「死の恐怖」慰謝料1か月あたり100万円、計4億円と算定、袴田巌さん弁護団「苦しみは察して余りある」

  • このエントリーをはてなブックマークに追加

1966年の静岡県一家4人殺害事件で強盗殺人罪などに問われ、再審無罪が確定した袴田巌さん(89)は9日、捜査や裁判で違法行為があったとして、国と静岡県に約6億円の損害賠償を求める国家賠償請求訴訟を起こした。
警察や検察に加え、捜査機関が証拠を捏造(ねつぞう)した可能性を見過ごしたとして「裁判所」も訴えた。
確定審で犯行着衣と認定されていた「5点の衣類」は、昨年の再審無罪判決で、袴田さん以外の人物がタンクに入れたとし「捜査機関による捏造」と認定された。
弁護団は、確定審の裁判官などが十分な検討をせず、捏造の可能性を見逃したのは「きわめて重大な過失」と指摘。小川秀世弁護士は「裁判所の責任はものすごく大きい。猛省を促したい」と強調した。
一方、過去の判例によると、裁判官の責任が問われるのは、裁判官が違法または不当な目的をもって裁判したなど「特別の事情がある」必要性が指摘されており、違法性を追及するハードルは高い。
記者会見で、笹森学弁護士は「訴えを提起することに意味がある」とした上で、「裁判所のいい加減な判決は、特別の事情にあたると考えている。責任はあらゆる人にとってもらわないといけない」と力を込めた。
弁護団は訴状で、再審公判で捏造と認定された「5点の衣類」「自白調書」などだけでなく、多くの捏造や違法捜査が行われたと指摘した。小川弁護士は「捜査機関は残忍な事件だと認識しながら、真犯人に関わる証拠を隠し、あるいは捜査を続けないで、むしろ袴田さんをターゲットに犯人に仕立て上げるような捏造工作ばかりした」と強調した。
訴状では、取り調べについて、連日、平均約12時間という長さや、十分な水分補給や食事などを与えない劣悪な環境について指摘。「警察は手段を選ばず、原告から何が何でも自白を獲得することを組織として行っていた」と非難した。
このほか、「検察側が犯行着衣を当初のパジャマから捜査機関が捏造した5点の衣類に変更したことは違法だ」と主張している。
弁護団は、死刑執行の恐怖に対する慰謝料を約4億円と算出した。弁護団によると、こうした慰謝料が認められた例はないが、訴状では「理不尽さに対する悔しさと死への恐怖の狭間での苦しみは察して余りある」と強調した。
袴田さんは、1980年に死刑判決が確定。2014年に死刑執行停止と釈放が決定されるまで、約47年7か月拘束された。
袴田さんは、獄中から家族へ送った手紙で「どうしても死というものが恐(こわ)い」(85年12月)と、死刑執行への恐怖心を訴えた。弁護団は死刑確定から死刑執行停止までの精神的苦痛を、1か月あたり100万円と算定した。
袴田さんは「拘禁症」を発症し、今でも意思疎通が難しく、ひで子さんや支援者の介護が欠かせない。訴状は、こうした介護費用(約4300万円)も請求に盛り込み、「(袴田さんが)精神の変調まで来したことも考慮すれば、慰謝料は極めて大きいと言うべきだ」と強調した。

  • このエントリーをはてなブックマークに追加

SNSでもご購読できます。