知らないと危ない? 日本の美しい景観と地形に隠された「災害リスク」の読み取り方

  • このエントリーをはてなブックマークに追加

深く豊かな森林や、棚田の景観は日本の風物詩ともいえます。しかし、洪水や土砂災害が起こるメカニズムや、隠されている地形の特徴を考えてみると、その風景のなかに災害のサインが浮かび上がってくるかもしれません。『47都道府県の怖い地理大全』(彩図社)より一部を抜粋し、森林伐採の危険性や、棚田の災害リスクについて紹介します。
森林伐採が洪水や土砂災害を増やす。そんな話を、どこかで耳にしたことはあるだろう。では、森林伐採で災害が増えるのはなぜだろうか?
一つは、地面にしみこむ雨水の量が増えるからだ。
森林地帯で雨が降ると、木々に阻まれ地面に落ちる量が減る。枯葉を含んだ土壌は雨水がしみこみやすく、そこに吸収された雨は木々の根の隙間に蓄えられて、地下水となりゆっくりと放流される。この働きで、洪水発生が防止される。しかし、森林が減少すれば雨水が地表に多く流れ落ちる。それによって雨水が地面を流れて河川の水位が上昇、あるいは水の流れで土壌の砂泥が流れ込み、川底の底上げや水路の閉塞を起こす。その結果、河川の洪水発生リスクが高まってしまう。
もう一つ、木の根によって支えられていた土壌が、安定力を失うことも原因だ。土中では木の根が複雑に絡み合い、土壌と岩石の隙間を補強している。この働きが地盤を補強して、地滑りを防止している。しかし、木々を伐採すると木々の根による安定力が失われ、斜面が急な山岳地ほど土砂崩れが起こりやすくなる。
さらに、手入れ不足の人工林が増えていることも問題視されている。
日本の森林面積は、半分以上が人の手で形成された人工林だ。手入れをすれば天然森林と同等の働きをするが、林業離れの影響で、放置される箇所が増えた。これにより、貯水機能の低下、木の枝・根の成長不振などの問題が生じている。根が育たないと地面は補強力がなくなり、土は硬化していく。すると台風や集中豪雨が起きても地面が水を吸いきれないので、土砂崩れや土石流を引き起こすリスクが高まるのだ。
こうした問題への対抗策として、「緑のダム」が注目されている。森の手入れで貯水能力を復活させ、洪水対策をするという方法だ。
しかし、大規模災害への効果は限定的だという指摘もある。貯水能力を高めるには、土壌と木の根のつながりを強固にする必要があるが、地上の木々を世話しても、すぐに根は成長しない。また台風級の大雨では、降雨量が多すぎるので劇的な効果は見込めない可能性がある。それにそもそも、土壌環境をコントロールするのが難しいという問題もある。
前途は多難だが、長いスパンをかけて、地道に森林環境を調えていく必要がありそうだ。
稲作地帯では、水田が階段状に並んだ光景が時折見られる。傾斜地を利用して稲作を行う棚田である。平地の少ない土地・狭い土地でも稲作をするために考えられた工夫だ。
景観が評価される棚田も数多いが、実は地形学の観点で見ると、棚田は災害時において危険地帯になる可能性がある。
棚田をつくるには、必須条件が二つある。「定住可能な緩い斜面」と「豊富な地下水」だ。これらが両立する土地は、多くが古い地滑り跡である。
地滑りの多発地域は、地下水が豊富な場合が多い。地下水が多いと地盤が弱くなるため、大雨などで崩れやすくなる。崩れ落ちた土砂はなだらかに傾斜をつくり、やがて緩い斜面を形成する。山岳地と比べれば人間が暮らしやすいので、集落も生まれる。こうして古い地滑り跡は開発され、棚田もつくられていった。
例えば長野県千曲市にある姨捨の棚田は、土石流か山体崩壊で形成されたといわれる。滋賀県大津市比叡山山麓の棚田地帯も、位置するのは古い地滑り地域だ。岐阜県恵那市の坂折地区は、地滑り地の岩を除去して開拓された。島根県奥出雲の棚田は砂鉄採掘の跡地と性格は異なるものの、地盤の弱い土地にあるという点は共通している。
こうした土地では、繰り返し土砂災害が起きる危険がある。目には見えないペースだが、地滑りによる土地移動は毎年起きている。年数ミリメートル~数センチメートルと非常に遅いが、地震や集中豪雨で一気に崩れることもある。2024年5月14日には、新潟県上越市清里区にて棚田が大規模な土砂崩れで崩壊した。これは、能登半島地震による地盤のゆるみと水の浸食が原因だという。
棚田は水を貯めて洪水発生を防止しているともいわれる。だが、現在は放棄されて荒廃するケースも増えている。土砂流出の防止策検討が急がれるところである。
地形ミステリー研究会オフィステイクオー

  • このエントリーをはてなブックマークに追加

SNSでもご購読できます。