夏の習慣として定着している暑中見舞いやお中元。近年は送る人も減っているというが、実は暴力団社会ではいまでも重要視されている。とある指定暴力団幹部は、その理由をこう語る。
【写真】義理と見栄を重視するヤクザたちに人気なフルーツ界の「ド定番」
「伝統的な習慣はカタギの世間の皆さんよりも、我々の方が大切にしている。義理を欠くわけにはいかないため、季節のご挨拶は欠かすことができない」
7月1~2日には国内最大の暴力団6代目山口組の司忍組長が稲川会の内堀和也会長と会談を行ったのをはじめ、6代目山口組と国内各地の友好組織のトップとの間で、暑中の外交活動が行われたことが警察当局によって確認されている。
6代目山口組の司忍組長 時事通信社
「暑中見舞い・お中元」にまつわるヤクザ業界の知られざる事情について暴力団幹部らに話を聞いた。
東京都内で主に活動している指定暴力団の幹部は、一般社会とは異なるお中元の「時期」について解説する。
「ヤクザの社会では新年会が12月にあったりと、一般社会より何についても動きが早い。お中元も同じで、7月になる頃から届くようになる。自分の場合もお世話になった方々へのお礼のため、7月に入るとすぐにご自宅などを訪問してお中元の品をお渡しする。なるべく早く感謝の気持ちを表すことが大切だが、土曜や日曜の週末は遠慮することが多い。今年は7月の初めに休日がなかったので、すぐにご挨拶に伺った。気の早い組織だと、6月末にお中元を送ってくるところもある」
お中元と言えばフルーツやお菓子、ビールなどが定番だがヤクザの世界でもそれは同じ。そして送る物は「有名な老舗、大手デパートのものであることが重要」だという。
「フルーツなら『千疋屋』や『新宿高野』が人気で、夏の果物詰め合わせやフルーツゼリーなどが多い。和菓子の老舗の『とらや』の水ようかんをお中元にすることもある。デパートなら、銀座の『三越』『松坂屋』など、大手デパートの包装紙に包まれた品だと見栄えがいい。見た目や形も大切だ」
首都圏に拠点を構える別の指定暴力団の幹部は、銘柄のブランド感と同じく相手の好みを把握しておくことが大事だという。
「夏の定番として桃やメロンなどの果物や、水ようかん、ゼリーなどの冷たい和洋の菓子が多い。あとはビールも喜ばれる。ビールの場合は事前に相手の好みを把握しておいて、『キリン』や『サッポロ』など会社を決めてお送りする。ただ昨今は反社会的勢力の排除で経済的に厳しい組織も増えていて、どこも値段は抑え気味。だいたい4000~5000円くらいのものが多い」
ヤクザ社会は義理を重んじるとはいうものの、時には“裏技”を使って経費を節約することもある。
「規模にもよるだろうが、うちの組織だと100個以上のお中元が送られてくる。なかには普段の付き合いがなく、どこの組織の誰だか分からないようなところからも来ることもある。そういう時はお返しはしないし、包装紙を張り替えてあたかも自分たちが購入したように別の組織に送ってしまうこともある」
キャリアが長い別の指定暴力団幹部はバブル景気の頃を懐かしみながら、当時ならではのエピソードを教えてくれた。
「30年以上前の話だが、大手百貨店のギフト担当に送り先リストを渡しておいて、すべて手続きを任せていたこともある。品物はこちらで指定するが料金については“阿吽の呼吸”で、払ったり払わなかったり、ということが通用していた。今そんなことをすれば即座に警察に通報されてしまう」
お中元と並ぶ夏の習慣である暑中見舞いも、「義理」としてヤクザの世界では重視されている。加えて前出の指定暴力団幹部は「見栄の効果もある」と話す。
「自分のところには全国から何百通と暑中見舞いが来る。個人が送る通常のハガキのほか、組織として出すものには組長をはじめ執行部の名前が何人も書き連ねられている書状スタイルのものもある。書状になっているのは『自分たちには多くの幹部がいて大きい組織なのだ』という見栄もあるのだろう。なかには組織を大きく見せるためなのか、組織外のカタギの名前が記載されているのもある」
実は警察当局も、夏になると暴力団業界でやりとりされた暑中見舞いを探し回るようになるという。
「書状の形になっているものは、組織のメンバー構成を把握する資料として価値がある。かつてはヤクザの事務所に捜査員が出入りする機会も多く、事務所内には組長など幹部から末端の組員まで名札が掲げられていることが多いので、組織の人間の名前はだいたいわかっていた。しかし近年は立ち入りを拒否する組織も多く、書状を入手することで幹部クラスを把握することが重要になっている」
義理に見栄、そして節約……。ヤクザの世界でもお中元・暑中見舞いは大変だった。
(尾島 正洋)