物価高は我々の生活のあらゆる側面に影響を与えている。ホットペッパービューティーアカデミーが公表したデータによれば、「理容室を利用したことがある」という女性が14.3%にのぼり、一定数の女性が理容室を利用していることが明らかになった。「高い美容院をやめた」という利用者に話を聞くとともに、大手ヘアカット専門店に女性客の実態について取材した。
【画像】女性客が増えているという大手10分カット専門店
リクルートが運営するホットペッパービューティーアカデミーは、2025年より理容室の利用実態について女性への聴取を開始し、「美容センサス2025年上期【理容室編】」でデータを公表した。
それによれば、理容室の市場規模(2939億円)のうち、女性の市場規模は178億円で、「過去に理容室を利用したことがある」という女性は14.3%にのぼるという。
理容室を使う理由として、「気軽に入りやすい、緊張せずに入れる」「施術が短時間でできる」「費用対効果が高い」が上位に入り、理容室の利点を支持する女性が一定数いることがわかった。
同アカデミーの担当者は、女性への聴取を始めた経緯を次のように話した。
「いわゆる1000円カットをはじめ、価格や利便性を理由に理容室を利用する女性が一定数存在することを確認しており、従来の『男性中心』という枠にとどまらない実態が広がっています。
また、近年、性別にとらわれず自分らしいヘアスタイルを楽しむ価値観が広がっており、バーバーを利用する女性やメンズライクなスタイルを選ぶ女性も増加しています。こうした社会的な変化を正しく反映するため、女性も調査対象に加えることとしました」
SNSにもこんな声があがっている。
「女ですが、高い美容院でなく激安カットで充分」
「アラサー女、QBハウスで初カットしてきた。店員さんが女性だったので思い切って入店」
「美容院代の節約のため1000円カットに行くことがある」
また、都内に住む70代の女性も、長年通っていた美容室から、料金の安いカット専門店に乗り換えたという。
「以前はノンケミカル(化学物質を使わない)が売りの美容室に通っていました。でも追加メニューをすると、その次から必ずそれがオーダーに組み込まれて値段が上がっていって。そのうちオーナー以外のスタッフがいなくなり、経営が苦しいのが伝わってきて、嫌気が差して行くのをやめました。特にカットが上手いとも思わなかったしね。
もともと美容室に行くと緊張するから、滞在時間はなるべく短くしたいし、雑誌見ながら美容師さんとおしゃべりするのも苦手。それに、これまではずっとパーマをかけていたけど、世の中のトレンドも変わってカットだけでもOKになったから、今はカット専門の店に変えたよ。値段は2500円くらい。
お客さんは老若男女いて、あまり場違いな感じは味わわずに済むし、上乗せ施術はいっさいないから気楽です。知り合いの女性はさらに安い1000円カットに行ってるみたい。毎回1万円近く安く済むのは大きいです」
美容室独自のサービスや高額な施術料金を負担に感じる消費者が増えている現状について、ヘアカット専門店「QBHOUSE」などを展開するキュービーネットホールディングスの担当者に話を聞いた。
「地域差もありますが、10年ほど前と比較すると女性のお客様は増えているのではないでしょうか。データを見ますと、(全国平均では10%ほどですが)地域によっては15%が女性というところもあります」
担当者によれば、同社では店舗の登録区分は「美容所」登録が約67%、「理容所」登録が約30%、美容・理容併設が約3%となっており、「理容室/美容室」と営業形態を分けているわけではないものの、女性客の増加を実感しているという。
「女性のお客様からよく聞かれるのは『美容室と美容室の間に使う』という声です。つまり、髪型をガラッと変えるときは美容室に行って、少し毛先をそろえるとか枝毛が気になるというときに来店されることが多いようです。
また、最近は女性でもツーブロックのスタイルにされる方が増えていますが、刈り上げた部分だけを整える目的で来店される方もいらっしゃいます。女性に限らず、『お気に入りのヘアスタイルを維持したい』というお客様が多いです。物価高の中で、美容室と効率よく使い分けをされているという印象があります。
また、商材の売り込みをされないというのも、美容室との違いかもしれません。シャンプーやトリートメントなどを売り込んでこられたりするのが嫌いなかたはいいかもしれませんね」
さらに、同社ではこんな取り組みもしているという。
「理容師や美容師の免許を持つ、子育てを終えた40~50代の女性を積極的に採用させていただいています。そうした方々は子育てでブランクがあり、顧客も持っていないことが多いため、一般的な理美容室では不採用にされてしまいます。我々は『ロジスカットスクール』という社内研修制度を設け、ブランクのある女性に向けても研修を行なっています。QBHOUSEで働く女性が増えてきたことも、女性のかたが入りやすくなってきた要因の一つではないかと見ています」
女性客が増えた要因には、最近の物価高の影響もあるという。
「割引クーポンを利用していろいろな美容室を利用される方も多いと思いますが、美容室からすればリピートしてほしいので、悩ましいですね。そうした状況も影響してか、今、美容室が過去最高の倒産件数になっています。
さらに、理容師の数が減ってきています(令和4年度末時点で204,883人・10年前と比較して33,203人減/厚生労働省「衛生行政報告例」)。昔は理容師と美容師が半々くらいでしたが、今は理容師免許を取る人がほとんどいなくなってきています。
この状況のままでは、皆さんが行かれる美容室がなくなる、ということが起こり得るかもしれません。特に、地方から『自宅兼店舗』というような理美容室がどんどんなくなってきていますので、理美容室難民が出てくるのではないかと考えています。こうした現状を少しでも多くの方に知っていただき、理美容師に関心を持っていただけたらと思います」
物価高が進む中で、「コスパ」を重視する消費者がさらに増えるだろう。それでも、理美容業界が創り出してきた技術やサービスの価値が失われるわけではない。
取材・文/集英社オンライン編集部ニュース班