被害少女は明確に答えた。
「(被告人に)レイプをされました」
別室からの証言だったので顔は見えなかったが、口調はゆるぎないものに聞こえた。ハスギュル被告はその言葉を表情一つ変えず、法廷で聞いていた。
【西牟田靖/ノンフィクション作家】
【前後編の前編】
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【写真】「トイレで“行為”する10代の男女が…」「掃除すると避妊具が」 クルド人の若者が集まる市内の公園
6月初旬、人口の8.3%を占めるなど全国で最も外国人比率が多い埼玉県川口市で以下の調査結果が報じられた。
〈川口市「治安が悪い」市民の5割が感じる 前年から2割増、20代女性は7割 市意識調査〉(産経ニュース2025年6月7日)
特筆するべきは、18~20歳代の女性の回答である。その年代の女性たちの70%超が治安の悪さを感じていると答えたのだ。統計上、川口市内では凶悪な犯罪の発生が決して増えているわけではない。しかし、住民、とりわけ若年女性に不安を感じさせる性的犯罪が起こっているのは事実だ。中でも衝撃的だったのが、クルド人、ハスギュル・アッバス被告(22)による、女子中学生への性的暴行事件であろう。彼は昨年1年間の間に二度も逮捕、起訴されているのだ。
ハスギュル被告は、小学生だった頃、先に来日していた父親を頼って日本に来たトルコ国籍のクルド人。当時、日本語がまったく話せなかったため、勉強についていけず、中学校をドロップアウト、父親の解体業を手伝うようになった。SNSには、タトゥーだらけの上半身の写真や、改造車とおぼしき極端に車高の低い乗用車で暴走している動画が投稿されている。逮捕時は難民申請中で、入管施設への収容を一時的に解かれている仮放免中という立場。日本人女性らしき妻がいる。
そのハスギュル被告が二度にわたって逮捕、起訴された事案を振り返ってみよう。
一度目は2024年1月。報道によれば、被告は川口市内のコンビニ駐車場に止めた乗用車内で、都内の10代の女子中学生に性的暴行をし、不同意性交等罪の容疑で逮捕された。県青少年健全育成条例違反罪で起訴され、5月、さいたま地裁で懲役1年、執行猶予3年の有罪判決が確定した。
その判決が出て3ヶ月あまりしか経っていない昨年9月13日夜、やはり川口市内のコンビニ駐車場で12歳の少女、Aさんに対して性的暴行をはたらいたとして、不同意性交等罪の容疑で逮捕、起訴された。現在、さいたま地裁で公判中(裁判長=室橋雅仁裁判長)である。
同裁判では、5月から被告や被害少女、関係者への尋問が開始された。【前編】ではAさんの証言を記述する。
尋問が行われたのは5月12日。被害少女Aさんはハスギュル被告のすぐそばで証言するストレスを避けるため、裁判所の別室から映像や音声で証言するビデオリンク方式にて証人出廷した。
一方、被告は刑務官に両脇を挟まれ、手錠と腰縄を科された状態で現れた。手錠と腰縄を外されると、国選弁護人手前の長椅子に着席した。
ハスギュル被告は、黒っぽい上着とジャージーのズボン姿でサンダル履き。体のあちこちにタトゥーが彫られていて、左手の甲には赤や青のまだら模様の入れ墨、右目の下には涙型、首筋にはキスマークの彫り物が確認できた。本人がSNSに載せた運転中の写真では、上部をピンクまたは紫色に染めツーブロックで刈り上げるという派手な髪型だったが、今はすっかり伸びてしまっていた。
Aさんの証言の間、ハスギュル被告は、正面を見て少女の声を聞いていた。
Aさんが証言する前に行われたことがある。Aさんが女性警察官に被害について話す「司法面接」(2回分)の映像と音声(傍聴席からは見えない)が、証拠として法廷で約1時間、流されたのだ。
休憩時間を挟み、Aさんへの証人尋問が行われた。
ここで問題となるのが、ハスギュル被告がAさんの年齢を把握していたのかということである。容疑となった不同意性交等罪は、事件当時被害者が16歳未満の場合、行為に同意があってもなくても罪に問われるからだ。
事件があった9月13日、ハスギュル被告の運転する黒のレクサスに、Aさんは知人でクルド人の少年Bくん(14)とともに乗り、川口市内やその近辺をドライブしている。それまでAさんはハスギュル被告と会ったことがなかったという。
「アッバス(ハスギュル被告)とは、知人であるBの紹介で初めて会いました。Bはアッバスを“いい人だから”“めっちゃ優しい人だから”と言ってて、なかば無理矢理、車に乗せられました」
ハスギュル被告はAさんの年齢を把握していたのか?
「1回目のドライブで、アッバスから“何歳?”と聞かれ、“中一だよ”と答えました」
車から降りるとき、Aさんはハスギュル被告から1000円を渡された。
そして、降りた後、ハスギュル被告からLINEのメッセージを受け取っている。
「そこには“10分だけでもいいからドライブしよう”“ラブラブしよう”と書いてありました。私は“嫌だ”と返事しました」
が、断り切れなかったのか、3時間ほどたった後、AさんはBくんとともに再びハスギュル被告の車に乗り、2回目のドライブに出かけている。その際、車の中で、彼女は首を押さえつけられ、口に含む行為を強要された。「嫌だ」と抵抗しても、聞き入れられなかったという。その後、
「アッバスはBくんにお金(1000円)を渡し、“酒とタバコを買ってこい”と言って、(Bが)車を降りた後のことです。助手席のシートを倒されて服を脱がされて」
さらなる性的暴行を受けた。
「入れられました。“嫌だ”“痛いからやめて”と言って抵抗したんですが、アッバスは“だいじょうぶだから、だいじょうぶだから”と言って、やめてくれませんでした。そのとき、Bくんが買い物から戻ってきて“アッバス、何やってる?”と言って助けてくれました」
事件後、彼らのたまり場になっているコンビニ駐車場で降ろされた。
「そこには(仲間たちが)30人ぐらい、日本人を合わせたら35人ぐらいが集まっていて、アッバスの車から降りてきた私を助けてくれました。そして“医者に行った方が良いよ”と言ってくれました」
その後、警察官が駆けつけた。Aさんは被害届を出すと共に、病院で検査を受けた。
事件後しばらく、Aさんは不安な気持ちが拭えずにいた。
「犯人がまだ捕まっていなかったので怖くて眠れなかった。捕まるまで怖い気持ちでした。(ハスギュル被告は)長く(長い期間)捕まってほしいです」
一方のハスギュル被告は、6月9日の尋問で起訴内容を否認している。双方の言い分はどのように食い違っているのか。【後編】では、彼の尋問内容について詳述する。また、同乗者のB少年の供述内容も紹介する。
西牟田靖(にしむた・やすし)ノンフィクション作家。1970年大阪府生まれ。日本の国境、共同親権などのテーマを取材する。著書に『僕の見た「大日本帝国」』、『わが子に会えない』、『子どもを連れて、逃げました。』など。
デイリー新潮編集部