【高齢者と水の新常識】医師が語る「1日2リットル」が心配な理由とは? たくさん飲めば良いワケではない“熱中症対策のNG”

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元気な高齢者に共通している習慣とは? 多くの高齢者を診察してきた経験を基に、『文藝春秋PLUS』で「健康診断は宝の地図だ」を連載中の一之江駅前ひまわり医院院長・伊藤大介氏と、“在宅診療の革命児”として知られる、しろひげ在宅診療所院長・山中光茂氏が語り合った。
【画像】伊藤大介氏は『文藝春秋PLUS』の連載で健康診断の活用法を解説している
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山中 食事に関連して、ぜひ紹介したいことがあります。特にこれからの季節は「水の飲み過ぎ」に注意してもらいたい。健康意識の高い方こそ気をつけてほしい。
山中光茂氏が7年前に開業した「しろひげ在宅診療所」は訪問診療に特化 文藝春秋
というのも、よく「健康や美容のために1日に水を2リットル以上飲みましょう」とメディアで紹介されることがありますよね。たしかに、水分不足は代謝を下げ、熱中症や脳梗塞といった様々な健康障害の原因になり得るので注意が必要です。しかし、患者さんを診ていると、水を摂らないことによる症状よりもむしろ、水の飲み過ぎによる心不全や腎不全の症状悪化、誤嚥性肺炎のほうが多いんです。
伊藤 以前、夏場に来た80代の患者さんが「眩暈がすごいんです。吐き気もすごくて」と言うので採血したら、血液中のナトリウム濃度が基準値を大幅に下回っていたことがありました。熱中症対策でたくさんお水を飲んだそうで、低ナトリウム血症になってしまったんですね。

山中 低ナトリウム血症は重篤化する可能性もあるので、馬鹿にならない。あとは息切れ、高血圧、足のむくみがある人は、水の飲み過ぎで心不全の傾向にある可能性があります。高齢者の場合、1日に飲む水は1リットル程度を目安にした方が良いでしょう。
伊藤 高齢者は余計な水分が体内に無い状態の方が、息苦しさが減ると言います。
山中 水分量や点滴の量を減らしたら「呼吸が楽になった」という患者さんは結構多い。若い頃に良いとされたことが、年を取ってからは逆効果になることも多いんですよね。
伊藤先生は「文藝春秋PLUS」で健康診断についての連載を持っていますよね。「元気」を維持するために注目する指標があれば、ぜひ教えていただきたいです。
伊藤 各市町村では、後期高齢者向けの健康診断「長寿健診」を実施しています。75歳以上の方、あるいは65歳以上で後期高齢者医療制度に加入している方が対象の健診ですが、この中で僕が一番注目する項目は「握力」ですね。

山中 握力はここ数年で長寿健診の項目に加わったんですよね。
伊藤 そうなんです。新しく加わったのにはやはり理由がある。健康診断で他の数値が良くても、握力はその推移も含めて、しっかり見ておきたい指標です。
というのも、握力は基本的ADLを保つために欠かせない、先述のフレイル予防に直結するからなんです。
山中 フレイルは転倒や寝たきりのリスクを高めますからね。
伊藤 診察していても実感しますよね。そのフレイルの最大の原因のひとつが筋力の低下です。中でも握力は、全身の筋力と相関があるとされています。手の力ですが、実は体幹を含めた筋肉量や筋力の指標になるんです。例えば70歳以上の女性の平均握力は20キロ前後と言われていますが、これが10キロを下回ってくると、かなり心配になります。男性だと20キロ以下が一つの目安になります。
山中 それくらいの数値になってくると、患者さんも日常生活で物を持つことが、段々しんどくなってきますよね。
本記事の全文(約7000字)は、月刊文藝春秋のウェブメディア「文藝春秋PLUS」に掲載されています(伊藤大介×山中光茂「元気な90歳 毎日のルーティン」)。
(伊藤大介,山中 光茂/文藝春秋 2025年6月号)

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