「キーボードの音がうるせえんだよ!」とデスクを蹴られ…いま急増中のコワーキングスペースで起こっている「深刻なマナー問題」

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コロナ禍を奇貨として社会にすっかり浸透したコワーキングスペース。ザイマックス総研が2024年に実施した調査によると、東京23区内のフレキシブルオフィス(コワーキングスペースを含む)の拠点数は1777件で、2021年の762件から約2倍に増えている。人口100万人を超える政令指定都市の拠点数を加えると2820件にものぼる。
急成長を遂げたコワーキングスペースで起こる様々なマナー問題やセキュリティリスクを紹介する。(全2回の1回目)
コワーキングスペースとは、リモートワーク可能なビジネスパーソンやフリーランスなどが利用する共同オフィスだ。基本的に座席はフリーアドレスで、月額料金も1万円台からと安い。固定席プランを設ける施設も珍しくない。
リモートワークを廃止する企業が増えているとはいえ、ひと頃に比べれば明らかに利用者は多く、働く場所の選択肢のひとつとしてすでに定着していると言ってもいいだろう。
ただ、このコワーキングスペースで息苦しい経験をしたことのある利用者は意外と多い。彼らが直面しているのが、利用者のマナー問題だ。特に、昨今増えつつある常駐スタッフ不在のコワーキングスペースは、利用者同士のトラブルに発展しやすい。
とあるコワーキングスペースのフリーアドレスプランを契約する広告代理店勤務の町田光一さん(仮名・33)も、そんなトラブルに巻き込まれた利用者のひとりだ。
「ある日、離席して席に戻ると、すぐ横の壁に『キーボードのタイプ音は静かに!』という注意書きが貼られていたんです。黒いマジックで殴り書きされていて、即席で作ったような感じでした。
僕はテキストベースのやりとりが多かったので、キーボードを打つ時間は他の利用者よりも長かったかもしれません。ただ、パソコン初心者ではないので、キーボードを強く叩いたりはしていない。まさか自分のことではないだろうと思って、そのときは特に気にも留めませんでした」
しかし、次の利用時にトラブルに巻き込まれてしまう。
「離席しているあいだに、前回と同じ注意書きがまた貼ってあったんです。しかも今度は僕のパソコンの画面に貼られていた。気持ち悪かったのですぐにゴミ箱に捨てました。
しばらくしたら、右ななめ前の席から『ガン、ガンッ!』という音が聞こえ始めて。どうやら僕がキーボードを打つたび、その席に座っている人がデスクを蹴っているようでした」
町田さんは怖くなって、すぐに帰る支度を始めた。すると、さきほどまでデスクを蹴っていた男性が歩み寄ってきたという。
「パソコンに貼っておいた注意書き、どこやったの?」
「捨てましたけど……」と戸惑う町田さんに、男性は突然、怒りを露わにした。
「捨ててんじゃねえよ!お前さあ、キーボード叩き過ぎでうるせえんだよ」
男性のあまりに身勝手な言い分に町田さんもさすがに黙っていられなかった。努めて冷静にこう伝えたという。
「いやいや、コワーキングスペースっていろいろなタイプの人が仕事する場所ですよね。ノイズが一切ない静かな作業環境を求めているなら、ご自宅で仕事されたほうがいいんじゃないですか?」
必死にまくしたてる男性を無視して、町田さんはすぐにコワーキングスペースを後にした。
「何度も見かけたことのある人だったので、たぶん常連だったと思うんです。以前通っていたスポーツジムでもそうだったんですけど、共有空間を自分の家だと勘違いする常連って一定数いるんですよ。エスカレートすると自分ルールを勝手に作り始めますし、誰の言うことも聞かなくなります。はっきり言って、相手にするだけ時間の無駄です」
町田さんはこのトラブルの後、すぐに別のコワーキングスペースを契約し直した。
メーカーでマーケターとして働く市川亮介さん(36・仮名)は、自宅近くのコワーキングスペースで他の利用者から半ば脅しのような注意を受けた経験があるという。トラブルの発端になったのは、「長時間の荷物放置を禁止する」という施設側のルールだった。
「契約自体はフリーアドレスのプランです。ただ、仕事柄、打ち合わせがけっこう多く、そのたび専用の個室を予約してオンラインミーティングをしていました。だから離席はけっこう多かったと思います。でも1時間を超えて離席したことは一度もない。それなのに、ひとりの男性が『何度もルール破ってますよね?』と問い詰めてきたんです」
市川さんは事情を説明したが、男性は聞く耳を持たなかったという。さらに恐ろしいことに、市川さんの個人情報を饒舌に話し始めた。
「最初に『あなた、S社で働いている横川さんでしょう?』と言われました。勤務する会社の名前は合っていたのでドキッとしましたが、幸いにも名前は違っていました。おそらく、私が席で電話を取ったときにでも盗み聞きしたんでしょう。
でも、怖かったのはそのあとです。『すぐそこのAというマンションに住んでますよね?』、『このあいだ、赤ん坊をベビーカーに乗せるところも見ましたよ』などと言ってきたんです。しかもこの情報は全部合っていた。以前から目を付けられていて、どこかで見られていたんだと思います。
『その情報がいま、なんの関係があるんですか?』と聞きましたが、『大人なんですからルールは守りましょうね』とニヤニヤしながら自分の席に戻っていきました」
このワーキングスペースでは、マナー違反やトラブルに遭遇したら運営元に知らせるルールになっていた。当然、市川さんも気味の悪い利用者に絡まれたこの一件を伝えたが、運営元の対応に呆れてしまったという。
「トラブルに対応する気がまったくないんですよ。まずメールで伝えたのにその返信もない。電話をしてもたらい回しでした。ようやく担当者につながったと思ったら、めんどくさそうに僕の話を聞くだけで、『お互いに気をつけてください』で終わりです。
なんだかんだ言って、会社のオフィスってよく出来ているんだなと改めて思いましたね。上下関係があって、素性も知れているので、確かに息苦しさはあります。でも、下手なことをしたら出世や給料に響くという明確なペナルティがある。だから価値観が違う人間が同じ空間で働いていても、大きなトラブルに発展しづらい。
コワーキングスペースの運営元も、悪質なルール違反を繰り返すような利用者はどんどん出禁にすべきだと思うんですけどね。そのほうが治安も良くなって、利用者も増えるんじゃないでしょうか」
現在、市川さんはコワーキングスペースの利用は辞めて、リモートワーク時は自宅で働いている。今回のトラブルでオフィスのありがたみを痛感してからは、出社頻度が格段に増えたという。
つづく記事『〈あなたたちにリモートワークは無理だ…スタバやコワーキングスペースで機密情報ダダ漏れ「残念な人たち」〉』では、非常識な利用者による“オンラインミーティング問題”を取り上げる。
【つづきを読む】あなたたちにリモートワークは無理だ…スタバやコワーキングスペースで機密情報ダダ漏れ「残念な人たち」

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