《懲役は…》「1年のとき態度が悪かったな! 土下座して謝れ!」サークルの後輩の顔をボコボコにしただけじゃない《白金高輪硫酸事件》犯人男のその後(令和3年)

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〈「目が見えない」硫酸をかけられた男性の体はボロボロ、会社も辞める事態に…「いじめ被害者」の25歳大学生が『凶悪犯罪の加害者』に変貌しワケ(令和3年)〉から続く
「おまえ、1年のとき態度が悪かったな! 土下座して謝れ!」
【写真を見る】「3次元の女には興味がない」「公園でヲタ芸を披露」駅で硫酸をかけた“犯人男のスガオ”を見る
かつて自分をいじめた相手を拳でボコボコにしただけじゃない……。その後、男は別の後輩に硫酸をかけて、大火傷を負わせてしまう。2021年8月に起きた《白金高輪硫酸事件》はどんな結末を迎えたのか……。我が子を無惨に殺された親、学生時代ひどいイジメに遭った者などが仕返しを果たした国内外の事件を取り上げた新刊『世界で起きた戦慄の復讐劇35』(鉄人社)から一部抜粋してお届けする。(全2回の2回目/最初から読む)
花森弘卓容疑者 文藝春秋 撮影・上田康太郎
◆◆◆
そこで、花森はまずIさんに会って真偽を問いただそうとLINEで「沖縄に行くので宿泊させてほしい」と連絡する。が、当時Iさんは卒論で忙しく、この申し出を拒否。それでもしつこく連絡が来たため、花森のLINEを仕方なくブロック。この何気ない行為が花森の中に疑念と、さらなる執着を芽生えさせる。
不安な気持ちを抱えたまま時が過ぎた2021年2月、花森はユーチューブを参考に硫酸を作り始める。本人の思考では、その目的はIさんにアシッドアタックを働くためではなく、IさんやTさんの攻撃から身を守るためだった。
そして2ヶ月後の同年4月、花森は沖縄に出向き映画研究会の部室でTさんと再会する。そこで花森の口から出たのは「おまえ、1年のとき態度が悪かったな! 土下座して謝れ!」という激しい怒りの言葉。あまりの剣幕に、Tさんは言われたとおり土下座をし、その場を出て行こうとしたため、さらに花森から拳で顔で殴られる。
明らかに常軌を逸した行動だが、結局、Tさんは花森の実家に来ていないことがわかり、最後は握手をして別れたそうだ。
その後、花森は大学のホームページでIさんの就職先を特定。事件1ヶ月前の2021年7月、Iさんの会社へ足を運び彼と再会する。
が、Iさんもまた、静岡には行っていないと疑惑を否定。これで納得すれば問題はなかった。しかし、花森の中では、自分が目撃した不審な人物が2人ともに違うはずがないと、さらに疑念が膨らむ。いったん抱いた被害妄想は止むことを知らず、そのうち、周囲の人間が全てIさんに見え、いつ攻撃されるかわからないと恐怖に怯えるようになる。もはや耐えられない。花森の中で犯行の決意が固まった。
8月24日、上京しIさんの会社のある港区の会社の前で待つこと数時間。オフィスビルから出て、最寄りの東京メトロ溜池山王駅に向かうIさんを尾行し、彼と同じ南北線に乗車。3つ先の白金高輪駅でIさんが降りると、花森もまた下車し犯行の機会を狙う。彼の手には硫酸の入った瓶が握られていた。そしてIさんが駅構内の上りエスカレーターに乗ったとき、アシッドアタック決行。そのまま現場を後にし、沖縄に逃亡する。Iさんは全治3ヶ月の重傷だった。

身柄を拘束された花森は全面的に容疑を認め、Iさんに対する傷害罪、Tさんへの暴行罪で逮捕・起訴される。裁判は2022年9月から東京地裁で始まり、法廷で犯行動機について聞かれた花森被告は「二度と僕に関わらないでほしかった。IとTから常にストーカーされ、狙われているのではないかと思った」と供述。もっとも、そのような事実は一切確認されていない。
弁護側の証人として出廷した精神科医によれば、花森はPTSDの他に自閉症スペクトラム症を患っており、この2つの症状が重なり合い、すでに疎遠になっている被害者2人に攻撃されているのではないかと妄想に取り憑かれていた可能性が高いという。対して、Tさんは警察の供述調書で「いつもおかしな行動を取っていて本当にバカだと思い下に見ていた。私が最初にいじり、Iがそれに便乗する。一度いじり始めると調子に乗り繰り返してしまった。被告人にとっては辛いものだとわかり申し訳なさも感じた」と証言。
Iさんもほぼ同じ内容を供述したが、「硫酸をかけられたことは心外で納得できない」と心情を明らかにした。
検察は花森被告に懲役6年を求刑した。一方、弁護側はいじめによるPTSDの発症が事件の大きな要因で執行猶予付きの判決を求める。2023年2月28日、判決公判。裁判長は「極めて危険な行為で、後遺症が残った被害も重大だ」として、懲役3年6ヶ月の実刑を言い渡した。
大怪我を負い会社も辞めざるをえなくなったIさんへの刑罰としては、あまりに軽いと言わざるをえない。
(鉄人ノンフィクション編集部/Webオリジナル(外部転載))

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