「ミヤネ屋」が反転攻勢に転じたワケ 「ゴゴスマ」優位は変わらずも…“宮根隠し”が奏功か

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午後の情報番組の視聴率争いが激化している。2024年度の勝者であるTBS系「ゴゴスマ~GO GO!Smile!~」(月~金曜午後1時55分)の視聴率は変わらないが、日本テレビ系「情報ライブ ミヤネ屋」(同)がやや追い上げた。背景を考察したい。【高堀冬彦/放送コラムニスト、ジャーナリスト】
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【写真を見る】「すごいメンツ」…石井アナを支える「ゴゴスマ」の豪華出演陣
午後の情報番組の視聴率争いで、2024年度の勝者は「ゴゴスマ」。MCは石井亮次氏(48)が務めている。自分は出しゃばらず、5人のコメンテーターたちの持ち味を引き出すという新しいMC像を確立した。
放送時間帯は午後1時55分から同3時49分。「ゴゴスマ」はこの時間帯の視聴率が「ミヤネ屋」を上回っただけでなく、NHKを含む全6局の中でトップだった。世間の一部には誤解があるようだが、午後2時台から同3時台のテレビ界をリードしているのは昔も今も情報番組なのだ。
「ゴゴスマ」の制作を行っているのは名古屋に本社のあるCBCテレビ。2013年のスタート当時は名古屋ローカルの番組だったが、2015年から関東でも放送されるようになった。
一方、「ミヤネ屋」はMCの宮根誠司氏(62)の個性を前面に押し出すのが特色。3人のコメンテーターが話す機会はそう多くはなく、さながら宮根氏のワンマンショー。タイトルの通りである。
つくっているのは大阪の読売テレビ。2006年に関西のローカル番組として始まり、2008年から関東でも流れるようになった。以来、ずっとトップを守っていたが、「ゴゴスマ」にジリジリと追い上げられ、2024年度に敗れた。
今年度はどうか。4月上旬~7月末の個人視聴率を見てみたい。参考として世帯視聴率も付記する(ビデオリサーチ調べ、両番組の時間帯、関東地区)。
■日本テレビ「ミヤネ屋」個人2.3%(世帯4.7%)
■テレビ朝日「西村京太郎トラベルミステリー」などドラマの再放送個人1.5%(世帯3.1%)
■TBS「ゴゴスマ」個人2.3%(世帯4.5%)
■テレビ東京「午後のロードショー」映画個人1.0%(世帯2.0%)
■フジテレビ「ハッピーアワー」連続ドラマの再放送個人0.9%(世帯1.8%)
再放送と映画は完敗。比較にならない。「ゴゴスマ」と「ミヤネ屋」はトップを併走している。「ゴゴスマ」の数字は2024年度並みだが、「ミヤネ屋」が追い上げた。
「ミヤネ屋」の地元・関西では個人視聴率が両番組とも約2.3%で並ぶ。関西の場合は「ゴゴスマ」が数字を伸ばした。
名古屋は地元の「ゴゴスマ」が同2.3%で「ミヤネ屋」が同1.8%。タイを含めると「ゴゴスマ」が3地区を制していることになる。
なぜ、「ミヤネ屋」の視聴率が復調したのか。最近の放送では宮根氏が以前より一歩引いているからではないか。2番目以降の特集ではMC役をほかのアナウンサーに譲り、自分はコメンテーター席に座ることもある。コメンテーターが発言する機会も以前より増えたようだ。
宮根氏は近年、「嫌いなキャスターランキング」の上位組に定着してしまった。「ミヤネ屋」の最大の売り物は宮根氏にかわりないが、このところウィークポイントにもなっていた。だから宮根氏がやや後ろに下がったことにより、視聴率が復調したのではないか。
宮根氏に一歩引かせるという演出は、番組側にとって苦渋の判断だったはず。だが、「ミヤネ屋」については複数のマスコミが「宮根氏降板」「番組終了」などと報じている。どちらも具体性のない話であるものの、番組側には危機感があっただろう。
宮根氏は放送開始からしばらくは「好きなキャスター」の上位組だった。だが、アンチが徐々に増えていく。発端は宮根氏自身の私生活上の問題だった。2012年1月上旬、宮根氏には妻以外の女性との間に実子がいると週刊誌が報道した。事実だった。
番組では政治家や芸能人のスキャンダルを非難するのだから、これは大きな痛手となった。宮根氏は謝罪に追い込まれた。同6日の放送で「一から頑張っていきたい」と頭を下げた。
それにとどまらなかった。宮根氏は2024年にも批判を浴びる行為をした。同3月20日、大谷翔平選手(31)が出場したMLB開幕戦「ドジャース-パドレス」を取材するため、試合の行われた韓国に入ったのだが、ソウルの屋外喫煙禁止区域内で電子たばこを吸ってしまった。
この件を韓国有力紙『朝鮮日報』がオンライン版で報じた。日本のマスコミも追従した。「ミヤネ屋」は著名人のモラル違反も批判するのだから、これも打撃だった。
「ミヤネ屋」は宮根氏のワンマンショーに近いから、同氏への批判が高まると、番組の支持に影響する。視聴率が落ちてしまったのは無理からぬ話だった。
「ミヤネ屋」には、ほかにも反感を買っている出演者がいた。コメンテーターの高岡達之・読売テレビ特別解説委員(61)である。2022年には週刊誌による「嫌いなコメンテーターランキング」で1位になってしまった。
高岡氏の発言はSNSで批難されることが少なくなかった。たとえば2024年5月20日放送でのこと。男系に拘るか女系を容認するかで市民の意見が割れている皇位継承問題について、こう解説した。
「国民投票をという方もいますが、皆さんが同じだけの知識を持って臨まないと。たとえば男系を主張されている方々からすると、『にわかの知識』で言うのはやめてくれよという話にも当然なる」
女系天皇容認派は知識不足と言わんばかりの発言だった。皇室問題研究の権威の1人は「継承問題は一般国民による一般的な感覚による選択で十分」と反発した。
一方、「ゴゴスマ」の石井氏は制作会社・CMサイトが調べた2024年の「アナウンサー人気ランキング」で5位だった。地方局を中心に活動するアナでは最上位である。ほかの調査でも上位にランクインしている。
人気ランキング調査に寄せられた声を見ると、その魅力は「必死さや真面目さが伝わってくる」「今は一番親しみがある」。人気者になっても庶民感覚を失わないところが共感を生んでいるようだ。
石井氏は以前から信条を「誰も傷つけないこと」と言っている。確かに放送中に声を荒らげることはない。誰かを糾弾したり、正義の味方を気取ったりすることもしない。2000年代までのMCとは大きく違う。
旧来のMCは「自分が主役」という意識も強かったが、石井氏はコメンテーターにも気を遣っているのが分かる。8月8日放送にはコメンテーター5人が出演し、うち1人は政治ジャーナリストの鈴木哲夫氏(67)だった。しかし、この日は政治を扱わなかった。
このため、鈴木氏は1時間近く沈黙。この人も出しゃばるタイプではない。すると石井氏はお盆の天気や交通情報を伝えていた際、「鈴木さん、お盆はどうされるんですか?」と水を向けた。
「お墓参りです」と答えた鈴木氏。以後、鈴木氏は高校野球・広陵高(広島)の暴力問題など得意分野以外の話題にも積極的に意見を口にした。石井氏による人を話しやすくするテクニックも番組の隠れた見どころである。
この日はスポーツ心理学者の田中ウルヴェ京氏(58)もコメンテーターだった。シンクロナイズドスイミング(現アーティスティックスイミング)の元五輪メダリストである。田中氏は広陵高の問題について「選手間の暴力の問題は世界中にある」としながら、今回の対処の不備を細かく指摘した。これが、コメンテーターが5人も出ている理由の1つなのだろう。知識の幅が広い。
午後の情報番組の覇者争いは続く。
高堀冬彦(たかほり・ふゆひこ)放送コラムニスト、ジャーナリスト。1990年にスポーツニッポン新聞社に入社し、放送担当記者、専門委員。2015年に毎日新聞出版社に入社し、サンデー毎日編集次長。2019年に独立。前放送批評懇談会出版編集委員。
デイリー新潮編集部

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