「学校に行きたくないから、行かない」小6の娘が理由を言わず不登校に…困った両親に養護教諭が勧めた“黒字ノート”とは?

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〈「犯罪者になりたいのか」両親を殴り、家の柱をノコギリで切ったことも…19歳男子を変えた恩人の“4文字のメッセージ”とは〉から続く
「小学生の25人に1人、中学生の10人に1人が不登校」と言われている、近年の教育現場。身近な子が不登校になってしまったとき、私たちに何ができるのか。
【写真ページ】不登校を克服した子どもたちの事例を一気に見る
40年以上にわたり、教育相談に携わってきた海野和夫さんの著書『不登校を克服する』(文春新書)より、不登校から立ち直った子どもたちの事例を抜粋して紹介する。(全3回の2回目/1回目から読む)
◆◆◆
わが子2人、下の子が不登校になった。少し前から学校に行きたくない、学級が嫌だと言っていたが、「学校に行きたくないから、行かない」という言葉を聞いて驚いた。両親は、まさかわが家に不登校が出るなんてと思い、愕然とした。
写真はイメージ show999/イメージマート
理由を聞いても、子どもは、ただ「学校には行かない」と言うのみで、困り果てた。何をしてよいのか分からず悩んだ。母親は小学校の養護教諭を訪ねた。養護教諭はこの子のことをよく知っており、「黒字ノート」をつけることを勧めた。
黒字ノートとは、家計簿には、収入と支出の欄があるが、収入の欄を黒字と見立てて、黒字だけを書くことである。この場合の黒字とは、わが子のよさのことで、黒字ノートをつけるとは、それらを探し、気づき、明確化し、ノートに書き留めることである。母親は、A5判のノートを買い求め、その晩から書き始めた。
最初は、不登校の子どものことだけを念頭に入れ、おはようと言った、ご飯をそこそこに食べた、パジャマを自分で脱いで着替えた、行ってらっしゃいと言った、ありがとうと言えたなど、子どもの行動だけを書き出していた。
しばらくして、それは黒字ではないことに気づいた。また子どもは2人いる、2人の黒字を書くべきだと思った。2週間後、2人のよさを見つけ、1日1人、一言か一行書き続けた(養護教諭から一行で済ますこと、それが長続きのこつ、との助言があった)。同じ言葉を続けて書かないことを戒めとした。
夫も参加し、2人で書き終えて顔を見合わせ、頷き合った。夫婦連合ができた。穏やか、楽しいことを見つける、活気が出て来た、眼がきらきら、正直、感じがいい、はつらつ、控えめ、ひたむきなど、黒字は子どもの人間性に目を向けた表現に変わって行った。
それを読み直し、子どもそれぞれの人間性や性格を正確に捉えていることに気づいた。わが子たちを“個”として育てる意識がつよまった。また、わが子たちを躊躇なくほめられるようになった。

子どもたちは、自分のよさを言い聞かされ続けて、自分のよさを自覚し、成長の笑顔が増えた。やがて子どもたちはきょうだい揃って登校するようになった。
短期療法には、困難な問題を解決する「万能鍵」(スティーヴ・ド・シェーザー)がある。それは、どんな問題にも有効な解決の手だてのことである。それは具体的に「書け、読め、焼け」(同前)である。
それはこの場合、黒字ノートを書き、書いたものを読み直し、そして焼くという作業をすることである。焼くとは、書いたものをしまい、新しいステップに進むことである。黒字ノートは万能鍵の一つである。
*補足
かつて地域の大学に短期療法を専門とする教授が在任していた。短期療法を教えていた。その教え子たちが、地域に「短期療法を学ぶ会」をつくり、今でもその学び合いを続けている。
この養護教諭もこの学ぶ会に参加し、学校で短期療法による問題解決に取り組んでいた。黒字ノートも学び覚えた手法の一つであった。黒字ノートは肯定的自己像を膨らませるのに有効な技法である。平易であり、根気強く続けると問題解決が早まる。
〈「もうすぐ20歳になる息子に何をするのか!」と母親を一喝…“行き過ぎた愛情”で不登校になった子を救った消防団部長の一言〉へ続く
(海野 和夫/文春新書)

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