夏の参議院選挙へ向けた出馬会見のはずが、過去の不倫報道への謝罪会見のようになってしまい、会見の翌日に公認内定が取り消される……。そんな前代未聞の事態が、とある女性政治家に起こっている。
6月11日、国民民主党は夏の参院選比例代表に公認候補として擁立した山尾志桜里元衆議院議員(50)の内定を取り消した。山尾氏は前日の10日に国会内で出馬会見を開催したばかり。
2時間半に及んだ会見の大半は’17年に『週刊文春』が報じた既婚の男性弁護士とのW不倫問題についてであった。
8年前の山尾氏は文春の報道に対して、「そのような事実はない」「男女の関係ではない」などと一方的に述べ、質疑応答はせず、逃げるように立ち去った過去がある。参院選を控えたこの日の会見では、当時の謝罪から始まった。
「8年前の当時の自分には大変、おごりがあったと思います」
「ご指摘を受けた時の自分の対応、未熟だったと心から反省しています」
山尾氏は立ったまま当時の対応を陳謝。しかし、山尾氏が謝罪や反省の言葉を続けるも、質疑応答の冒頭から不倫関係が事実か否かを確認する質問が相次いだ。
山尾氏は涙を浮かべ、謝罪の言葉を口にしながらも「今、その件について新たにお話をさせていただくことはご容赦いただきたい」「関係者に迷惑がかかるので私の口から言葉を紡ぐことはできない」などと繰り返し、明言は避けた。
要領を得ない返答に苛立った報道陣から厳しい質問が続くと「8年前に申し上げていることはそのまま事実で、新しく言うことはご容赦いただきたい」と同じフレーズを繰り返し、挙げ句の果てには「すみません。申し訳ありません。お話できません」とうつむいて謝罪をし、質疑応答の体をなしていなかった。
山尾氏を擁立した国民民主党はネット世論を背景に党勢を拡大してきた政党だ。そのため、SNSなどでの評価は高く、昨年11月に『FLASH』が報じた代表の玉木雄一郎氏(56)の不倫報道も乗り越えてきた過去がある。
しかし、5月14日に国民民主党が山尾氏の擁立を発表すると、党支持率は下落し、SNSなどでかつてないほどの批判が広がった。国民民主党の候補者の一人は匿名を条件に次のように語る。
「昨秋の衆院選で4倍増の28議席の躍進後も勢いは止まらず、今年の1~4月に投開票された横浜市議補選、小金井市、大分市、静岡市、鎌倉市など市議会選挙で国民民主党の候補がトップ当選を果たした。
しかし、山尾氏らが5月14日に公認候補として発表されると批判は広がり、18日に投開票された埼玉県和光市議補選では国民民主党の公認候補が敗れ、山尾ショックとして動揺が広がった。山尾氏が必死になって弁明しようとすればするほど支持率が落ちていく。参院選もこのままでは、と危ぶまれていた」
共同通信の世論調査では、4月に政党支持率18.4%あったものが、5月には13.2%と急落。参院選の告示日まで1ヵ月半となるも党勢の回復は見込めなかった。
参院比例代表は非拘束名簿方式というもので、投票用紙に政党名か候補者名で投票できる仕組みだ。比例候補のなかで多く名前を書かれた順に当選となるため、候補者は自身の名前を書いてもらう必要があり、参院選の全国比例では政党内の候補同士がライバルとなる。
「参院選の比例は全国を1つの選挙区として候補を選ぶために大きな組織内の候補でなければ、知名度がものをいう。国民民主の比例の当選ラインは『5万票から10万票』と目されている。
そのため、自民党の全国比例候補の杉田水脈元衆議院議員(58)のように、炎上してでも名前を広げたがる候補者が多い。全国から10万近く票を集めるとなると、エッジをたてた発言で耳目を集める手法が取られることがあり、その発言のなかには党の見解とは異なる発言も出てくる」(同候補者)
5月15日、山尾氏はXに「女系天皇の議論を避けつつ、女系天皇の選択肢を排除する進め方は間違っています」と投稿。国民民主の「男系継承」の考えと異なり、幹部が火消しに走った経緯がある。
「女系天皇について触れたのは、愛子内親王(23)への継承を求める層が一定数いて、そこにリーチしたいのだろう。しかし、得票目当ての発言であることは透けて見える。
公認発表の翌日で注目が集まるのをわかったうえでポストしており、なまじ発信力もあり、比例候補の間では『山尾氏は自分が当選すればいいのか』と批判が集まっていた」(同前)
11日両院議員総会後、玉木雄一郎代表(56)は公認内定見送りについて「有権者や全国の仲間から十分な理解と信頼が得られないと判断した。批判は真摯に受け止める」と説明。
会見を開くも謝罪をするだけで説明責任を果たさなかった山尾氏。山尾氏自身に発信力があることで想像以上にSNS上で批判が広がり、ネット世論で伸びてきた国民民主党が切り捨てるのは時間の問題だった。
国民民主党の衆議院議員は今回の騒動について
「山尾氏の出馬会見に党幹部の同席はなく、ひとりでの会見だった。つまりそういうこと」
と語った。一連の騒動のコメントを貰うためにJR中央線・吉祥寺駅の繁華街に新設された山尾事務所を尋ねると、シャッターがおろされており、郵便受けはテープで開かないようにしてあった。
商店街の関係者に話を聞くと、
「1週間前に雑貨屋の倉庫を突貫工事で事務所にしたものの、11日夕方には1階のポスターも剥がし、シャッターがおろされた」
という。12日、山尾氏は党に離党届を提出したことを発表。吉祥寺駅前で参院選比例候補の須藤元気氏(47)と共にビラ配りをしていた国民民主党の都議会選挙の松井隆雄候補(50)はこうつぶやいた。
「可能であれば再チャレンジして欲しかった……」
急進している国民民主党は今後、人材不足が懸念点となろうか。
取材・文・PHOTO:岩崎 大輔