夏の風物詩といえば花火大会。都内開催の大規模な花火大会ともなれば、有料席はすぐに完売し、無料で見られる立ち見エリアは場所取りの熱気に包まれる。
「いかによい場所を確保するか」が大きな勝負どころ。早めに到着し、炎天下で数時間立ち続けても前列を守る。花火が上がるまでの時間を飲み物や軽食でつなぎながら、楽しみに待つ――そんな高揚感もまた、花火大会の楽しみのひとつだろう。
しかし、人が集まる場所にはトラブルがつきもの。田村大輔さん(仮名・40代)が体験したのは、まさに「場所取りあるある」といえる理不尽な出来事だった。
田村さんは、友人とともに花火大会の4時間前から立ち見エリアの場所を確保していた。人通りが多く、視界のよさでも知られるスポットだ。すでに多くの人で埋まり、待機は容易ではなかったそうだ。
それでも前列を押さえることができ、交代でトイレに行きつつ時間をつないでいたという。
しかし花火の開始直前、背後から6人組の若者が現れた。学生風の集団で、男性のひとりは派手な髪色に楽器を背負う姿だった。
そんな声とともに、彼らは田村さんたちの目の前に割り込んできたのだ。驚いた田村さんは思わず声をかけた。
しかし返ってきたのは、あまりにもあっけない答えだった。
悪びれる様子はなく、若者たちは楽しそうに談笑を続けた。唯一、ひとりの女性がバツの悪そうな表情を見せたが、それ以上の行動には至らなかったようだ。
田村さんは再度伝えたが、若者たちは取り合おうとしなかったという。周りの観客も困惑の視線を送るだけで、誰も注意をしなかった。
そこで田村さんは、運営スタッフに近づき小声で相談した。
だが、返答は冷ややかだったようで……。
期待していた解決にはつながらず、田村さんは諦めざるを得なかった。
やがて花火が始まり、観客の視線は一斉に頭上へと向けられた。歓声が上がるなか、田村さんの胸には複雑な思いが残る。
人が集まる場で秩序を守るのは、観客一人ひとりのマナーにかかっている。しかし、その努力は一部の無配慮な行動で容易に崩されてしまう――。華やかな花火の裏で、人の振る舞いのむずかしさが改めて浮き彫りになった瞬間だった。