【Mr.tsubaking】「トー横には手遅れな子も…」【工藤会元幹部】が子どもの未来を憂うワケ

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福岡県北九州市の「京町銀天街」にあるうどん店「元祖 京家」を経営する中本隆さん(59歳)はかつて、北九州に本部を置く特定危険指定暴力団「工藤会」の幹部だった。
20年以上ヤクザの世界に身を置いた中本さんが一般社会に復帰するまでの紆余曲折は、前編記事『【工藤会幹部】から異色の転身。元ヤクザが「暴力団追放」の商店街でうどん屋を開業するまで』の通りだ。
「元暴力団員」の過去がありながらも、地域の人々に手を差し伸べてもらった中本さん。彼は2年前から「子ども食堂」をスタートさせ、今では他者に手を差し伸べる存在になっている。
そこにはどんな思いがあるのか。本人を取材した。
2025年のある夏の日。JR小倉駅からほど近い「京町銀天街」の一角から、楽しげな声が聞こえて来る。そこには、スーパーボールすくいに興じる親子連れや、カラフルなかき氷を食べて涼をとる小学生たちの姿がある。
その中心にいるのは、「元祖 京家」の店主・中本さんだ。
「月に一度、店の前の敷地で『子ども食堂』というイベントをやっています。この場所で店を始めてしばらくして、商店街の方に『街のイベントに参加しない?』と誘っていただきました。イベントの参加で多くの人と接する機会が増え、あらためて『居場所』と『コミュニケーション』の大事さを感じたんです。それで、困っている誰かの居場所になれたらいいなと、今の取り組みを始めました」
同イベントでは、18歳未満なら誰でも「うどん」「かき氷」「おにぎり」などが無料で食べられる。
「子ども食堂は、支えてくださる方なしでは成り立ちません。みなさん、自分の時間を割いてボランティアで来てくださっていますし、近くのお店の方が食事を提供してくださることもあります」
取材日も、地域の中学生が配膳などのボランティアをしており、まさに「地域に根付いた」活動であることが伝わってきた。
実は、中本さんの子どもに対する活動は、月に一度のイベント開催時だけではない。
「18歳未満の子であれば、お店の営業日はいつでも無料でうどんが食べられます。この活動を続けるために、お客様に出すうどんを少し値上げさせてもらいました。皆さん、理由を知ると理解し、協力してくださっています」
自身も「幼少期は貧しい家庭で育った」と話す中本さんだが、具体的に「18歳未満無料」の取り組みを始めたのには明確なきっかけがあった。
「数年前、東京へ行く機会があり、新宿歌舞伎町へ視察に行きました。その時に、いわゆる『トー横キッズ』と呼ばれる子たちの様子も見たのですが、正直言って、手遅れになっている子も多いと感じました」
新宿歌舞伎町に集う若者、通称「トー横キッズ」の問題はメディアでも度々報じられている。家庭や学校に居場所がなく、孤独や不安を抱える若者がSNSなどを通じて繁華街に集まることで、援助交際や薬物といった問題に巻き込まれるケースが少なくない。
「北九州にも、その予備軍になってしまっている子たちがいます。だから、その子たちの話を聞いてあげられる『居場所』を作りたいと思ったんです」
無料でうどんを提供することで、子どもたちを救おうという中本さんの活動だが、目的はその先にある。
「今の子に足りないのは『心のコミュニケーション』です。親が忙しかったりすると、大人と会話をするきっかけが少なくなってしまう。僕らが子どもだった頃は、親が忙しくても近所のおじちゃんやおばちゃんが話しかけて来たり、悪いことをしていたら叱ってくれたりしました。でも、今はそれがありませんよね。だから、うどん無料をきっかけにして、まずはここに来てもらいたい。そして、うどんを食べてもらいながらコミュニケーションをとりたいんです」
インターネットやSNSの発達で、コミュニケーションのフィールドは広がったようにも感じる現代社会。しかし、それは年代や趣味が同じという、ごく狭い世界のコミュニケーションに過ぎないのかもしれない。
「何かを抱える子どもたちは、感性がすごく敏感だから、本気で向き合わないとバレます。この間も、うちでうどんを食べた後に、店の前でタバコを吸っていた子がいたので叱りました。今の人は、誰かを叱ったりすることを避けますよね。面倒だから関わらないように距離を取る。でも、これだと子どもたちは孤立してしまいますよ。彼らと正面で向き合うのが大事だと思います」
こうした活動の賜物で、店内にビッシリ貼られた色紙には、無料でうどんを食べさせてもらった子どもたちが書いたお礼の言葉が並ぶ。アナログな筆跡の向こうに、彼らの笑顔が見えて来るようだ。
「僕が店を出す時に支えてくれた商店街や地域への恩返しという意味ももちろんあります。だけど、こういう活動をやる中で、ここにいろんな人が集まってきて話をしてくれる。僕自身の喜びにもなっています」
そんな中本さんに今後の展望を聞くと、未来ある子どもへの強い想いの言葉が返ってきた。
「今の活動の『継続』。その一言につきます。今はまだ大丈夫でも、数年後に(道を外す)予備軍になってしまう子もきっといるでしょう。そうした子も含めて、ここが子どもたちみんなの『居場所』であり続けられればと思っています」
寡黙な印象で、少し強面な中本さんだが、「子ども食堂」のボランティアとして来ていた中学生の女の子は、彼に心を開いた笑顔を向けていた。
それこそが、2年間の「継続」の、現時点でのひとつの成果ではないか。筆者はそう感じた。
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(取材・文/Mr.tsubaking)
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