下着を脱がせたうえ、暴行する様子をスマホで撮影…!アート引越センターわいせつ暴行事件から見えた「引っ越し業界の闇」

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かねて月100時間を超える長時間残業や給与の低さが指摘されている、引っ越し業界。そのNo.2の『アート引越センター』で、スタッフによる”いじめ”では片付けられない陰湿な犯罪行為が明るみになった。ただし、ある引っ越し業界関係者によれば、それは「氷山の一角だ」という。
写真はイメージです(Photo by iStock)
「アート(アート引越センター)のわいせついじめ事件を聞いて、ありえることだな、と思いました。引っ越し業界はアートに限らず、職場内でのパワハラや同僚間のいじめが蔓延しています。長時間労働、給料や残業代の未払い、労災隠し……言い出したらきりがないほどの不祥事が隠されているんです」
そう訴えるのは5年ほど前にアート引越センター(以下アート社)でアルバイトをしていた嶋野義弘さん(仮名・26)。現在は違う引っ越し業社で働いているというが、「どこも似たり寄ったりですね」と苦笑する。
11月9日、20代の同僚男性Aさんの下着を無理やり脱がせたうえ、怪我まで負わせた強制わいせつ致傷の疑いで警視庁は同社の4人の男を逮捕した。逮捕されたのは、同社正社員の岩倉拓弥容疑者(27)とアルバイトの森本義洋容疑者(52)、そして10代の社員男性2人だ。
事件のあらましはこうである。
事件現場となったのは東京都江戸川区にある同社が借り上げたアパート。4月30日未明、そこには岩倉容疑者とAさんを含む男性数人がいた。すると午後10時ごろ、酒に酔った森本容疑者が現れた。「森本がAさんに服を脱ぐように強要したそうです。男性はしぶしぶ従い、パンツ1枚になった。そこに同じ職場の女性社員も合流すると、森本は被害男性に”パンツを脱げ”と指示。被害男性は抵抗しましたが、無理矢理パンツを破って脱がせたうえ、頭や腹に暴行を加えたのです。その様子を森本容疑者はスマホで撮影していたとされています」(全国紙社会部記者)全治3週間の怪我を負った男性はその後、適応障害と診断され、退職を迫られた。だが、被害はそれだけではなかった。岩倉、森本両容疑者らは同事件以降も、この男性の髪の毛をバリカンで刈るなど、暴力行為はさらにエスカレート。Aさんに対して、日常的な”いじめ”を繰り返していたとみられている。しかし、この事件は「いじめ」という言葉では片づけられない、屈辱的で悪質な犯罪行為に他ならない。特に岩倉、森本両容疑者は善悪の分別が付いているはずのいい大人。それにも拘わらず信じられない事件を起こした。あまりにも稚拙で愚かだ。引っ越し業界の歪んだ土壌冒頭の嶋野さんは、「引っ越し業界にはこうした事件が起こりうる土壌がある」と訴える。「私も先輩からたびたび、暴力を振るわれていました」嶋野さんは大学在学中、関東地方にある同社の支社でアルバイトをしていた。日給は1万円以上(当時)、即日支払われることもあり、体力に自信があった嶋野さんにとっては都合のいい仕事。きつかったがやりがいはあったと回想する。だが、事件はアルバイトを始めてから数回目に訪れた現場で起きた。「業務中にペアを組んでいた社員の一人に突然、怒鳴られたんです」まだ業務には慣れていない嶋野さんは、いったいなんのミスがあったのかわからないが、社員は怒鳴っている。理由もわからず、ただ戸惑っていると、その社員は「舐めてんのか!」と言って嶋野さんの胸ぐらをつかんできた。もう一人いた社員が慌てて止めに入り、その場はおさまったというが、怒られた理由についての明確な説明はなかったという。そうした理不尽な説教や暴力はその後もたびたびあった。「ミスがあってもなくても気に入らないことがあると殴ったり、蹴ってくる年上の同僚、上司がいました。作業中に安全靴で思いっきり殴られたこともあります。暴言、暴力は日常的でした。ただ、中にはそれが教育だと思っている先輩もいて、同期の中には暴力を受けても”そういうものだ”と納得している人もいました」(嶋野さん)その後、嶋野さんは同業他社に転職をしたが、次に勤めた現在の引っ越し業社でも状況は変わらないと諦めを口にする。「暴力を受けてきた人たちが上の立場になったとき、今度は自分がされてきたように下や気に入らない社員に対して暴力や暴言を繰り返す。負のスパイラルなんです」そこには業界特有の事情があると、引っ越し業界の事情に詳しい現役社員が明かす。「引っ越し業界は全体的に体育会系で、部活みたいなノリのところが多い。気に入らないことやミスがあると怒鳴ったり、殴ったり蹴ったり。それを指導だと勘違いしている。何歳になってもその感覚が抜け切れていない人も多く、悪いことを悪いと認識できていない。社会人としての自覚が乏しい」(現役社員)今回のアート社はたまたま事件化したことで世間が知るところになっただけで、多くの企業が似たり寄ったりなのが現状だとされる。 前出の現役社員は、ある引っ越し会社で起きた暴力事件について訴える。「現場助手を務めていた20代男性Bさんは、仕事中一緒に組んでいた男性ドライバー(20代)から現場で殴られたそうです」そこまでなら「よくある話」として片づけられてしまうだろう。だが、このドライバーの行為は度を越えていた。現役社員が続ける。「あろうことかそのドライバーは倒れたBさんの首を踏みつけたんです。後日、Bさんから被害を受けたときの写真を見せてもらいましたが、首には踏まれた痕がくっきりと残っていました。被害届を出そうか考えていたそうですが今後も仕事を続けたい、と泣く泣く諦めたそうです。当然、会社には被害を訴えましたが、ドライバーは処分されることはなく、依願退職という形で会社を辞めた。そのため、事件はうやむやにされてしまった。この会社ではパワハラや暴力を受けた被害者を条件の悪い支社に異動させたり、被害者が会社を辞めざるを得なかったことは多々あります。つまり、加害者に甘く、被害者には寄り添ってくれないのです」同社の地方支社でも部下のCさんの顔面に灰皿を投げつけ、流血するほどの怪我を負わせた管理職もいたという。だが加害側の管理職は処分されず、逆にCさんが異動することになったという。職場を辞められない事情そこには地方都市ならではの複雑な事情が影響していたのだ。「被害届を出せば暴行事件になっていたはずです。Cさんは会社を辞めることもできたのですが、そのどれもやらなかった。できなかったのです」(前同)地方では再就職先を見つけるのは難しい。特に一部上場していたり、大手企業の場合、住宅や車のローンも組みやすい。そのため将来のことを考え、黙って耐える従業員も少なくない。さらには地方の場合、自分の子どもや家族が、誰もが知っているような大手企業に勤めていることが一種のステータスになっている。家族の手前もあり、辞めにくい事情もあるというのだ。前述のCさんも、現状を見たときに次の転職先を探すのが困難と判断した。小さな町ではすぐに噂になる。近所の目も考え、大事になることを避けるため、被害届を出すこともせず、転勤も甘んじて受け止めた。Cさんは泣き寝入りせざるを得なかったわけだ。「給与や環境の問題だけではなく、転職の問題も大きいんです。長年勤務し、ある程度の年齢になれば他業種に転職をするのは難しい。例えば高校時代からアルバイトとして、引っ越しの仕事をしてそのまま社員になるとします。当然、内勤も営業も経験せずに現場しか知らなかったら、ほかの仕事に移るのは容易ではない。何か仕事のスキルがあるわけでないので他業種に転職がしにくいんです。特に30歳近くまで勤めると辞めるに辞められなくなってしまう。だから、引っ越し業界ではどんな理不尽な状況でもただ黙って耐えるほかないのです」そうした労働環境の改善を訴えてきた人は多いのだが、多くの企業は重い腰を上げようとしない。それどころか「会社にたてつく存在」として排除してきたという。「企業として『問題に取り組む』とどこも口を揃えていますが、できたためしがない。長時間労働や賃金の問題もそうですが、パワハラや暴力についても徹底して改善していかなければなりません。でも、いま、業界全体として利益追求にばかり目が行っている状態なんです。社員を蔑ろにすれば、若い人は入ってこなくなり、質の悪い引っ越ししか提供できなくなる。それは顧客離れにもつながります」企業においてはマイナスな流れと言えるのだが、どこも真剣に向き合おうとはしないという。それどころか、問題を見て見ぬふり。 冒頭の事件について、アート引越センターの広報担当者は「社としては、かねてからいじめやパワハラに関する相談窓口は設けておりました」と話す。「今回の事件での被害男性(Aさん)からこれまで、いじめを受けている、という相談はありませんでした。当社では従業員から相談があった場合には、それを黙認することはありません。各支店のわかりやすい場所に連絡先を掲示して、匿名でもいいから相談できるようになっています。やっていたのですが事件が起きてしまった」(広報担当者)社員からのパワハラやいじめの訴え、相談には対応してきました、と話すのだが、冒頭のわいせついじめ事件はエスカレートしていったとみられる。Aさんは会社に相談しなかったのではなく、相談できなかったのではないだろうか。結局、事件は会社の知らぬところで起き、被害者を生み出しながら闇へと葬られていく――。窃盗やストーカー行為など、信じられない事態が次々に発覚し始めている。そんな引っ越し業界のモラル低下については、後半記事『顧客敷地内で排泄、窃盗などの不祥事が続発…!モラル低下が指摘される引っ越し業界で「トラブルが続く理由」』で紹介する。
事件現場となったのは東京都江戸川区にある同社が借り上げたアパート。4月30日未明、そこには岩倉容疑者とAさんを含む男性数人がいた。すると午後10時ごろ、酒に酔った森本容疑者が現れた。
「森本がAさんに服を脱ぐように強要したそうです。男性はしぶしぶ従い、パンツ1枚になった。そこに同じ職場の女性社員も合流すると、森本は被害男性に”パンツを脱げ”と指示。被害男性は抵抗しましたが、無理矢理パンツを破って脱がせたうえ、頭や腹に暴行を加えたのです。その様子を森本容疑者はスマホで撮影していたとされています」(全国紙社会部記者)
全治3週間の怪我を負った男性はその後、適応障害と診断され、退職を迫られた。だが、被害はそれだけではなかった。岩倉、森本両容疑者らは同事件以降も、この男性の髪の毛をバリカンで刈るなど、暴力行為はさらにエスカレート。Aさんに対して、日常的な”いじめ”を繰り返していたとみられている。
しかし、この事件は「いじめ」という言葉では片づけられない、屈辱的で悪質な犯罪行為に他ならない。特に岩倉、森本両容疑者は善悪の分別が付いているはずのいい大人。それにも拘わらず信じられない事件を起こした。あまりにも稚拙で愚かだ。
冒頭の嶋野さんは、「引っ越し業界にはこうした事件が起こりうる土壌がある」と訴える。
「私も先輩からたびたび、暴力を振るわれていました」
嶋野さんは大学在学中、関東地方にある同社の支社でアルバイトをしていた。日給は1万円以上(当時)、即日支払われることもあり、体力に自信があった嶋野さんにとっては都合のいい仕事。きつかったがやりがいはあったと回想する。
だが、事件はアルバイトを始めてから数回目に訪れた現場で起きた。
「業務中にペアを組んでいた社員の一人に突然、怒鳴られたんです」
まだ業務には慣れていない嶋野さんは、いったいなんのミスがあったのかわからないが、社員は怒鳴っている。理由もわからず、ただ戸惑っていると、その社員は「舐めてんのか!」と言って嶋野さんの胸ぐらをつかんできた。もう一人いた社員が慌てて止めに入り、その場はおさまったというが、怒られた理由についての明確な説明はなかったという。
そうした理不尽な説教や暴力はその後もたびたびあった。
「ミスがあってもなくても気に入らないことがあると殴ったり、蹴ってくる年上の同僚、上司がいました。作業中に安全靴で思いっきり殴られたこともあります。暴言、暴力は日常的でした。ただ、中にはそれが教育だと思っている先輩もいて、同期の中には暴力を受けても”そういうものだ”と納得している人もいました」(嶋野さん)
その後、嶋野さんは同業他社に転職をしたが、次に勤めた現在の引っ越し業社でも状況は変わらないと諦めを口にする。
「暴力を受けてきた人たちが上の立場になったとき、今度は自分がされてきたように下や気に入らない社員に対して暴力や暴言を繰り返す。負のスパイラルなんです」
そこには業界特有の事情があると、引っ越し業界の事情に詳しい現役社員が明かす。
「引っ越し業界は全体的に体育会系で、部活みたいなノリのところが多い。気に入らないことやミスがあると怒鳴ったり、殴ったり蹴ったり。それを指導だと勘違いしている。何歳になってもその感覚が抜け切れていない人も多く、悪いことを悪いと認識できていない。社会人としての自覚が乏しい」(現役社員)
今回のアート社はたまたま事件化したことで世間が知るところになっただけで、多くの企業が似たり寄ったりなのが現状だとされる。
前出の現役社員は、ある引っ越し会社で起きた暴力事件について訴える。「現場助手を務めていた20代男性Bさんは、仕事中一緒に組んでいた男性ドライバー(20代)から現場で殴られたそうです」そこまでなら「よくある話」として片づけられてしまうだろう。だが、このドライバーの行為は度を越えていた。現役社員が続ける。「あろうことかそのドライバーは倒れたBさんの首を踏みつけたんです。後日、Bさんから被害を受けたときの写真を見せてもらいましたが、首には踏まれた痕がくっきりと残っていました。被害届を出そうか考えていたそうですが今後も仕事を続けたい、と泣く泣く諦めたそうです。当然、会社には被害を訴えましたが、ドライバーは処分されることはなく、依願退職という形で会社を辞めた。そのため、事件はうやむやにされてしまった。この会社ではパワハラや暴力を受けた被害者を条件の悪い支社に異動させたり、被害者が会社を辞めざるを得なかったことは多々あります。つまり、加害者に甘く、被害者には寄り添ってくれないのです」同社の地方支社でも部下のCさんの顔面に灰皿を投げつけ、流血するほどの怪我を負わせた管理職もいたという。だが加害側の管理職は処分されず、逆にCさんが異動することになったという。職場を辞められない事情そこには地方都市ならではの複雑な事情が影響していたのだ。「被害届を出せば暴行事件になっていたはずです。Cさんは会社を辞めることもできたのですが、そのどれもやらなかった。できなかったのです」(前同)地方では再就職先を見つけるのは難しい。特に一部上場していたり、大手企業の場合、住宅や車のローンも組みやすい。そのため将来のことを考え、黙って耐える従業員も少なくない。さらには地方の場合、自分の子どもや家族が、誰もが知っているような大手企業に勤めていることが一種のステータスになっている。家族の手前もあり、辞めにくい事情もあるというのだ。前述のCさんも、現状を見たときに次の転職先を探すのが困難と判断した。小さな町ではすぐに噂になる。近所の目も考え、大事になることを避けるため、被害届を出すこともせず、転勤も甘んじて受け止めた。Cさんは泣き寝入りせざるを得なかったわけだ。「給与や環境の問題だけではなく、転職の問題も大きいんです。長年勤務し、ある程度の年齢になれば他業種に転職をするのは難しい。例えば高校時代からアルバイトとして、引っ越しの仕事をしてそのまま社員になるとします。当然、内勤も営業も経験せずに現場しか知らなかったら、ほかの仕事に移るのは容易ではない。何か仕事のスキルがあるわけでないので他業種に転職がしにくいんです。特に30歳近くまで勤めると辞めるに辞められなくなってしまう。だから、引っ越し業界ではどんな理不尽な状況でもただ黙って耐えるほかないのです」そうした労働環境の改善を訴えてきた人は多いのだが、多くの企業は重い腰を上げようとしない。それどころか「会社にたてつく存在」として排除してきたという。「企業として『問題に取り組む』とどこも口を揃えていますが、できたためしがない。長時間労働や賃金の問題もそうですが、パワハラや暴力についても徹底して改善していかなければなりません。でも、いま、業界全体として利益追求にばかり目が行っている状態なんです。社員を蔑ろにすれば、若い人は入ってこなくなり、質の悪い引っ越ししか提供できなくなる。それは顧客離れにもつながります」企業においてはマイナスな流れと言えるのだが、どこも真剣に向き合おうとはしないという。それどころか、問題を見て見ぬふり。 冒頭の事件について、アート引越センターの広報担当者は「社としては、かねてからいじめやパワハラに関する相談窓口は設けておりました」と話す。「今回の事件での被害男性(Aさん)からこれまで、いじめを受けている、という相談はありませんでした。当社では従業員から相談があった場合には、それを黙認することはありません。各支店のわかりやすい場所に連絡先を掲示して、匿名でもいいから相談できるようになっています。やっていたのですが事件が起きてしまった」(広報担当者)社員からのパワハラやいじめの訴え、相談には対応してきました、と話すのだが、冒頭のわいせついじめ事件はエスカレートしていったとみられる。Aさんは会社に相談しなかったのではなく、相談できなかったのではないだろうか。結局、事件は会社の知らぬところで起き、被害者を生み出しながら闇へと葬られていく――。窃盗やストーカー行為など、信じられない事態が次々に発覚し始めている。そんな引っ越し業界のモラル低下については、後半記事『顧客敷地内で排泄、窃盗などの不祥事が続発…!モラル低下が指摘される引っ越し業界で「トラブルが続く理由」』で紹介する。
前出の現役社員は、ある引っ越し会社で起きた暴力事件について訴える。
「現場助手を務めていた20代男性Bさんは、仕事中一緒に組んでいた男性ドライバー(20代)から現場で殴られたそうです」
そこまでなら「よくある話」として片づけられてしまうだろう。だが、このドライバーの行為は度を越えていた。現役社員が続ける。
「あろうことかそのドライバーは倒れたBさんの首を踏みつけたんです。後日、Bさんから被害を受けたときの写真を見せてもらいましたが、首には踏まれた痕がくっきりと残っていました。
被害届を出そうか考えていたそうですが今後も仕事を続けたい、と泣く泣く諦めたそうです。当然、会社には被害を訴えましたが、ドライバーは処分されることはなく、依願退職という形で会社を辞めた。そのため、事件はうやむやにされてしまった。
この会社ではパワハラや暴力を受けた被害者を条件の悪い支社に異動させたり、被害者が会社を辞めざるを得なかったことは多々あります。つまり、加害者に甘く、被害者には寄り添ってくれないのです」
同社の地方支社でも部下のCさんの顔面に灰皿を投げつけ、流血するほどの怪我を負わせた管理職もいたという。だが加害側の管理職は処分されず、逆にCさんが異動することになったという。
そこには地方都市ならではの複雑な事情が影響していたのだ。
「被害届を出せば暴行事件になっていたはずです。Cさんは会社を辞めることもできたのですが、そのどれもやらなかった。できなかったのです」(前同)
地方では再就職先を見つけるのは難しい。特に一部上場していたり、大手企業の場合、住宅や車のローンも組みやすい。そのため将来のことを考え、黙って耐える従業員も少なくない。
さらには地方の場合、自分の子どもや家族が、誰もが知っているような大手企業に勤めていることが一種のステータスになっている。家族の手前もあり、辞めにくい事情もあるというのだ。
前述のCさんも、現状を見たときに次の転職先を探すのが困難と判断した。小さな町ではすぐに噂になる。近所の目も考え、大事になることを避けるため、被害届を出すこともせず、転勤も甘んじて受け止めた。Cさんは泣き寝入りせざるを得なかったわけだ。
「給与や環境の問題だけではなく、転職の問題も大きいんです。長年勤務し、ある程度の年齢になれば他業種に転職をするのは難しい。
例えば高校時代からアルバイトとして、引っ越しの仕事をしてそのまま社員になるとします。当然、内勤も営業も経験せずに現場しか知らなかったら、ほかの仕事に移るのは容易ではない。何か仕事のスキルがあるわけでないので他業種に転職がしにくいんです。
特に30歳近くまで勤めると辞めるに辞められなくなってしまう。だから、引っ越し業界ではどんな理不尽な状況でもただ黙って耐えるほかないのです」
そうした労働環境の改善を訴えてきた人は多いのだが、多くの企業は重い腰を上げようとしない。それどころか「会社にたてつく存在」として排除してきたという。
「企業として『問題に取り組む』とどこも口を揃えていますが、できたためしがない。長時間労働や賃金の問題もそうですが、パワハラや暴力についても徹底して改善していかなければなりません。
でも、いま、業界全体として利益追求にばかり目が行っている状態なんです。社員を蔑ろにすれば、若い人は入ってこなくなり、質の悪い引っ越ししか提供できなくなる。それは顧客離れにもつながります」
企業においてはマイナスな流れと言えるのだが、どこも真剣に向き合おうとはしないという。それどころか、問題を見て見ぬふり。
冒頭の事件について、アート引越センターの広報担当者は「社としては、かねてからいじめやパワハラに関する相談窓口は設けておりました」と話す。「今回の事件での被害男性(Aさん)からこれまで、いじめを受けている、という相談はありませんでした。当社では従業員から相談があった場合には、それを黙認することはありません。各支店のわかりやすい場所に連絡先を掲示して、匿名でもいいから相談できるようになっています。やっていたのですが事件が起きてしまった」(広報担当者)社員からのパワハラやいじめの訴え、相談には対応してきました、と話すのだが、冒頭のわいせついじめ事件はエスカレートしていったとみられる。Aさんは会社に相談しなかったのではなく、相談できなかったのではないだろうか。結局、事件は会社の知らぬところで起き、被害者を生み出しながら闇へと葬られていく――。窃盗やストーカー行為など、信じられない事態が次々に発覚し始めている。そんな引っ越し業界のモラル低下については、後半記事『顧客敷地内で排泄、窃盗などの不祥事が続発…!モラル低下が指摘される引っ越し業界で「トラブルが続く理由」』で紹介する。
冒頭の事件について、アート引越センターの広報担当者は「社としては、かねてからいじめやパワハラに関する相談窓口は設けておりました」と話す。
「今回の事件での被害男性(Aさん)からこれまで、いじめを受けている、という相談はありませんでした。当社では従業員から相談があった場合には、それを黙認することはありません。各支店のわかりやすい場所に連絡先を掲示して、匿名でもいいから相談できるようになっています。やっていたのですが事件が起きてしまった」(広報担当者)
社員からのパワハラやいじめの訴え、相談には対応してきました、と話すのだが、冒頭のわいせついじめ事件はエスカレートしていったとみられる。Aさんは会社に相談しなかったのではなく、相談できなかったのではないだろうか。
結局、事件は会社の知らぬところで起き、被害者を生み出しながら闇へと葬られていく――。
窃盗やストーカー行為など、信じられない事態が次々に発覚し始めている。そんな引っ越し業界のモラル低下については、後半記事『顧客敷地内で排泄、窃盗などの不祥事が続発…!モラル低下が指摘される引っ越し業界で「トラブルが続く理由」』で紹介する。

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