「ユリコー！」
６月14日、東京都豊洲のホームセンター前で公明党支持者と思われる男性の大声が響くと、警視庁SPにガードされた小池百合子東京都知事（72）は雨のなか、
「百合子でーす！」
と満面の笑みを浮かべてそう応じた。
小池都政を支えてきた公明党の候補者の応援に13日、14日の両日で計12ヵ所も入った小池氏。小雨が降るなかSPがかざす傘の下で、こう語った。
「今夏の４ヵ月分の水道基本料金を無料にしました。家のなかでも熱中症になる危険があります。浮いた分のお金で安心してエアコンを付けて暑さ対策をしてください。水道局は都の施設なので都としてすぐにできるんです」
’25年度補正予算最終日で可決された水道基本料金無償化。小池知事を支持する自民党、都民ファーストの会（以下、都ファ）、公明党が水道基本料金の無償化を要望。これに都が応じた形だ。無償化は地方自治体で初めての試みとなる。
「７月に参院選を控えた石破政権も国民に一律２万円、子どもに４万円の現金給付を検討し、『参院選向けのバラマキ』と批判を浴びているように、水道基本料金の無償化は『都議選対策のバラマキ』といえるもの。無償化は今夏だけの臨時措置ですから。
また知事は『全国初』と他の自治体を先駆けたフレーズが好みで、無党派層を押さえるための政策を出せたことでご納得のようです」（都幹部職員）
６月13日告示・22日投開票の東京都議選（定数127）。地方選挙の１つであるが、「1100万人の有権者の半分は無党派層」といわれ、国政の影響を大きく受けてきた。過去４回の選挙では議会第一党が、民主党、自民党、都ファ、自民党と猫の目のように変わってきた経緯がある。
’09年の都議選では当時の民主党が54議席の大勝を果たし、同年８月の衆院選で麻生太郎政権に引導を渡す先駆けの選挙となった。
’13年は第２次安倍晋三政権下で自民党が59議席と大差で勝利。’17年は小池知事が旋風を巻き起こし、都ファが55議席で大勝。’21年は自民党が33議席と躍進。自民党は小池知事と敵対していたが、’22年から’23年にかけて自民党東京都連を牛耳ってきた重鎮の死去が相次ぎ、融和政策に転向。都議会では、自民党（30）、都ファ（26）、公明党（23）の３党で連立を組み、国政に先駆け多党政治で議会を運営してきた。
今回の都議選では議席獲得を目指す国民民主党や石丸伸二元安芸高田市長（42）が率いる地域政党「再生の道」も参戦した。
「当初の目論見では、１年以上続く自民党の裏金問題が都議会自民党でも発覚し、政治資金パーティーで裏金づくりに関与した元幹事長６人が非公認となった。『自民大敗でその穴を埋めるのは国民民主か石丸新党か』という構図だった」（都政担当記者）
ところがーー、小泉進次郎氏（44）が新しく農林水産大臣に抜擢されると父親譲りの劇場型政治で「コメ価格高騰対策」と称して連日備蓄米関連の視察をし、メディアジャック。世間の関心もコメ価格や物価高へと移り、裏金問題を覆い隠した。
一方で、野党はその勢いに陰りが出てきた。国民民主党は山尾志桜里元衆議院議員（50）の出馬を巡るゴタゴタや玉木雄一郎代表（56）の備蓄米を巡る“動物のエサ”発言で支持率を落とした。
昨年の都知事選では小池氏に次ぐ二番手に食い込んだ石丸氏が候補者と合同の街頭演説会を行うも、昨年のように駅前を聴衆で埋めつくすような勢いは失われてしまった。
「見聞きした範囲では、再生の道の候補者は本人やその家族などの小規模な陣営のように見える。都政の政策や問題点への理解が浅く、演説も上手いとは言い難い。石丸代表から『声が通るようになった』『演説がうまくなった』と褒められると喜んでおり、本気で勝ちにきているようには見えない。
候補を一本化すればまだ見込みもあったが、杉並区など、定数６にもかかわらず再生の道から候補を３人も出しているところもある。35選挙区に42人も擁立しているので票が分散して共倒れする候補者が続出するだろう」（立憲民主党都議）
真偽の程は定かではないが、選挙前になると永田町に出回る情勢調査がある。今回は「公明（都議選2025情勢調査一覧）」「文春当落予想一覧」なるものが出回り、再生の道はともに「ゼロ議席」となっている。
共同通信の情勢調査（14日～15日）では「自民16％、立憲・共産11％、都ファ10％、国民６％、公明５％、再生 3％」と出ている。
「知事からすれば都ファが第一党に返り咲くことが理想だが、最低でも議会で反対に回る立憲民主党や共産党が躍進しなければいい。立憲と共産は定数３以下の選挙区では棲み分け、うまく戦っているが、共産は現状維持で、立憲は小幅に議席を積み増す程度の予想だ」（前述の都幹部）
初の議席獲得を狙う国民民主党は各報道機関の情勢調査によると「５議席」ほど獲得するのではないかとみられている。
「仮に国民民主が躍進をしても玉木代表と小池知事は希望の党時代の師弟関係にあり、いつでも連絡は取り合える仲。国民民主と都ファは党レベルでも協力関係にあり、国民民主が躍進した先の衆院選では都ファが下支えもしていた。
政界には『選挙の恩は選挙で返す』という言葉がある。国民民主の候補者擁立先は『定数３以上』、『国会議員がいる地盤』など都ファに配慮した形となっている。これらを考えれば、国民民主が議席を獲得後、知事与党入となろう」（同前）
現状では強い追い風が吹いている小池氏。しかし、風向きが一瞬で変わることは政界の常識だ。共同通信の調査で投票先を「まだ決めていない」が実は自民党を凌いで「17％」もいる。亜熱帯気候のような東京の暑さを制するのは自民か都ファか、はたまたーー。
取材・文・PHOTO：岩崎 大輔