警察や軍関係、暴力団組織などの内部事情に詳しい人物、通称・ブラックテリア氏が、関係者の証言から得た驚くべき真実を明かすシリーズ。今回は、クマとの遭遇について。
【写真】クマ出没に注意…さびた標識がなんだかリアル
* * *「クマが上から降ってきた」。栃木県那須塩原市に住む男性K氏は、昨年、山中でキノコ採りをしていてクマに出会ったという。「突然のことだった。クマがいないか周りを警戒しながら採っていたんだが、頭上からクマが降ってくるとは想像していなかった」。この時K氏は、ブナの木の下でキノコを探していた。
K氏の上に降ってきたのは子グマだ。それは文字通り、降ってきたという。
「襲おうと飛び降りてきたのではなく、木を降りる途中で足を滑らせて落ちてきたという感じだった」。頭上の木の枝がガサっと大きく揺れた瞬間、見上げる間もなく、丸まった黒い物体が目の間にドサッと音を立てて転がったのだ。
「クマだ!と思った瞬間、やられると思った」。子グマとはいえクマはクマだ。そのクマがK氏の目の前にいた。
クマよけに爆竹を持ち、背中にしょっていた竹籠の中に手製の短いヤリを持っていたというK氏。
「慌てて起き上がった子グマと目が合った。だけどオレは動かなかった。怖かったがジッと動かず、声も出さず、子グマを睨んだ」。K氏を見た子グマの目はおびえたように見えたという。
「しばらく見合っていたら、子グマの方が背を向けて逃げていったんだ。木登りしながら遊んでいたのか、母クマが登らせていたのか、それともドングリを食べていたのか。オレはそれに気が付かず、木に近づいたんだろう。もし樹上にいたのが母グマだったら、オレはその場で殺されていたな」(K氏)
「あそこで慌てて大声を出し、子グマを威嚇していたら…竹籠からヤリを出そうと動いたり、子グマにヤリを向けていたら…。近くにいただろう母グマに確実に襲われていたと思う。あまりに突然のことで、本当は驚いて身動きできなかったんだが、それがよかったんだろう。急な動きや大声はクマたちを驚かせる、襲われる危険が増すんだ。子グマがやられると思った母グマは、容赦なく人間に向かってくる。親子連れのクマはおっかないからね」とK氏は振り返る。
「キノコ採りに夢中になっていると、下ばかり向いているから、近くにクマがいても気が付かないことがある。数メートルという距離で遭遇しても背中を向けて逃げてはダメ。急に立ち上がってもダメ。ゆっくり後ずさりするのがいいと言われるが、足場の悪い山の中で、クマを見ながら後ずさりすれば転ぶだけだ。転べばクマに襲われる。じっと我慢してやり過ごすしかない。クマに出くわした友人はそうやって助かった」とK氏。
「これまでクマは、よほどのことがなければ人を襲ってこなかった。あっちだって人間が怖い。でも今のクマは違う。すぐに逃げなくなった。人間を見るのが初めてではないんだろう。こっちが動きを間違えば一瞬で向かってくる」
今までは人間を見つけると向こうから立ち去っていたが、今のクマは逃げないというのだ。
「先日は県境の山の中でクマと出くわした」というが、それは山奥ではなく道路脇近くだったという。
「気が付いた時には7~8メートル先にクマがいた。こっちを見ているので、オレも動かずクマと睨みあった。あそこで動いていたら襲われただろう。クマが背を向けて離れていったからよかったが、にらみ合った数分間は生きた心地がしなかった」と話す。
K氏の周りでも、住宅街や別荘地でクマに出くわした、目撃したという話が増えているという。
「クマが出たとニュースになった地域周辺の家で、高齢男性が裏の畑で飼い犬を連れて農作業していたら、犬がクマにやられて戻ってきたと聞いた。林にむかって犬が吠えたので、リードをはずしたら、そっちに向かって飛び込んでいった。キャーンという叫び声が聞こえて犬は戻ってきたが、クマの爪でやられたらしく、顔が血だらけだったそうだ」。いつまたクマが出るのか恐ろしいが、クマよけとなる有効な対策はないらしい。
K氏は毎年お盆過ぎになると、キノコ採りに栃木や福島の山に入る。しかし酷暑のせいか、今年はキノコがほとんど生えていないという。「暑さで山に実る果物の出来もよくないようだ。どんぐりなどの木の実はまだ熟していないし、山の中にクマが食べてきたような食物が少ないんだろう」。
「これまで人間はクマの住む山奥に入り彼らの生活を脅かしてきた。今は彼らが人間の住む街に降りてきて生活を脅かしている」というK氏。
人里だけでなく住宅街にもクマが出る。クマの住む場所と人間の住む場所の間にあったはずの緩衝地帯がなくなったからだといわれる。どこがクマとの隣接地域なのか、クマの出没で初めて人間にはそれがわかる。目撃や出没情報のある近隣住人や山に入る人々には、避難訓練や防災訓練ならぬクマ被害対策シミュレーションが必要な時代になってきたようだ。