《沖縄で相次ぐピットブル事件》「チェーンを噛みちぎって引きずった痕も…」自治体が狂犬病の予防接種すら把握できない“特殊事情”「米軍関係者の飼い犬だった」

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沖縄で米国産の「闘犬」の被害が相次いでいる。問題となっているのは、「アメリカン・ピット・ブル・テリア」。「ピットブル」の通り名で知られ、米国内でブルドッグとテリアを交配させて誕生した“ハイブリッド型”の闘犬で、米歌手のジャスティン・ティンバーレイクやメジャーリーガーのダルビッシュ有投手ら有名人も飼っており、愛犬家の間でも知られる犬種だ。
【写真】小型犬を咬み殺したメスのピットブル
一方で、闘犬特有の気性の荒さから飼育の難しさや危険性が指摘されており、2023年8月には岐阜県各務原市で高校生など2人がかまれて全治約1か月のけがを負う事件もあった。沖縄では4月から5月にかけて、沖縄市と金武町で飼われていたピットブルが逃げ出し、別の飼い犬に噛みついて死なせる咬傷事故が相次いでいるが、背景には米軍基地が集中する“沖縄特有の事情”も関係しているようだ。
「大きな犬が付近を徘徊している」
沖縄署にこんな訴えがあったのは、6月8日午後のことだった。本島中部の北中城村の路上で首輪が付いていない犬を目撃した住民が同署に通報。同署が犬の捜索、飼い主の特定に乗り出した。
「目撃情報によると犬の体毛は茶色で、体長は約70センチ。体高は成人の腰程度の高さにも達するとのことでした。大型犬はピットブルとみられています」(地元メディア関係者)
この「迷い犬」の件は地元メディアで大きく報じられたが、それにはワケがある。実は県内ではこのところ、このピットブルを巡る事件・事故が相次いでいたからだ。
「5月30日深夜、本島北部・金武町の民家の庭に入り込んだピットブルが、この家の飼い犬にかみついて死なせる事故がありました。ピットブルは体長約1メートルの雄で、庭にあった犬小屋に侵入し、飼い犬の首元にかみついた。
被害に遭った飼い犬は、つながれていたチェーンを引きちぎられ、数メートルにわたってひきずられた痕跡があったようです。ピットブルは住民からの通報を受けて駆けつけた警察署員に確保されました」(同前)
4月にも、この咬傷事故があった金武町にも近い本島中部の沖縄市で、別の咬傷事件が起きている。
自宅で飼育されていた大型犬が逃げ出し、別の飼い主の女性が散歩させていた小型犬にかみついて殺したのだ。大型犬はリードを付けて散歩させていた小型犬に飛びかかったとされる。こちらの大型犬については、「ピットブルではなかったものの、ピットブルと同じような闘犬種だった」(地元関係者)という。
4月から5月にかけて相次いだ、これらの咬傷事故に共通しているのは、双方ともに沖縄が関わる特殊事情が背景にあることだ。
「いずれの犬も米軍関係者の飼い犬だったのです。民家の庭に入り込んで飼い犬をかみ殺した金武町のピットブルについては、アメリカ海兵隊員とその家族が飼っており、海兵隊員の自宅から逃げ出した後に徘徊し、事故を起こしています。一方、沖縄市の事案では飼い主が在沖アメリカ軍で勤務する軍属でした。
現場となった金武町には、海兵隊基地のキャンプ・ハンセンが、沖縄市には空軍基地の嘉手納飛行場がそれぞれあり、アメリカ軍関係者の住民が多い。これら基地周辺の街では、大きな犬を連れて散歩するアメリカ軍関係者とみられる外国人の姿を見かけることは少なくありません。中部に被害が集中しているのは、こうした事情も関係しているようです」(同前)
前出のジャスティン・ティンバーレイクをはじめとして愛犬家のハリウッドセレブの間でも、ピットブルをはじめとした闘犬種の人気は高い。一方で、闘犬として生まれたこともあり、突出した戦闘能力と獰猛な一面も併せ持ち、アメリカ国内の一部の州では「危険犬種」として飼育が規制されてもいる。「アメリカ軍関係者の中には、本国のような規制のない日本での勤務を好機と捉えて、飼育を始める者も少なくない」(同前)という。
沖縄でピットブルにまつわる事件・事故が多発するのには、こうした事情も関係しているとみられるが、問題は他にもある。
「ピットビルやロットワイラーなどの闘犬種については、基地内にある米軍家族住宅での飼育は原則禁止になっています。ただ、基地外に住むアメリカ軍関係者についてはこうした規制の対象外となっているのです。
金武町や沖縄市などの基地周辺自治体には、アメリカ軍関係者が住む、いわゆる『米軍住宅』が複数ありますが、彼らは基地内のルールの枠外にいる。問題なのは、自治体側が彼ら基地外に住むアメリカ軍関係者の家族構成やペットの数を把握できていないことです。ですから、犬の飼い主に義務づけられる狂犬病の予防接種さえきちんと行われているかもわからない状況です」(同前)
こうした問題が引き起こされる原因のひとつになっているのが、日本とアメリカの間で結ばれた「日米地位協定」だ。
日本に滞在するアメリカ軍の軍人や軍属、家族の地位について定めたこの協定については、アメリカ軍関係者が刑事事件を引き起こした際の身柄引き渡しの問題など、アメリカ側にさまざまな“優遇”がされる点などが繰り返し議論になってきた。基地外のアメリカ軍関係者の飼い犬の扱いについても、この取り決めがある種の障壁になっているというのだ。
「地位協定に基づいて日本に在留するアメリカ軍関係者は、基地内ではアメリカ国内に居住しているのと同じ扱いになり、アメリカ国内の法規の適用範囲内となる。基地外では、原則、日本の法律が適用されますが、住民基本台帳への登録は対象外です。そのため、自治体側が居住実態を把握できないという問題が生じるのです。
だから、基地外でアメリカ軍関係者に飼われている闘犬については、その飼育環境がどうであるかはもちろん、実数さえも把握できないという状況になっているわけです」(同前)
ピットブルは飼い主にとってはかわいい“家族”の一員でも、赤の他人にとっては鋭い牙を備えた猛犬であることに変わりはない。飼育上のモラルを守ることは、愛犬家を名乗る上では必要条件であることを忘れてはならない。

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