東京都板橋区の住宅街の一角に「縁切榎(えんきりえのき)」という小さな神社がある。敷地面積はわずか3坪足らずで、鳥居もお社(やしろ)も小さい。どこか頼りなげな外観だ。
にもかかわらず、他人に呪いをかけられる、嫌いな相手と縁が切れるとの触れ込みでオカルト界にその名を馳せ、現に境内には誰かへの憎しみに溢れた絵馬が所狭しと奉納されている。
今年創刊27年目を迎えた月刊誌「裏モノJAPAN」では、ごく普通の人々の暮らしや悩み、気になる行動を取材したルポルタージュを定期的に掲載。特に人気の22本を収録した新刊『調査ルポ この日本の片隅で』(鉄人社)では、「呪いの絵馬を書く人の心理」にも迫っている(※取材実施は2018年)。
わざわざ、このような神社に足を運び、誰かを呪ってやりたいと絵馬を書く人たちは一体どのような事情を抱えているのか。
同書より、一部抜粋、再編集した上で紹介する。
【1回目/全2回】
最初に話を聞かせてくれたのは、パサパサのひっつめ髪とピンク色のくたびれたコートの推定40代後半の女性だ。彼女の書いた絵馬の内容はかなりヘビーだ。事故かガンで死ねだなんて、いったい何があったのか。
【絵馬の内容】
夫の●●●●と縁を切りたい。●●(下の名前)さようなら。女たらしの暴力男と暮らしていく気はありません。息子のためにも不慮の事故かガンを再発させて、いっそこの世から消えてほしい。
–(編集部員)今日は旦那さんのことでこちらに?
あ…はい。夫と離婚したくて。昔から浮気グセがひどいんです。相手は飲み屋の女の人が多いんですけど、私に内緒で旅行へ行ったりだとか。連絡が一切取れずに1週間以上も家を空けたこともあったし。しかも、本人を責めると平気で手を上げてくるんですよ。最低ですよね。もう我慢の限界なんです。
–普通に離婚を持ちかける手もあるのでは?
それがダメなんです。離婚の話は結構前からしてるんですけど、まったく聞く耳を持ってくれなくて。離婚調停も一回やったんですよ。
でも、それも上手く話がまとまらなかったんですよね。夫は口が達者というか、外ヅラが良いんで、調停委員が丸め込まれちゃったんです。あっさり。
–この神社へは初めてですか?
友人に夫のことを相談したら、その子がここは縁切りとか呪いのための神社だから願掛けしてくればって勧められたんです。私もそういうのは結構信じるタイプなんで、イイこと教わったなって感じで。実際、来てみて良かったです。
すごくそれっぽいパワーが漂ってるっていうか、なんかこう、あのお社(やしろ)の方から負のオーラが出ているの感じません? 私、すごく感じますよ。最初は普通に夫との縁が切れますようにって願ってたんですけど、だんだんブラックな自分が出てきて、最終的にちょっと呪いの文っぽくなっちゃったんです。やっぱり有名な神社だけあってすごいですよね。
–この世から消えてほしいというのは本音ですか?
そういうことになりますね。普通のやり方で別れられないので、呪うしかないんだろうなって思います。
* *
当然のように離婚の最終手段として呪いを持ってくるとは。もっと現実的な方法はたくさんあるだろうに。
お次は、30代半ばと思しきスーツ姿の男性だ。一見、マジメそうな雰囲気だし、呪いの神社など場違いに思えるが、絵馬の文面はかなり怨嗟がこもっている。内容からして佐川男子クンは、この人の恋敵なんだろうか?
【絵馬の内容】
■■(女性の名前)に言い寄っている佐川急便の●●●(男性の名前)。あのクズ男にドン底の不幸が訪れますように。配達中に事故って死ね!
–ここに来た目的を教えてください。
ちょっとムカつくヤツがいるんで、それでまあ……。職場に後輩の女の子がいるんですけど、その子のことを狙ってるんですよ。
うちの会社に荷物を届けに来るたび、馴れ馴れしく話しかけたりして。まあ、彼女、すごく可愛いから、モテるのはしょうがないんですけどね。
–その子はあなたの恋人?
正式に付き合ってるわけじゃないけど、それに近い関係かな。結構、俺のこと頼ってくれるし、時々ランチに行くこともあるし。だから佐川のヤツがすげームカつくっていうか。ハッキリ言って邪魔者なんです。
職場に荷物を持ってくるときに彼女としゃべったりするのはまだいいんですよ。俺もそこまで心が狭いわけじゃないから。でも、プライベートで彼女と遊びに行くとかあり得ないでしょ。映画館とか水族館とか、俺が知ってるだけで3回はデートしてますもん。
–彼女は佐川の人が好きなのでは?
それはありえません。たぶん、アイツにしつこくデートを誘われて、断れなかったんじゃないかな。本当に心の優しい子だから。道端で寝てる酔っ払いにわざわざ声をかけてあげたりとか、そういう子なんですよ。あの、もういいですか?俺、急いでるんで。
* *
話を聞いている限り、単に佐川男子クンを逆恨みしているだけに思える。勘違いならいいがこの人、ストーカーだったりしないよね?
つづく記事〈「毎朝セブンのおでんを買うハゲ、この世から消えろ!」…縁切り神社で呪いの絵馬を書く人に事情を聞いてみた〉では、呪いの絵馬を書く人の知られざる事情をさらに紹介する。
【つづきを読む】「毎朝セブンのおでんを買うハゲ、この世から消えろ!」…縁切り神社で呪いの絵馬を書く人に事情を聞いてみた