「小さい頃から性に興味がない」50歳夫 レスすぎる夫婦生活に妻が「外注」を宣言するまで

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【前後編の前編/後編を読む】自分は性に薄いと思っていたけれど…50歳既婚男性が「好き」と気づいた 意外な相手の正体は
「不倫」は、相手を恋愛対象と感じたところから始まるのか、あるいは性的対象として見たところからか、はたまた実際の性行為があったところからなのか。裁判等で争われる場合、多くは性行為があったとき、あるいはそうとしか推測できないときに「不倫」が成立するようだが、当事者あるいはパートナーの意識も同じなのだろうか。
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「僕は“不倫”をしているとは思っていませんが、それ以上につらい思いをしているのは事実です」
加瀬浩毅さん(50歳・仮名=以下同)は、そう言って唇を噛みしめた。自分の中に潜んでいた欲求や感情が思わぬ形で彼自身を襲い、抑え込んでいたものがあふれるのをぎりぎりで食い止めている状態だという。
浩毅さんには結婚して20年になる2歳年下の妻と、今年大学に入ったばかりのひとり娘がいる。家庭は大事にしてきたし、家族は彼の生きがいだった。だがそれが今や崩壊寸前だと感じている。
「妻の美緒とは学生時代からの知り合いです。広い意味での友だちだったけど、特に仲がよかったわけではなく、みんなで会うときによく顔を合わせるという程度だった。彼女にはつきあっている男性がいましたから」
就職してからはみんなで会う機会も減ったが、3年後、東京のど真ん中で美緒さんにばったり会った。勤務先は、実は隣同士のビルだった。
「あるとき珍しく外でランチをしようと人気の店に並んでいたら、2人ほど前に彼女も並んでいた。一緒にランチをすることになって仕事の話などをしていたら、彼女が急に『今日の夜、会えない?』って。疲れた顔をしているなとは思っていたんですが、彼女、5年近くつきあっている彼に、いきなりフラれたという。彼は人妻に走ったそうです。最低な男よと、ときどき愚痴りながらぐいぐい飲んで、けっこう荒れてましたね」
付き合っていた相手は3歳年上の先輩だった。そう遠くない将来に結婚しようと約束もしていた。それなのに裏切るなんて。まして相手は人妻、恋が実る可能性は低かった。それでも長年つきあってきた自分ではなく、人妻を選ぶのかと美緒さんは打ちひしがれていたという。
「彼女の嘆きが伝わってきて、それからは求められるがままに食事やお酒につきあいました。かわいそうだと思ったし、なにより彼女と一緒にいる時間と空間が好きだった」
いつの間にか美緒さんは、浩毅さんにとって大事な人になっていた。だが彼は関係を積極的に進めようとはしなかった。彼は女性とつきあう経験をしたことがなかったし、自らの性的欲求もあまり感じたことがなかったからだ。
「ふたりでよく会うようになっても、どちらからもつきあおうという言葉は出なかった。彼女は深く傷ついていたから、すぐに誰かとつきあうような気分じゃなかったんでしょう。僕もそれはわかっていた。彼女と会うのは楽しかったけど、このままの関係でいいとも思ってた。恋というものをあまり重視していませんでしたから」
一緒にいれば楽しい。だが長い時間、深い関係だと負担になる。そこが一致していた。彼女は前の恋の痛手から、そして彼はもともと「恋」に疎かったから。このまま友だちとして関係が固まるかと思われたころ、美緒さんに海外駐在の話が出た。
「名誉なことですよね、社員の中から選ばれるなんて。彼女も興奮していました。祝杯をあげたんですが、彼女がふと『私たちってどうなるんだろう』とつぶやいたんです。その言葉に押されるように『婚約しよう。美緒が帰ってきて気持ちがかわらなかったら結婚する。婚約に縛られるのが嫌ならしなくてもいいけど』と言ったら、『婚約しよ』と彼女も言った。離ればなれになって気持ちも離れていくのが怖かった」
彼女が帰国したのが29歳のとき。そして30歳になる手前で結婚したが、その時点までふたりはセックスはおろかキスさえしたことがなかった。手を繋いで歩いたことはあるが、
「濃厚接触はふたりともしようとしなかった」と彼は言う。
「どうしてか僕は性には本当に興味がなかった。小さいころからですね。3歳違いの兄がいるんですが、10代のころ兄は友だちと回し読みしたエロ雑誌をよく僕のベッド下に放り込んでいたんです。母がそれを見つけて、『まったくもう』と文句を言うと、『読んだらオレに回せ』と父が言って笑い合う。そんなことがよくありました。ただ、なんだか僕は笑えなかった。ヌードをさらしている写真の女性の気持ちもわからなかったし、それを見て喜ぶ男たちの気持ちも理解できない。10代から大学時代にかけてはわかったような顔をして、友だち同士のエロ話にもつきあっていたけど、実際には興味がなかったんですよね」
それでも結婚に踏み切ったのは、美緒さんという存在を失いたくなかったから。だが新婚旅行でも何もしようとしなかった浩毅さんに、さすがの美緒さんも我慢できなかったのだろう、襲いかかってきたという。
「もういいでしょ、結婚したんだからって。怖かったですが、そこで怯むわけにもいかず、がんばりました。できたときはホッとした。結局、いろいろ考えすぎて何もできなかったんだということがわかったから」
そのただ1度で美緒さんは妊娠、娘が産まれた。妻が妊娠してから、彼にとっては妻の体が神秘そのものとなり、「自分などが手を出してはいけない」と思うようになった。「聖母」のイメージが抜けなかったのだという。
さらに出産にも立ち会ったため、「凄絶な苦しみの中から命を生み出す瞬間」に衝撃を受けた。これほど崇高で、なおかつこれほど動物的なことがあるのだろうかと数日間は食べ物も喉を通らないほどだった。
「産まれた子は天使のようにかわいくて、もういっそ会社を辞めて子育てに専念しようかと迷ったほどです。愛おしいという言葉をあんなに噛みしめたことはなかった」
生後半年ほどたったころ、妻から「ねえ」と誘いを受けたが、彼はその気にはなれなかった。「自分のアレを妻の体に入れるなんて、とてもじゃないけどできない。なんだかそうやって卑下する気持ちが止められなかった」そうだ。たまにこういう男性は存在する。そうやってセックスレスになってもいくのだが、彼はもともと性的欲求をほとんど自覚したことがないから、性的なことと離れていたほうが心が落ち着いた。だが妻としてはそうはいかない。
「もう私のことが嫌いなのかと聞かれたりもしました。そうじゃない、僕の問題だと思う。でも何が問題なのかよくわからない。僕はきみと娘を世界で一番愛している、それだけは本当なんだと繰り返し言った。だったらしようよと美緒は言う。好きだからこそできない、大事だからこそ手を出せない。その気持ちはわかってもらえなかったんでしょうね」
娘を保育園に預けての共働きだったが、浩毅さんは自ら「自分がなるべく定時で帰る」と決めた。妻は海外駐在を求められるような「デキる女」なのだから、自分が家事育児はメインでやるつもりだった。
「妻も娘とはどっぷり関わりたいと思っていたようで、結局、ふたりとも極力、定時で帰って家族の時間が増えていった。娘を真ん中にして妻との関係も深く強くなっていくと僕は信じていたんですけどね……」
ある日、美緒さんは彼の目を見てはっきりと言った。
「私はあなたが好きだし大事だと思っているけど、自分の欲求も大事にしたいの。私はセックスしたい。だから外注する。家庭には迷惑をかけない。それでいい?」
この言葉に浩毅さんは「感動した」という。言いにくいことをこんなにはっきり言うのはすごい。それによって彼は少しだけ肩の荷が下りたような気になった。
***
思わぬ形で決着を見せたかに見えた、浩毅さん夫婦のレス問題……。【記事後編】で紹介するのは、彼が「つらい思いをしている」と語る今日に至るまでの、やや意外な展開である。
亀山早苗(かめやま・さなえ)フリーライター。男女関係、特に不倫について20年以上取材を続け、『不倫の恋で苦しむ男たち』『夫の不倫で苦しむ妻たち』『人はなぜ不倫をするのか』『復讐手帖─愛が狂気に変わるとき─』など著書多数。
デイリー新潮編集部

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