6月22日の都議会選挙は、小池百合子都知事率いる都民ファーストの会が第1党となる一方、自民党が過去最低の議席数の“歴史的大敗”に終わる結果となった。ところで、選挙期間中、その二党に共通する“怪現象”が取り沙汰されていたのはご存じだろうか――。 ***
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「6月19日に仕事を終えて家に帰ると、最近は滅多に使わなくなった固定電話に『留守録』のメッセージが。13時半頃に着電したその内容を聞いて驚きました。声の主は小池都知事だったんです」
そう話すのは、文京区在住の会社員Aさん(50代)。
Aさんが録音した音声を実際に聞いてみると――。
<小池です。小池百合子でございます。録音メッセージで失礼いたします。6月22日投票の都議会員選挙では、都民ファーストの会公認の増子ひろき候補へあなたの1票をお願いしたくお電話しているんです。私、小池百合子と連携し、これからも都民の皆様と共に東京大改革を進める大切な仲間、増子ひろき候補へあなたの1票を託してください。今夜8時まで期日前投票もできます。どうぞ増子ひろき候補へ1票よろしくお願い申し上げます。小池でございます。失礼いたしました>
お察しの読者もいると思うが、実は、この音声は自動音声。都議会選挙での「都民ファ」候補者への投票を呼び掛ける電話を受けた、という声はSNSでも複数報告されている。
「最初に留守録を聞いたのは妻だったのですが、『小池です』という音を聞いて『一瞬、ご近所の小池さんから電話があったのかと思った』と話していましたよ」(Aさん)
この話には続きがある。今度はAさんの元に「小泉進次郎」から電話がかかってきたのだ。
「翌日の20日、家に帰るとまた留守録が……。今度は15時半頃でしたが、再生してみると『農林水産大臣の小泉進次郎です』って(笑)。選挙期間中じゃなかったら、詐欺電話を疑ったかもしれません」(Aさん)
小池知事のケースと同様、録音には、以下のようなメッセージが吹き込まれていた。
<突然のお電話で失礼します。農林水産大臣の小泉進次郎です。私は今1人でも多くの皆様が安心してお米をとれる環境を実現したいという思いで全力で仕事に取り組んでいます。自民党はスピード感のある政治で皆様の食を、そして暮らしを守ります。東京都議会議員選挙は22日が投票日。皆さんと一緒に東京の未来を作るために、ぜひ自民党候補者のご支援をお願いいたします。みな様お住まいの文京区では中屋文孝、中屋文孝候補に皆様の大切な一票を託してください。どうぞよろしくお願いします。最後までお聞きいただきありがとうございました>
SNSには、やはり「小泉進次郎」から電話がかかってきたという報告も、多数あがっていた。Aさん同様、電話を受けて「ギョッとした」という声も少なくない。
政治情報サイト「選挙ドットコム」顧問で、ネット選挙コンサルタントの高橋茂氏が解説する。
「いわゆるオートコールと呼ばれるもので、電話の自動音声を用いた投票呼びかけですね。2012年の第二次安倍政権の頃の自民党総裁選で、安倍首相が全国の党員に自動音声で投票を呼び掛けたところ、とても好評だったそうで、そこから広まったと言われています」
元々はテレビや新聞などの報道各社が世論調査を実施する際に、ランダムな電話番号に自動音声を流しデータを収集するのに使われていた仕組みだという。オートコールを請け負う会社は複数ある、と高橋氏は言う。
「正式名称をRDD(Random Digit Dialing)と言います。たとえば世論調査などで、ランダムな電話番号を作成し、通話の繋がった番号に自動音声を流す。これを選挙戦に応用したというわけです。今回で言えば、都議選の対象地域の市外局番や市内局番からはじまるランダムな電話番号を作成し、通話の繋がった番号に自動音声を流したというわけです」(高橋氏)
ランダムな電話番号だけでなく、名簿をデータベースに登録して一斉に架電することも可能だそう。今回も電話番号から選挙区を判定、あるいは事前に入手した名簿などを用いたのだと考えられる。
気になるのは費用対効果だ。果たして、自動音声を聞いて実際に自民党や都民ファに投票しようと思う人がいるのだろうか。
「費用は会社によって違うと思いますが、通話が成立すると1件あたり50円ほどだと聞きました。仮に1万件にかけると50万円ですね。決して安くない金額ですが、スタッフを雇って一斉に電話をかける『ローラー作戦』をするよりかは安価です」(高橋氏)
しかし、効果のほどは――? Aさんへの電話で推薦されていた2人の候補のうち、都ファの増子候補は当選したが、自民の中屋候補は落ちている。
「応援している候補と違う人の音声が流れると気分がよくない人がいるかも知れません。たとえば共産党支持者のところに小池さんの声や小泉さんの声で電話がかかってくる場合もある。でも、そういう人はもともと自民党や都民ファーストには投票しない人たちなので、投票結果に影響は出ないでしょう。むしろオートコールの最大の狙いは無党派層です。『誰に入れたらいいか分からないけれど、小池さんの声を聞くとなんだか少し親近感が湧いたね。じゃあ今回は都民ファーストに入れるか』というような効果を期待しているのだと思います」(同)
ちなみに、選挙スタッフによる電話の投票呼びかけと同じく、公示後であれば公職選挙法に抵触することはないという。
高橋氏は、オートコールでの投票呼びかけは、参院選でも実施される可能性が高いと予測する。
「自民党は参院選でもオートコールをフル稼働させるのではないでしょうか。都議選では都内の有権者以外に電話しても意味がないので、エリアが縛れる固定電話でのみ実施されたようですが、参院選の比例代表では全国が対象となります。携帯番号に対象を拡大して実施される可能性もあります」
さらにいえば、参院選でも「進次郎」から電話がかかってくる可能性が高いという。
「石破さんの声でやっても逆効果になりそうですよね(笑)。もともと知名度が高く、コメの件で人気も上昇している、小泉進次郎さんの声でやるのではないでしょうか。進次郎氏は衆議院議員であるため、参院選で自分の声を使ったとして、公職選挙法上の問題もありません。都議選のオートコールではお米のことを話していましたが、参院選では自民党が公約した現金給付についてアピールしてくるかもしれません」(同)
仮に他党もオートコールを用いるとすれば、国民民主党は玉木代表、立憲民主党ならば、先ごろ擁立が決まった蓮舫氏だろうか。
「知名度ならそうでしょうけど、石破さん同様、蓮舫さんは自身が候補者でもあるので逆効果になりかねない。自治体の選挙ならまだしも、全国レベルでオートコールを使うとなると、費用はかさみます。そもそも、立憲民主党にはそこまでの財力もないかもしれません。カネのある自民党だからこそできる仕組みとも言えますね」(同)
デイリー新潮編集部