006年『霞っ子クラブ 娘たちの裁判傍聴記』でデビュー。裁判傍聴を中心に事件記事を執筆。著書に『木嶋佳苗劇場』(共著)、『つけびの村 噂が5人を殺したのか?』、『逃げるが勝ち 脱走犯たちの告白』など。
デイリー新潮編集部

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