晩婚化や長引く景気低迷などさまざまな背景から、近年「高齢の親と未婚の子」という家族構成の世帯が増えています。たとえ子どもが順調なキャリアパスを歩んでいたとしても、この「高齢の親」の存在が将来に悪影響を与える場合もあるようで……。事例をもとに詳しくみていきましょう。牧野FP事務所合同会社の牧野寿和CFPが解説します。
厚生労働省「2022年国民生活基礎調査の概要」によると、65歳以上がいる世帯のうち「親と未婚の子のみの世帯※」の数は、2001年15.7%、2010年18.6%、2022年には20.1%と、増加傾向にあります。特に、ここ10年は20%台が続き、全体の5分の1を占めています。※ 親と未婚の子のみの世帯……「夫婦と未婚の子のみの世帯」と「ひとり親と未婚の子のみの世帯」をあわせたもの。
また、国立社会保障・人口問題研究所「人口統計資料集(2025年版)」によると、50歳時の未婚割合(2020年)は、男性が28.25%、女性が17.81%となっています。この20年で男性は2倍、女性は3倍に増えており、100年間という長いスパンで見ると、男性は約13倍、女性は9.8倍もの増加率となっています。
[図表]男女別50歳時の未婚割合 出所:国立社会保障・人口問題研究所「人口統計資料集(2025年版)」をもとに筆者作成。なお、50歳時の未婚割合は、45~49歳と50~54歳の未婚割合の平均値から算出したもの。
このように、「高齢の親と未婚の子」の世帯が増えた背景には、価値観の多様化や晩婚化、また経済的な理由などがあると考えられています。しかしその一方で、個々の家庭にフォーカスすると、その家ごとにさまざまな“事情”があるようです。
56歳のAさんは、湾岸エリアのタワーマンションに住む独身男性です。
Aさんは自身が描いた人生設計を着実に実行することを心がけており、自ら選んだ独身生活を謳歌していました。数回の転職のたびにキャリアアップし、現在の年収は1,500万円。湾岸のタワマンも自身の“終の棲家”として購入したものです。
高収入にタワマン暮らしと、順風満帆な人生を歩んできたAさん。このまま行けば、老後も“勝ち組確定”……といいたいところですが、最近頭を悩ませていることがあります。
それは、自身の母親であるBさん(79歳)の存在です。
Aさんの実家は、都心から車で2時間ほどのところにある地方都市です。Aさんが実家を出たあとも両親は仲睦まじく暮らしていましたが、約1年前に父親のCさん(享年84歳)が急死。それ以降、母親であるBさんは実家に一人きりの状況でした。
Aさんは一人になった母を不憫に思い、葬儀や遺産分割を終えひと段落したころ、母に言いました。
「よかったら東京に遊びに来ない?」
するとBさんはAさんの誘いに気をよくしたのか、父の存命中は2~3度しか来たことのないAさんの住まいに、頻繁に顔を出すようになりました。
最初のうちは「寂しいだろうから」と気を利かせて、休みの日にはBさんを連れて高級ブランド店や名の通ったレストランへ出かけていたAさん。しかし、しだいに気乗りしなくなっていきます。
なぜなら、BさんがAさんの予定もかまわず居座るようになったからです。
Bさんはなかなか実家に帰ろうとしないどころか、勝手に冷蔵庫を開け、Aさんの予定も構わずにご飯を作るように。
さらに、ブランド品のショッピングに味をしめたのか、「今度の休みはいつ? こないだ出たばっかりの〇〇のバッグが欲しいんだけど」などと“おねだり”が始まったのです。
仕事が忙しいAさんは、残業して帰宅後、都心の夜景が見えるリビングで晩酌をするのが楽しみでした。いまでは夜遅くまでリビングに母が居座り、心が休まる暇もありません。
さすがに我慢の限界だと、ある日Aさんは母親に「話がある」と切り出します。
「いい加減にしてくれないか? たしかに遊びに来ていいとは言ったけど、あんまりだよ」
するとBさんは、怪訝な表情で次のように言いました。
「あなたをここまで育てたのは誰? ようやく自由な時間ができたのよ。少しくらい甘えたっていいじゃない」
「だからって、好き勝手にしていいわけないだろ? 母さんが来てから生活費が格段に上がっているし、ここは俺の家なんだから少しくらい遠慮してくれよ」
「じゃあ、あんたにとって私は邪魔者ってわけ!? お父さんもいなくなって独りぼっちの母親に出て行けって言うのね!?」
「いや、そういうわけじゃないけど……」
ゆくゆくは同居する可能性もあると考えていたAさんですが、Bさんのまさかの行動に疲弊。おひとりさまで迎える老後を見据え準備を始めていたこともあり、自身の家計に危機感を抱くように。
Aさんは現在の資産状況と収支を照らし合わせたうえで、深刻な状況にはないと考えていました。しかし、第三者の視点から冷静に見てもらおうと、知り合いのファイナンシャルプランナー(FP)に相談することにしました。
Aさんから一連の話を聞いたFPは、AさんとBさんの家計収支を整理してみることに。まず、Aさんの家計状況と今後の収支見込は下記のとおりです。
〈収入〉■現在(56歳)・年収:1,500万円■60歳以降(~70歳まで)・別の会社に転職して70歳まで勤務を希望。年収1,000万円は確保したい。■70歳以降・老齢厚生年金は「繰下げ受給」を選択し、5年繰り下げて42.0%増額される年金を受給予定。〈支出〉■現在(56歳)・生活費:月約32万円・住宅ローン返済額:月約20万円……完済まであと10年、残債約2,000万円・貯金:月50万円・貯蓄残高:約4,000万円
〈収入〉
■現在(56歳)
・年収:1,500万円
■60歳以降(~70歳まで)
・別の会社に転職して70歳まで勤務を希望。年収1,000万円は確保したい。
■70歳以降
・老齢厚生年金は「繰下げ受給」を選択し、5年繰り下げて42.0%増額される年金を受給予定。
〈支出〉
■現在(56歳)
・生活費:月約32万円
・住宅ローン返済額:月約20万円
……完済まであと10年、残債約2,000万円
・貯金:月50万円
・貯蓄残高:約4,000万円
現在のAさんの家計収支バランスはよく、貯蓄額も定期的に増加しています。また、Aさんが心配していたBさんに係る費用も、家計が揺らぐような金額ではありません。また貯蓄も十分にあることから、Bさんに対して神経質になりすぎる必要はないでしょう。
むしろ問題は、母Bさんの家計です。
〈収入〉■夫Cさんが存命のころ・年金収入:月約27万円……夫の老齢厚生年金+自身の老齢年金■現在(79歳)・年金収入:月約17万円……夫の遺族厚生年金+自身の老齢年金・貯蓄残高:約1,000万円
〈収入〉
■夫Cさんが存命のころ
・年金収入:月約27万円
……夫の老齢厚生年金+自身の老齢年金
■現在(79歳)
・年金収入:月約17万円
……夫の遺族厚生年金+自身の老齢年金
・貯蓄残高:約1,000万円
Bさんの収入は上記のように、夫のCさんが存命のときに比べ、3分の2以下に減っています。そのため、Bさんが今後も実家で1人暮らしをするには、年金収入だけでは足りず、年に何度か貯蓄を取り崩す必要があります。
さらに、築年数が経った実家は近々リフォームが必要であるほか、今後は介護や看護も必要になる可能性が高いでしょう。入院や介護施設に入居する場合、Aさんの援助が必要になりそうです。
一方、今後Bさんが本格的にAさんのマンションに同居する場合、Aさんの支出額は食費などがいくぶん増加するでしょうが、家計への影響は限定的でしょう。
「現在の状況から推察するに、釈然としない思いはあるかと思いますが、金銭面から考えるとお母さまとの同居も選択肢のひとつです」
FPがここまで話すと、Aさんは「なるほど……ありがとうございます。お金の面と心理的な面両方考えて、今後どうするか改めて母と話し合ってみます」といって、その日は帰られました。
FPの助言をもとに冷静になったAさんは、「母は寂しくて甘えたかったのかもしれないな」と反省。そして、正式に同居を提案することにしました。
「母さん、こないだはごめん。言い過ぎたよ。ここが気に入ってるんなら、もしよかったら一緒に住まないか?」
するとBさんは、意外な反応を見せました。
「ありがとう。だけどね、お断りするわ」
「こないだいろいろ言ってもらって、目が覚めたの。ここは景色もきれいで街も華やかだし、いままでとは全然違う暮らしに浮かれていたわ。お洋服やバッグだって買うまではワクワクするけれど、いざ手に入れても使うところがないし。あなたにバシっと言ってもらってね、甘えてたなと思ったの」
「本当にごめんなさいね。また、たまに遊びに来るわ」
そういうと、Bさんは荷物をまとめ、実家に帰って行ったそうです。
後日、AさんはFPに言いました。
「もとの生活に戻れてホッとしていますが、1人暮らしの母が心配なことには変わりありません。これからは自分のことだけではなく、母をサポートできる体制も考えます」
親が高齢になれば、それまでの関係性がどうであれ、看護や介護が必要になる可能性が出てきます。親だからといってプライベートエリアの占拠は困りものですが、適切な距離感で、親の“万が一”に備えておくことが大切です。
牧野 寿和牧野FP事務所合同会社代表社員