被災118棟「所有者不明」で解体進まず…能登半島地震から1年半、新制度活用いまだ3棟

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能登半島地震で大きな被害が出た石川県の能登地方6市町で、所有者不明の被災家屋が少なくとも118棟に上っている。
市町が棟数の把握に苦慮し、さらに増える可能性があるなか、住民は「放置が続くと復興の足かせになってしまう」と不安を抱く。災害時の本格活用は初となる所有者不明建物管理制度で公費解体が進められるが、現時点で完了は3棟にとどまる。(金沢支局 秋野誠)
地震発生から1年半近くが経過し、公費解体も進んで更地が目立つ珠洲市蛸島町。その一角に、崩れた木材の破片や家財が散乱した空き家が残る。区長の木挽(こびき)芳紀さん(55)によると、10年以上前に住人の高齢女性が亡くなった後、所有者不明の状態とみられる。
木挽さんは「倒壊した空き家が放置されていると、復興作業に影響が出る。治安や景観も悪くなる」との思いから、住民らと所有者不明の被災家屋を調べた。この物件を含む15棟について「迅速な対応が必要」として市に解体を要望した。
6市町によると、27日現在、確認されている所有者不明の被災家屋は輪島市で71棟、七尾市で30棟、能登町で8棟、穴水町で4棟、志賀町で3棟。珠洲市は2棟で、市の担当者は「空き家の相続人を調べるのは時間がかかり負担も大きい。申請のある公費解体を終えた後、早く調査を進めたいのだが……」とこぼす。
家屋の解体には、原則として所有者本人の申請が必要となる。所有者が特定できない場合、隣接地所有者や自治体などが管理制度を活用して申し立てれば、裁判所が選任した管理人は公費解体も申請できる。ただ、登記や課税状況などの調査を経て、所有者不明の実情を示す必要がある。
輪島、珠洲、七尾、穴水の4市町で管理制度による申し立ては計34件あるが、解体が完了したのは輪島で2棟、珠洲で1棟にとどまる。実績が少ない状況に、環境省の担当者は「管理制度の周知を徹底し、円滑な公費解体が進むように支援したい」と語る。
総務省の調査(2023年)によると、人口減や高齢化もあって全国の空き家は約900万戸と過去最多を更新し、このうち居住や賃貸目的のない「放置空き家」は385万戸だった。石川県内の空き家は約8万7000戸で、放置空き家は4万1000戸に上る。市町の調査が進めば、所有者不明の被災家屋は、さらに増えるとみられる。
空き家の問題に詳しい松山大の倉沢生雄教授(行政法)は「被災自治体は人手が不足し、調査にかなりの時間がかかってしまう。国や県による専門職員の派遣など人的な支援を強化していくべきだ」と指摘する。
◆所有者不明建物管理制度=建物の所有者や所有者の所在が判明しない場合、管理不全となっている建物は、利害関係者が裁判所に申し立てることで、事案に応じて弁護士、土地家屋調査士らが管理人に選任される。2023年4月施行の改正民法で導入された。法務省によると、全国で建物の申し立ては253件(25年3月末現在)に上る。被災地での本格活用は、能登半島地震が初めてとなる。

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