「うつ病は心の風邪」という言葉をよく耳にします。それだけ「うつ病は珍しくないもの」という意味ですが、風邪を予防することができるように、うつ病も予防できるのでしょうか?「ゆうココロのクリニック」の竹内先生に、うつ病にならないためにできることを解説していただきました。
監修医師:竹内 悠(ゆうココロのクリニック)
宮崎大学医学部医学科卒業。その後、国立国際医療研究センター国府台病院(現・国立健康危機管理研究機構 国立国府台医療センター)総合内科、精神科で経験を積む。2021年、千葉県船橋市に「ゆうココロのクリニック」を開院。日本精神神経学会専門医・指導医・認知症診療医、日本睡眠学会専門医、日本内科学会認定医。日本医師会認定産業医。
編集部
うつ病の原因はなんですか?
竹内先生
うつ病は遺伝的な要因に加え、ストレスや性格的な傾向、慢性的な身体疾患が重なって発症することが多いとされています。特に、発症に大きく関わっているのは環境要因です。
編集部
環境要因とはなんですか?
竹内先生
生活に影響を与える外部の要因や条件のことを環境要因と言います。うつ病の原因になりやすい環境要因の例としては、「大切な人の死や離別」「仕事や財産などの喪失」「人間関係の悪化」「家庭内のトラブル」などが挙げられます。また、就職や退職、転勤、結婚、出産、離婚などのライフイベントも、うつ病のきっかけとなりやすい環境要因です。
編集部
結婚や出産などのポジティブな出来事でもうつ病の原因となり得るのですね。
竹内先生
はい。うつ病はネガティブな要因だけでなく、ポジティブな変化でも起きることがあるとされています。昇進や出世などでも起こる可能性があるので注意が必要です。
編集部
様々な要因が重なってうつ病を発症するのですね。
竹内先生
同じ環境要因があっても、うつ病になる人とならない人がいるのは、その人の遺伝要因や性格、これまでの生活環境などが関係しています。また、その人のストレス耐性も大きく影響しています。例えば、ストレスに強い人か弱い人かで、うつ病のなりやすさは変わります。あとは、真面目で責任感が強い人か、そうでないかによっても、うつ病のリスクは変わってきます。
編集部
それだけ複雑な要因が関わっていると、うつ病を防ぐことは難しいように思います。
竹内先生
そもそも、うつ病は想像するほど珍しいものではなく、日本では生涯に約15人に1人が発症するとされています。この数値は欧米よりは低いものの、決して少ないものではありません。しかし、うつ病にかかっている人の1/4程度が医師を受診していますが、残りの3/4は、自分がうつ病だと気づかなかったり、なんとなく医療機関を受診しづらかったりするといった理由で医療の介入を受けていません。うつ病は放置すると治りづらくなるだけでなく、周囲にも影響を及ぼしますし、自殺のリスクも高まります。「うつ病かな?」と思ったら早めに診察を受けるとともに、悪化の予防に努めることが大切です。
編集部
うつ病を予防するために、できることはありますか?
竹内先生
まずは、ストレスを上手にマネジメントする方法を身につけましょう。運動など効果的な発散方法を身につけたり、リラクセーションの方法を取り入れたりすることが役立ちます。特に運動は大切で、散歩などの軽い運動がうつ症状を軽減させることが研究で判明しています。
編集部
そのほかにも、できることはありますか?
竹内先生
ライフスタイルを見直してみることも大切です。「睡眠時間を確保する」「栄養バランスのとれた食事をする」「お酒を飲み過ぎない」など、基本的な生活習慣を見直してみましょう。規則正しい生活を送ると自律神経のバランスが整い、心身が安定しやすくなります。
編集部
日常生活で気をつけるべきことも教えてください。
竹内先生
疲れを溜め過ぎると、ストレスが溜まってうつ病の発症につながることがあります。もし調整できるなら、あまり密に日々の予定を詰め込み過ぎないよう、意識しましょう。それから、疲れが溜まっていたら、今やらなくてもいいことはいったん棚上げしておくことも大切です。自分のペースでゆっくり進めることを大事にしましょう。
編集部
うつ病かなと思ったら、どうすればいいのでしょうか?
竹内先生
まずは精神科、心療内科、かかりつけ医などの医療機関や保健所、精神保健福祉センターなどの専門家に相談してみましょう。ときどき「少し様子を見てから……」といって受診を先延ばしにしてしまう人もいますが、放置することでさらに症状が進んでしまいます。そのため、「うつ病かな」と思ったら、早めに受診しましょう。
編集部
どのような症状がみられたら、早めに受診すべきでしょうか?
竹内先生
例えば、気分が落ち込み、毎日の生活に充実感が感じられなくなったり、これまで楽しかったことが楽しいと思えなくなったりしたら要注意です。ほかにも、以前は楽にできていたこと(入浴、食事など)が億劫になった、いつも疲れていてやる気が出ない、自分が役立つ人間だと思えない、仕事や勉強での集中力の低下が著しい、といった症状がみられるときにも、早めに診察を受けましょう。
編集部
家族がそのような状況になったら、どうしたらいいのでしょうか?
竹内先生
夜に眠れない、寝つきが悪いなど睡眠障害がある、うつ症状が強くて会社へ行けないなどの症状がみられたら、まずはゆっくり休養することを勧めましょう。その上で専門家への相談を促し、治療が始まったら、本人のペースに配慮しながら支援をすることが大切です。無理に出勤や外出を勧めることはせず、そっと見守りながらサポートをする姿勢が大切です。
編集部
本人が医療機関を受診したくないと言ったらどうすればいいですか?
竹内先生
医療機関には家族相談の場を設けているところもあり、その場合には本人の同席なく、家族だけで相談することも可能です。また、保健所なら家族だけで相談することもできるので、そうしたサービスを利用してみるといいでしょう。
編集部
最後に、読者へのメッセージをお願いします。
竹内先生
現代はストレス過多な社会であり、日々、インターネットやSNSなどで様々な情報が入ってきます。そうした疲労を少しでも緩和するにはそういう環境からいったん離れ、ゆっくりと外出したり、お風呂に浸かったり、何もストレスがない“余白の時間”を作ることがとても大切です。1人で過ごすのが好きな人もいれば、誰かと過ごすのが好きな人もいるでしょう。いずれにしても自分が心地よく感じられる時間を、日々の中で少しでも作れるようにすれば、うつ病の対策にもつながると思います。ぜひ、余白の時間を持つことを意識してみてください。
うつ病は決して珍しい病気ではなく、生涯のうちに誰でも発症する可能性がある疾患です。そのため、うつ病にならないための予防法を知っておくと同時に、「万が一うつ病を発症したらどうするか?」を知っておくことは重要です。家族など身の回りの人の心の健康にも気を配りながら、ストレスを少しでも緩和できるライフスタイルを身につけたいですね。
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診療科目心療内科、精神科
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