東京・新宿区のタワーマンションの敷地内で2024年5月、当時25歳だったガールズバー店経営者の女性・Aさんが刃物で刺され、殺害された事件。殺人などの罪に問われ起訴されていた川崎市在住・配送業の和久井学被告(52)の裁判員裁判の初公判が、7月4日に東京地裁で開かれた。被告は冒頭で、「間違いありません」と起訴内容を認めた。
【写真】シャンパンタワーを前にしたAさん(25)。店でのドレス姿のほか、被告が被告をメッタ刺しにしたタワマンの現場
事件現場となったのは、Aさんが住むタワーマンションのサブエントランス前だった。周辺に設置された3台の監視カメラには、被告がAさんを殺害するまでの様子が克明に記録されていた。【前後編の後編。前編から読む】
検察側・弁護側双方の冒頭陳述が終わると、検察側が事件当日の事実関係について確認した。
犯行日の前日となる2024年5月7日、Aさんは21時30分ごろから翌8日の午前2時58分ごろまでライブ配信をしていたという。配信の冒頭で、Aさんは「ライブが終わったらコンビニに行こう」と発言。被告はそれを聞いて21時58分ごろ、車で川崎の自宅を出発した。
8日の0時15分ごろには、Aさんは被告の名字とあだ名を呼んで、「画面録画してたんだって、超キモイよね。まあパクられたからいいけど」などと発言。被告人はマンション周りを移動し、配信終了直前となる2時55分、マンション前に停車していたことが、被告の車のカーナビの履歴からわかっている。
ライブ配信終了後、Aさんは自宅であるタワーマンションの一階部分に併設されているコンビニへ向かった。コンビニから出てきたAさんに、果物ナイフを持った被告が話しかけた。2人の様子は、マンション施設に設置されていた3台の防犯カメラに映像として残っていたという。その様子を、検察側は次のように説明した。
「被告人がAさんに話しかけたあと、Aさんは走って逃げ出した。Aさんが転倒すると、被告人はAさんを捕まえ、髪を掴みサブエントランスまで引きずって移動した」
その防犯カメラ映像が、法廷内で再生された。傍聴人は見ることができない。裁判員らが眉をしかめて映像を確認するなか、和久井被告はいっさい表情を変えず、鋭い眼光でモニターを見つめていた。
検察官が続ける。
「Aさんは手にしていたトートバックを投げたが、被告人はAさんをサブエントランスまで30秒ほど引きずった。何度か言葉を交わした後、少なくとも15回、Aさんに向かってナイフを振り下ろしました」
現場となったサブエントランス前には、複数の人が集まっていたという。ある目撃者がスマートフォンでその様子を動画撮影しており、その動画に、2人の会話内容が残っていたという。以下は、犯行直前に2人が交わしたとして、検察官が読み上げたやり取りだ。
Aさん「ねえ、ほんと話を聞いて。言えないことがあるの」和久井被告「嘘つくな」Aさん「ほんと、そうなの」和久井被告「うるせえんだよ」Aさん「やめて、やめて、やめて」和久井被告「死んでくれ」
そして、被告はAさんに向かってナイフを振り下ろしたという。その直前までの映像も、法廷内で再生された。
Aさんには心臓・両肺・脊髄・胃などに何箇所もナイフの傷が残っていた。被告は持っていた1本目の果物ナイフが折れると2本目を取り出し、何度もAさんに突き立てたという。
和久井学被告は7月9日の公判で、自ら弁明するという。
(了。前編から読む)