【高橋 克英】狙いは「1億円が2億円になる錬金術」…賃料利回りわずか1%でも富裕層がニセコに殺到する”本当の理由”

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今や世界的なスキーリゾート地となった北海道ニセコ。
世界中の富裕層スキーヤー・スノーボーダーを惹き付ける魅力は一体何なのか。なぜ観光・レジャー産業が大打撃を受けたコロナ禍下でも、ニセコだけが投資・開発され続けたのか…。そこには「客数より収益、消費より投資」が回す、新しい経済の姿があった。
国内外リゾート・富裕層ビジネス・地方創生にまで精通した著者が、ニセコの今と未来を徹底解説。2020年刊行『なぜニセコだけが世界リゾートになったのか』を一部抜粋・再編集してお届けする。
『なぜニセコだけが世界リゾートになったのか』連載第14回
『「一部屋14億円」でもほぼ完売「ニセコ」ホテル物件の購入者の“意外な正体”…国内外問わず注目される「都心超えの成長性」とは』より続く。
英国の高級経済紙Financial Timesのウィークエンド版のHouse Homeにある「Property Gallery」には、カラー写真付きで、英国だけでなく、フランス、スイス、スペイン、モナコをはじめ、欧州アルプスや地中海やカリブ海、米国を含め世界中の高級ホテルコンドミニアムの広告が、世界的なオークションハウスであるサザビーズやクリスティーズ、またバークシャーハサウェイといった高級不動産仲介会社によって掲載されており、世界の高級不動産物件のトレンドや水準を感じることができる。
なお、日本の別荘やマンション、邸宅の物件が掲載されることもあり、ウェブ版では東京や軽井沢や伊豆の高級マンションや別荘物件だけでなく、ニセコの高級コンドミニアムなどの物件も紹介されている。
もっとも、オーナーが私物を退避させる鍵付きのオーナー専用ロッカーなどのストックベースはあるものの、オーナーの私物を置けない(置いても盗難や損傷リスクあり)、ベッドルームやバスルームを他人に使われる、という点で抵抗感があるオーナーもいる。日本人には特に多い印象だ。自己利用を基本的に想定せず、年末年始などピークシーズンを含め貸し出しに回し、純粋な投資商品として割り切るか、または逆にインカムゲインを求めずに自身の別荘として利用するか、という選択も出てこよう。
とはいえ、日本にホテルコンドミニアムはニセコ以外では京都や沖縄の一部などにしかなく、富良野や白馬などでも増えつつあるものの、まだまだ馴染みのない仕組みだ。ちなみに、2016年に開業した京都にある「フォーシーズンズホテルレジデンス京都」は、ホテルレジデンスとしての総戸数は57戸であり、リビングやダイニングに加え、キッチンや洗濯機まで備えてあり、4億円台から10億円台で販売された。現在はリセールで1ベッドルーム106m2の部屋が7億円で売り出されていたりする。
ただし、ニセコの高級ホテルコンドミニアムの場合、インカムゲインはコロナ禍前でも実質1~3%程度だった。オーナー自身が利用できるメリットはあるものの、東京など首都圏などでのレジデンス向け不動産投資がおおむね実質3~5%前後の利回りがあることと比べれば、インカムゲインそのものにそれほど魅力があるようにはみえない。為替リスクなど条件はあるものの、海外不動産の投資利回りからみれば雀の涙のようにもみえる。
では、何が儲かるのか。それはニセコの場合、キャピタルゲインが狙えるのだ。ニセコの地価は6年連続上昇率全国1位。過去5年間で10倍以上に跳ね上がった不動産もざらにある。海外投資家の目線は、インカムゲインではなく、あくまでキャピタルゲインだ。1室1億円の物件が倍の値段で売れれば、税引き後でも相応のキャピタルゲインを得ることができるのだ。
いまだデフレ経済から抜け出し切れていない日本の不動産市場は、世界からみると、もう四半世紀以上蚊帳の外のままだ。人口減少や経済の停滞を考えれば、この先も大きな期待はできないというレッテルが貼られてしまっている。そもそも日本人自身の多くが同じように、いやそれ以上に国内の不動産投資に悲観的でもある。
そんななかで、ニセコだけが、キャピタルゲインが実際に得られた、そして今後も得られる期待がある場所として注目されてきた。デフレ下の日本の不動産市場において、ニセコほどキャピタルゲインが期待できるエリアは、東京都心などを含め、ほとんどないはずだ。
錬金術を生むホテルコンドミニアムも、一般的な分譲マンションと同様、築10年以上たつと、外壁の補修や屋根の防水工事など大規模修繕工事が必要となる。ホテルコンドミニアムの改修費は、各部屋の所有者が管理費とは別に、修繕積立金として毎月積み立てることになる。コストである修繕積立額を高く設定すれば、賃貸収入から得られる実質利回りはその分低くなる。一方で、修繕積立金を抑え、改修を先延ばしにすればするほど、物件そのものの価値や魅力は低下することになる。実際には、毎月の修繕積立金を低めに抑え、改修期に必要な費用を一括で支払う場合が多い。
中短期的にはこうした大規模修繕の問題、長期的には所有者の5分の4以上の同意が必要な建て替えの問題にも直面することになるが、それはニセコに限らず、全国津々浦々のマンションなど集合住宅にも共通する問題だ。
ニセコの場合、所有者の多くを占めるのが外国人で、海外居住で連絡や意思疎通が大変な面がある反面、彼らは修繕積立金を十分に支払うことができる富裕層でもある。所有者が日本人であっても、行方不明・音信不通に加え、高齢化や失業に伴い払えないケースは多く、全国で問題になりつつある時代、これら海外富裕層や投資家が所有する物件は、リスク管理の面からも、大規模修繕や資産価値維持の観点からも、むしろ恵まれている面があるのかもしれない。
『ニセコの高騰は“まだ序の口”…「50億円の別荘」が売れる世界的スキーリゾートの“異次元のインフレ事情”』へ続く。
【つづきを読む】ニセコの高騰は”まだ序の口”…「50億円の別荘」が売れる世界的スキーリゾートの”異次元のインフレ事情”

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