「外国人が多い町」に見つけた共通点 新大久保でも西川口でもない“意外な地域”に注目すると

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7月の参院選で争点となった「外国人問題」。10月4日に新たに自民党総裁に選ばれた高市早苗氏は、不法滞在者や外国人の土地取得への対策強化を打ち出しており、日本の移民政策は転換点を迎えることになりそうだ。「外国人問題」が争点化した背景のひとつに、首都圏郊外で外国人比率が急増している現象がある。都内マンションの販売価格を定点観測し続けるマンションブロガー「マン点」氏は、そうした「外国人の多い地域」には“意外な共通点”があると指摘する。同氏のレポートをお届けする。
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【写真を見る】日本人よりも外国人の方が多い 川口市芝園町の「外国人比率」推移
中国人やクルド人の居住者が多いことから、いつしか“隠れチャイナタウン”、“ワラビスタン”の別名を持つようになった、埼玉県のJR蕨駅周辺のエリア。その象徴として語られることが多いのが、西口から歩いて10分ほどの場所にある「芝園団地」だ。
9月中旬、実際にこの大規模団地の周辺を歩いてみると、驚きの光景が広がっていた。
団地中央にある広場では子ども達がはじける笑顔で駆け回っているが、よくよく聞くと、耳に届く言葉のほとんどは中国語だ。団地の1階にある商店に入ってみると、レジ前に広がっていたのは「月餅」のフェアで、酒売り場には見たことないメーカーの紹興酒や白酒が揃っていた。もの珍しさに1本手に取ってレジに向かうと、なんと店員からは中国語で話しかけられた。
UR都市機構が運営する川口芝園団地は総戸数2454戸で、「川口市芝園町」全体の9割近くを占める大規模団地である。この地域は住民のうち実に59.6%が外国人(2025年1月1日現在)だといい、日本人が減り外国人が次々に入居していく様子は、オセロの石がひっくり返る光景を連想させる。
芝園団地はこのエリアに限った特殊な状況なのか、それとも「第2の芝園団地」と呼べるようなエリアが他にも存在するのか、興味を持った筆者はまず、最新の2020年国勢調査の結果を調べてみることにした。
2020年の国勢調査によれば、首都圏の1都3県における「人口が100人以上」かつ「外国人比率20%以上」の条件を満たすエリアは75箇所だった。
そこから人口規模の差で割合が大きく動く影響を鑑み、条件をさらに「総人口5000人以上」のエリアに絞ると、対象は下記の5エリアとなる。
・豊島区池袋二丁目・新宿区大久保二丁目・川口市西川口・江東区大島四丁目・江戸川区清新町一丁目
このうち、豊島区池袋二丁目と川口市西川口は「リトルチャイナタウン」として有名で、新宿区大久保二丁目は日本有数のコリアンタウンとして知られている。
耳慣れないのは、「江東区大島四丁目」と「江戸川区清新町一丁目」だ。
江東区大島四丁目は都営新宿線の西大島駅から徒歩5~10分の好立地。新宿駅へは乗り換えなしで行ける。1キロ圏内には住吉の猿江恩賜公園内、総合区民センター、スポーツ会館、砂町図書館などの運動・文化施設がそろう。大島四丁目エリアの大半において、洪水ハザードマップでは3~5mの浸水が2週間以上、高潮ハザードマップでは5~10mの浸水が1週間以上と想定されているが、この地域の大部分を占める大島四丁目団地(後述)は周辺より地盤が高いことから、団地一帯が避難場所に定められている。
江戸川区清新町一丁目は東京メトロ東西線の西葛西駅から徒歩10~15分程度。大手町駅まで直通で15~20分程度。豊かな自然と公園に囲まれており、西側に荒川を望むリバーサイドに立地する。生活環境は非常に穏やか。インド人コミュニティが目立つ「リトルインディア」を形成している。江戸川区内の多くがゼロメートル地帯で洪水・内水氾濫などのリスクが非常に高いとされているが、清新町は地盤が相対的に高く、区内でも数少ない「広域避難エリア」の指定地域となっている。
この2つのエリアでは、なぜ外国人比率が20%を超えるのだろうか。
まず、過去4回の国勢調査の結果から、江東区の大島四丁目の人口推移をグラフ化した(次図)。
総人口が横ばいで推移している中、外国人比率は2005年の4.2%から2020年には20.1%と約5倍に急増している。
同様に江戸川区清新町一丁目の人口推移をグラフ化すると、次のようになる(次図)。
こちらは総人口が右肩下がりに推移するなか、外国人比率は2005年の4.9%から2020年の21.6%の約5倍に増加。川口市芝園町の人口推移に通ずる変遷を見せている。
実は、この2つのエリアには、先述した川口市芝園町と同様、「UR賃貸」がある。
江東区大島四丁目にはその名も「大島四丁目」という1~7号棟・2514戸からなる大規模な団地がある。
また、江戸川区清新町一丁目は「葛西クリーンタウン 清新プラザ」「清新南ハイツ(賃貸)」(1543戸)のUR賃貸のほか、「清新北ハイツ」「清新中央ハイツ」「清新南ハイツ(分譲)」といったUR分譲(1978戸)や東京都住宅供給公社の「シティコープ清新」(分譲:399戸)、「コーシャハイム清新」(賃貸:322戸)など、合計4242戸の団地群で構成されている。
「大島四丁目」は1969年竣工(築56年)。高度経済成長期の住宅供給政策に基づき、工場跡地に開発された。現在江東区の「都市計画マスタープラン」や「浸水対応型まちづくり」政策の重要拠点の一つ。防災拠点、緑道公園、商店街との連携を進め、団地建て替え(2025年以降段階的に着手予定)を契機に全面的な再生まちづくりが推進されている。
「葛西クリーンタウン 清新プラザ」は1983~1984年に供給された。江戸川区の埋立地を活用したニュータウン事業の一部。現在は地域住民の多文化共生や高齢化対応に注力し、コミュニティ・防災拠点として整備が進められている。
戸数ベースで町の9割近くをUR賃貸が占める芝園町の例とは異なり、大島四丁目(UR賃貸比率:約7割)、清新町一丁目(同:約4割)のUR賃貸に、どれだけ外国人の居住者がいるかを推測することはできない。ただ、建物の老朽化が進み、だんだんと日本人が流出する一方で、「礼金なし・手数料なし・更新料なし・保証人なし」を売りにするURの賃貸住宅が外国人のニーズに合致し、地域の国際化を一気に推し進める要因になった可能性はないだろうか。
〈編集部が江東区と江戸川区に対し、外国人居住者が多い理由、UR賃貸住宅の影響について尋ねたところ、以下のように回答があった。〉
「お尋ねの大島四丁目や大島六丁目が、外国人比率の高い地域であることは把握しております。また、そうした地域にURの公営団地があるのも事実です。ただ、区内の他のエリアにもURの賃貸住宅はございますし、UR賃貸と外国人比率の関係性を調べた調査結果があるわけでもありませんので、この地域の外国人比率が高い理由について、確かなところはよく分かっていません」(江東区・区民課の担当者)
「清新町一丁目の外国人比率が高いのはその通りです。ただ、公営団地と言っても民間の賃貸と比べて極端に家賃が安いわけではありませんので、UR賃貸などが外国人比率を上げる要因になっているかは何とも言えません。我々の共通認識として、この地域は特にインド国籍の方が多く、それはインドの大手IT企業の日本支社の多くが大手町にあることが関係しているそうです。大手町まで東西線を使って1本で通え、都心と比べ家賃の安い西葛西にそのようなIT企業に勤めるインド人の方が増え、インド人のコミュニティもできています。清新町一丁目は西葛西に近接するエリアですので、インド人の方が集まりやすいのかも知れません。ちなみにUR都市機構さんは、インド人コミュニティと地域住民との融和を図る催しもされていますね」(江戸川区・地域振興課の担当者)
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折しも9月から10月にかけて、2025年の国勢調査の実施の最中だが、最新結果が公表された時、私たちはどのような現実と向き合うことになるのだろうか。
【著者プロフィール】マン点(まんてん) マンションアナリスト。一級建築士。20年以上続けている不動産ブログ「マンション・チラシの定点観測」の管理人X(旧Twitter):https://x.com/1manken
デイリー新潮編集部

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