「えん罪」関与の捜査関係者らに“表彰状”贈呈、その真意とは…「大川原化工機事件」モチーフの新聞広告に込められた“痛烈な”皮肉

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無実の人が犯罪者として扱われ、人生や尊厳が傷つけられる「えん罪」は、国家による重大な人権侵害だ。
10月2日の「世界えん罪の日」に合わせ、「ひとごとじゃないよ!人質司法」(ヒューマン・ライツ・ウォッチとイノセンス・プロジェクト・ジャパンの共同プロジェクト)が中日新聞東海本社版朝刊に見開きの意見広告を展開した。
広告には、今年えん罪であることが確定し、国家賠償請求が認められた「大川原化工機事件」を題材にした、「人質司法関係者への表彰状」がデザインされている。
2020年3月、警視庁公安部外事1課は生物兵器の製造に転用可能な機器を無許可で輸出したとして横浜市の化学機械メーカー「大川原化工機」の社長ら3人を逮捕し、11か月以上にわたり身体を拘束した。
東京地検は3人を起訴。外事1課は「警視総監賞」「警察庁長官賞」を受賞し、捜査員の多くが昇進した。裁判所も、8回に及ぶ社長らの保釈請求を却下し続けた。
しかし、初公判直前に突然起訴が取り下げられ、社長らは「無実」として釈放された。
社長らは東京都と国に対し、不当な逮捕・起訴だったとして国家賠償請求訴訟を提起。2023年12月に東京地裁が違法性を認め、賠償金計約1億6200万円の支払いを命じた。
これに対し原告(社長ら)と被告(都と国)の双方が控訴し、今年5月に控訴審の東京高裁も同様に違法性を認め、賠償金を約1億6600万円に増額した。都と国が上告しなかったことで、今年6月に判決が確定した。
警視庁公安部外事1課は、東京地裁での1審裁判の終盤になって、「警視総監賞」「警察庁長官賞」を返納したというが、賞の取り消しやはく奪が行われたなどの報道はない。
今回の広告は、こうした「大川原化工機事件」の“えん罪”をモチーフとして作成された。
以下、広告の全文。
・表彰状人質司法関係者 殿あなたは捜査にあたり、筋書き通りに被疑者を逮捕するために、証言の誘導やデータの隠蔽に創意工夫を凝らしました。また、捜査の検証を省いて起訴し、保釈も却下し続けることで、有罪判決へと邁進されました。推定無罪がゆらぐほどの精勤をここに称え、表彰いたします。令和七年十月二日 「世界えん罪の日」
・ボディーコピー大川原化工機事件は、えん罪だった。にもかかわらず、警視庁公安部外事1課は「警視総監賞」「警察庁長官賞」を受賞し、捜査員の多くが昇進しました。検察は警察の違法捜査を追認し、裁判所は保釈を却下し続けました。被告人の一人は胃がんと診断されましたが、それでも保釈されず、無実が明らかになる前に病死しています。真実を曲げてでも、立件すれば評価される。それが、長期勾留で嘘の自白を引き出す「人質司法」につながっています。どうかこの問題に関心を持ってください。そして、人質司法見直しへの世論を高めてください。私たち一人ひとりの声が、えん罪を「成果」から「恥」に変えるのです。
「ひとごとじゃないよ!人質司法」では、2023年から毎年「えん罪の日」に合わせ、人質司法に関する広告を展開してきた。
広告のデザインは、毎年、株式会社電通のコピーライター橋口幸生氏と、同アートディレクターの岩下智氏、浦口果歩氏が、ボランティアで作成。
2023年の広告「真実は、曲げられる」は、日本最大級の広告賞である「ACC TOKYO CREATIVITY AWARDS(ACC広告賞)」を受賞した。
ヒューマン・ライツ・ウォッチ日本代表の土井香苗氏は、弁護士JPニュース編集部の取材に対し「毎年SNSでも多くの反響があり、私たちのメッセージが届いているのを感じる」として、広告への期待を次のように述べた。
「人質司法の問題について普段から訴えているが、広告は日頃の活動では届かない人々の目にも触れる。人質司法は国民が声を上げなければ変わらない。広告を通じて多くの人に関心を持っていただき、声を上げるきっかけになってほしい」

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