外国人で治安悪化のイメージ、データ上は『誤り』 なぜ争点に急浮上した外国人政策? 専門家は「参政党の躍進データに他党が警戒」と分析【参議院選挙】

  • このエントリーをはてなブックマークに追加

参議院選挙で、にわかに注目を集めているのが「外国人政策」です。対応の厳格化などを打ち出す政党があり、政府も外国人政策の司令塔となる事務局組織を設置する方針を表明するなどの動きを見せています。

いま、在留外国人は376万人を超え、単純計算では人口の33人に1人が外国人ということになります。なぜ今このテーマが争点となっているのでしょうか。受け入れのメリットとデメリットをしっかり整理して、日本の進むべき道をともに考えたいと思います。
JNNが7月5日・6日行った世論調査では、政党支持率で、自民20.8%、立憲6.3%に続いて参政6.2%が、国民民主5.9%を上回り3位に浮上しています。(以降、維新、公明、れいわ、共産…の順)。また参議院選挙の比例代表の投票先を問う調査でも、参政党は5月時点の2%(9位)から9%(3位)と7ポイント伸ばすなど、別のデータにも表れています。

参政党が前面に打ち出しているひとつが外国人政策です。政治心理学が専門の秦正樹准教授(大阪経済大学)は、データ上での参政党の躍進が、他の政党に危機感や警戒感を抱かせたと分析。各党がこの分野で票を奪われないよう、自らの外国人政策に対するスタンスを明確にした結果、このテーマが争点化したと指摘しています。

自民党:違法外国人ゼロに向けた取り組み加速化公明党:不法滞在者ゼロ目指し外国人と安心して暮らせる共生社会実現立憲民主党:国民及び在留外国人が共生することのできる社会形成日本維新の会:外国人の無秩序な増加や地域摩擦の弊害踏まえ、政策を国家として一元管理共産党:外国人労働者に日本人と同等の労働者としての権利保障国民民主党:外国人土地取得規制、社会保障の運用適正化れいわ新選組:「移民政策」に反対 排外的考えとは一線を画する参政党:外国人受け入れは慎重を要する 国益守る外国人政策を一元的に管理社民党:移民・難民を排除するのでなく、多文化共生の社会を目指す保守党:入管難民法の改正と運用の厳正化
JNNが行った世論調査では、参院選で重視する政策として1位は「物価高対策」ですが「外国人規制」が5位にランクイン。「政治とカネ」や「外交・安全保障」よりも高い順位であり、国民の関心の高さがうかがえます。いっぽう「外国人政策」とあるが、ひとつひとつの課題は全く別物で、外国人を一緒くたに議論するのはどうかという指摘もありました。

このテーマが注目される背景には、私たちの身の回りで、外国人の姿を見かける機会が増えたこともあるでしょう。インバウンドは、基本的には右肩上がり傾向で、2024年は3600万人超え。国が「観光立国」を掲げていることもあり、今後もさらに増加する可能性があります。
在留外国人も増えており、2024年末には過去最高の約377万人に達しました。日本の人口のおよそ3%にあたり、在留外国人の約4分の1にあたる87万人が中国人です。
中国人が増加した理由の一つは、富裕層の海外移住先として日本に注目が集まっているためと言われます。東京財団の柯隆首席研究員によりますと、以前はアメリカやカナダ、オーストラリアが人気の移住先でしたが、日本が注目されたのは、ビザ取得のハードルの低さにあります。
投資家・経営者にかかわるビザで比較すると、アメリカなら7.4億円、カナダでは2億円以上の資産が必要ですが、日本の「経営管理ビザ」は、500万円以上の出資と事業計画書の書類提出などで取得が可能ということです。他国に比べて面接がないなど手続きも比較的容易で、移住しやすい環境となっているそうです。

メリットとデメリットを見ていきましょう。外国人をめぐるトラブル例としては、外国免許切り替え問題に端を発した交通事故。組織的ともいわれる替え玉受験。あるいはベトナム国籍者による広域窃盗団などが報じられることがあります。こうしたニュースに、これまで見聞きしてきたものとの違いを感じる人もいるでしょう。
しかし、データを見ると異なる側面が見えてきます。在留外国人の数は急増しているにもかかわらず、外国人の犯罪検挙人数は、2004年の2万9000人をピークに、ここ10年はほぼ横ばいの約1万6000人で推移しているということです。

国籍別の犯罪率を見ても、一部の国を除いて、中国や韓国、欧米諸国の人々の犯罪率は日本人と大きく変わりません。大声など、生活習慣や文化の違いからくるトラブルはあっても、「治安の悪化」と結びつけるのは早計かもしれません。
犯罪について柯隆首席研究員は日本の「犯罪のコストの安さ」、つまり罰則の軽さも一因ではないかと指摘しています。厳しい罰則で知られるシンガポールでは、今でも鞭打ち刑が存在するといい、日本は罰則が緩い、と見なされている可能性も否定できません。

「社会保険や生活保護にタダ乗りしているのではないか」というイメージについても聞きました。生活保護は法律上は日本国民を対象とした制度ですが、人道的な配慮から、永住者や定住者など一定の要件を満たす外国籍者にもされています。
いまは約202万人が生活保護を受給して、外国人は6.5万人います。また2019年から外国人の社会保険への加入が必須となるなどしています。イメージで思い込むのではなく、事実を冷静に確認することが重要です。

「外国人に不動産を買い占められて高騰する」というイメージもよく聞かれます。この点について、外国人が日本の不動産をどれくらい購入しているのかをまとめた正確な調査は存在しません。 一部のタワーマンションの調査例では、購入者の数パーセントが外国人だったという結果もありますが、全国的な実態は不明です。むしろ、購入後の固定資産税がきちんと支払われているのか、あるいはマンションの管理組合に参加しないとか、現実的な課題についてルール作りが求められます。
旅行者がもたらす問題もあります。特に京都などでは、観光客が急増したことで市民が日常的に利用するバスが満員になったり、静かな住環境が損なわれたりする「オーバーツーリズム」が深刻化しています。柯隆首席研究員は「ある程度の制限はやむを得ないのでは」と述べ、何らかの対策やルール作りが必要な段階に来ていると言えます。

一方、日本は外国人に助けてもらわないといけない点もあります。インバウンドによる経済効果は計り知れず、2024年の消費総額は8兆円を突破する巨大産業となっています。
さらに深刻なのが日本の労働力不足です。人口減少が進む日本では、2065年の労働力が2020年の4割減というデータ(みずほ総研)もあります。柯隆首席研究員は、「経営管理ビザ」によって優秀な人材が日本に来ることは、国際ビジネスの活性化というプラスの側面も持ち合わせていると指摘します。
国立社会保障・人口問題研究所の推計によると、現状の年間約16万人のペースで外国人が増え続けたとしても、現在の約1億2000万人の人口は、2070年には8700万人を割り込んでしまいます。
もし外国人の新規受け入れを完全に停止すれば、人口はさらに1000万人近く減って7715万人ほどになると試算されています。逆に100万人くらい受け入れ続けると、1億4745万人に増えます。現在の人口規模を維持するためには、「年間約75万人」現状をはるかに上回る受け入れペースが必要になるのです。これらのデータを前に、私たちはどのような社会を目指すのか。今回の選挙は、その重大な選択を私たちに問いかけています。

例えばこのような選択肢。一つは規制を強化して日本人の社会を目指す道。一つは、単純労働力としてのみ外国人を受け入れる道、一つは、積極的に外国の高度人材を受け入れていく道です。
この議論について、アメリカ出身でハーバード大学院修了のREINAさんは、「労働力や人口補充のためだけに外国人を受け入れるのか、社会の一員として対等に共生していくのか、理念と現実のすり合わせが必要」と指摘しました。そして、自国民の保護を明確にするシンガポールや、社会の一員として政策を掲げるヨーロッパ諸国の例を挙げて、日本の国家としてのスタンスを明確にすべきだと語ります。どういった国家像を目指すのか、私たちの一票は重要な選択となっています。(7月9日 MBS「よんチャンTV」)

  • このエントリーをはてなブックマークに追加

SNSでもご購読できます。