クルド人の集住問題で揺れる埼玉県川口市。同市で昨年、地域住民を不安に陥れる事案が発生した。難民申請中で、入管施設への収容を一時的に解かれた仮放免という立場にあるクルド人、ハスギュル・アッバス被告(22)。彼が相次いで2度、女子中学生へ性的暴行をはたらいたとして逮捕されたのである。一度目の容疑では青少年育成条例違反で有罪が確定。その判決が出た3ヶ月後には、12歳の少女、Aさんに対し、再び性的暴行を行ったとして不同意性交等罪の容疑で逮捕、起訴され、現在、さいたま地裁で公判中(裁判長=室橋雅仁裁判長)である。
【前編】では5月12日に行われた被害少女の尋問について詳述した。【後編】では、6月9日に行われたハスギュル被告の尋問について記す。
【西牟田靖/ノンフィクション作家】
【前後編の後編】
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【写真】「トイレで“行為”する10代の男女が…」「掃除すると避妊具が」 クルド人の若者が集まる市内の公園
6月9日、ハスギュル被告への尋問が行われた。厳ついタトゥーや暴走行為などの動画が投稿されているインスタグラムなどから、彼には凶暴で粗暴な印象を持っていた。しかし、証言台に立った被告の声は、それとは180度違う、シャイで内向的な印象を受けた。
傍聴席の最前列にいたが、聞き耳を立てないと聞こえないほどか細くて小さな声。そのため、裁判長に「もっと大きな声で話してください」と何度か注意される有様だった。
弁護人の導きによって、ハスギュル被告は事件当日のことについて語っていく。
「9月13日、(川口)市内のセブンイレブンに行ったのは、心の病院(注:心療内科)の帰り。ジュースを買いに行きました。(自分の)奥さんが持っているレクサスに乗って、一人で。そこでB(注:14歳のクルド人少年)に会った。Bとはそれまで話したことはなかった。友人ではない。だけど、“ドライブに連れて行って”と言われた。“(そのとき)Aさん(注:被害少女)も一緒だよ”と言われたので、二人をレクサスに乗せて、川口市内へ。会話せず、音楽をかけていた。LINEの交換をAとBと。車内で。また会う約束のため。一回目のドライブで年齢は聞かなかった。Aさんは化粧が濃い女性という印象だった。二人を下ろしてから、AさんにLINEした。“ドライブに行こう”“ラブラブしよう”と。返事があったかどうかは覚えてない」
Aさんに送ったLINEの履歴は残っているのか?
「履歴は残っていない。妻にばれたくないので」
ハスギュル被告は約3時間後、AさんとBくんと再びドライブをしている。同じセブンイレブンからすぐ南にある東京外環自動車道へ車を走らせた。
この2回目のドライブ時、事件は起こる。運転していたハスギュル被告は、BくんとAさんが後部座席で親密に過ごすのを見てうらやましく思い、外環の途中で車を停め、後ろの席に移った。そしてAさんに2万円を渡し、口に含む行為をしてもらったという。
「Aさんが了解したと思った」
その後、Aさんは2万円を返してきたとも述べている。
その後、被告は、車を出発させたコンビニとは別のコンビニに移動。
「目の前にあったファミリーマートに車を停めた。エッチをしたかったから。Bに1000円を渡して、タバコと酒を買いに行くように言った。Bが車を降りてから“ゆっくり帰ってきてね。Aさんとエッチするから”って電話で伝えた」
Aさんに聞かれたくなかったのだろう。この時、ハスギュル被告はBにわざわざトルコ語で話している。Aさんにも3000円を渡した後、ハスギュル被告は行為に及ぼうとした。その時の様子を彼は以下のように述べている。
「Aさんは自分から服を脱いだ。ズボンとパンツを脱いで、エッチをしようとしたとき、Bが帰ってきた」
Bが3~4分後と思いのほか、早く帰ってきてフロントガラスを叩いた。そのため、結局、行為には至らなかったという。
「諦めた。帰ろうと思った」
その後、三人は元のセブンイレブンに戻っている。
以上のように、ハスギュル被告は、行為は同意だったと主張している。もっとも、16歳未満に対する性的行為は、同意の有無が関係なく、不同意性交等罪が成立する。性交には、口に含む行為も含まれる。そのため、被告は、Aさんの年齢を知らなかったとも主張している。
例えば、検察官による尋問で「Aさんの年齢は?」と聞かれ、
「大人っぽく見えたが年齢はわからず。でも訊こうとは思わなかった」
弁護人による尋問の際には、
「自分より年下だと捕まると思っていた。だけどAさんは大人っぽく見えた。だから年齢を確認しようと思わなかった」
が、年齢を確認しなかった理由について重ねて聞かれると、
「わからない」「忘れた」
と、しどろもどろの回答となった。
対して、【前編】で記したように、5月12日に行われた尋問で、被害少女は意に添わぬ性的行為をされたこと、そしてハスギュル被告に年齢を聞かれ、「中1だよ」と答えたことを証言している。
両者の主張は対立するが、事件のキーマンはB少年だ。犯行現場となった車に同乗し、一部始終を目撃している。そのB少年は事件直後、検察による取り調べに、ハスギュル被告がAさんに拒否されているにもかかわらず、性的行為を強要したこと、被告が彼女の年齢を確認していたことを証言している。また、事件後、被告から暴行を受け、本件について口止めをされたことも証言している。
が、公判が始まり、証人として呼ばれると一転、上記の供述について「覚えていません」との発言を連発した。検察側はハスギュル被告の関係者による更なる“口止め”があった可能性を強く示唆している。
以上が現在までの公判の内容である。次回公判は7月4日。この日で結審する。
もっとも、どのような判決であれ、成人男性が、12歳の少女といかがわしい行為に及んだこの事件のありようが、日本人とクルド人の“共生”の姿とはほど遠いこと間違いない。川口市民が感じている不安の根源が、この事件には表れている。
【前編】では、被害少女の尋問について詳述している。
西牟田靖(にしむた・やすし)ノンフィクション作家。1970年大阪府生まれ。日本の国境、共同親権などのテーマを取材する。著書に『僕の見た「大日本帝国」』、『わが子に会えない』、『子どもを連れて、逃げました。』など。
デイリー新潮編集部