「同期がキラキラすぎて」という退社理由…3日で会社を見限った新入社員は″トンデモ″なのか?

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6月になり、研修が終わって新しい職場で働き始めた新入社員も多いだろう。その中で年々増えているのは、新卒で社会に出たものの、3ヵ月も経たないうちに会社を辞めてしまう新入社員。近年では退職代行サービスと呼ばれる、内定辞退や退職の代行業者を利用する者も後を絶たたない状況がメディアでも話題になっている。
人手不足で売り手市場が続く昨今、早々に会社を見限った新人たちはいったい何を思って退職をしていったのだろうか。実際に入社して1ヵ月足らずで辞めてしまった人の話を聞いてみた。
早稲田大学を2年前に卒業したAさんが就職したのは、大手IT企業。非上場ながら知名度があるメガベンチャーとも称される企業だ。彼が退職した理由は研修で体験したことだという。
「就活もすぐに終わって、その中で一番待遇がよさそうな企業を選んで入社しました。会社側に求めていたことは特になく、『面白そう』な事業をしていて、僕も知っている企業だったので入社を決めました」(Aさん)
Aさんが退社を決めたのは、入社して10日後。最終的な退職日は4月末だった。
「研修では最初にコールセンターでの営業をすることになりました。グループごとに成績を発表して、同期たちと切磋琢磨しましょうというものです。厳しくはなかったのですが、『今後も成績で評価され続けるのか』と考えると嫌になってしまいました。
さらに、人事に評価されたいがために的外れなことを言う人、言葉を選ばずに言うと『意味のない仕事を増やす』人がいて、彼らと今後もずっと付き合うのかと思うと耐えられなくなって退職に踏み切りました」(同前)
職場の環境もAさんが求めていたものとは違っていたのだという。
「僕が会社に求めていたものは、とにかく上司の指示に従っていればいいような職場でした。その会社は自らが仕事を提案して動くという自主性を重んじるところで、それが肌に合いそうになかった。待遇面や福利厚生はよかったので惜しい気持ちもありました。でも、研修中に役員の人が『若いうちの行動は質よりも速さが大事』と言っていたので、その言葉どおりに後先は考えずに辞めました。悔いはないです」(同前)
社員の「自主性を重んじる」社風というのは決して悪くはない。「やりたい仕事のスキルを磨き、キャリアを築くことができる」職場環境でないという理由で退職する人が多いという話はよく聞くが、Aさんのケースは真逆ではないか。また、「成績で評価される」というのは、営利を追求する企業だけでなく、公務員や非営利団体でも普通にあることではないかと思うのだが……。
Tさんも新卒で入った広告関係の仕事を2週間で辞めることになった。法政大学を卒業し、志望していた業界に入ったはいいが、3日で辞めることを決心したという。
「『念願叶って……』というよりは、内定が出た企業の中では志望していた仕事が最も身近にあったので、この会社に入りました。驚いたのは、入社式が終わって研修が始まると、すでにグループができていたんです。どうやらFacebookか何かのSNSで繋がっていたようで、近い距離感で仲良さげに話をしている同期たちは、すでに飲み会の計画なども話していて、入社初日から疎外感がありました」(Tさん)
「業界がキラキラ系とは知っていましたが、ここまでとは思っていませんでした」と、Tさんは先行きが不安になったと話す。研修でその違和感はさらに強くなったようだ。
「研修が始まって3日目。この日の昼休みに同期たちと一緒にご飯を食べることになりました。そこでは『酒が強い』だとか『大学時代は遊んでいた』だとか、よくわからない武勇伝を語る人ばかり。『学生のうちに終わらせる話』ばかりでこんな人たちとは一緒に働きたくないという思いがいっそう強くなりました」(同前)
いわゆる“学生ノリ”が残っている会社だったことが肌に合わず、早々に辞めてしまったTさん。その後、彼は同じ業界の大手の会社に転職することができた。現在の会社は彼の肌に合っているようだが、それは意外な環境だった。
「辞めた会社よりも大きな会社です。古い社風で気合と根性がなければ乗り越えられないうえ、無理難題を言う上司がいました。仕事は厳しいですが、仕事さえしていれば、何も言われません。上司は、雨が降ると『天気が悪いから、家で仕事しろ』と、言ってくれるなど、優しい一面もあります。仕事終わりに連れて行ってくれるご飯は全て経費申請。一般では“昭和的”と言われそうな前時代的な職場ですが、僕にとってはこちらのほうが働きやすいです」(同前)
「同期のノリが肌に合わない」という理由で入社してすぐに辞めてしまうなんて、ありえない話のようにも感じる。しかし、Tさんの場合は早く決断したおかげで、結果的に自分に合う職場で働くことができている点を考えれば、彼にとっては正解なのかもしれない。
退職代行『モームリ』を運営している螢▲襯丱肇蹈垢’24年度の新卒者の退職代行の利用状況を調査した結果では、4~6月に退職した人の理由で最も多いのは「入社前の契約内容・労働条件と勤務実態の乖離」で、半数近くを占める。続いて多いのは「いじめやパワハラなどの人間関係」、「精神的、肉体的な理由」となっていた。今年の利用者の傾向を聞いた。
「今年は4月は487名、5月は350名、6月は4日の時点で38名の利用者がありました。退職理由の傾向としては、今年は『人間関係』に関するものが多いです。あくまで本人のとらえ方によるものですが、『高圧的な態度をとられた』『あいさつをしても無視された』『嫌がらせをされた』などのいじめやパワハラに分類されるものや、『職場の雰囲気が合わなかった』というものも含まれます。相手は上司や先輩で、Tさんのような同期という例は珍しいです」(螢▲襯丱肇蹈后β膸蛙浸併瓠
とはいえ、雰囲気が合わなかった職場や印象の悪い上司や先輩でも、時間が経てば馴染んでくることも多いだろう。1~2ヵ月で見切ってしまうのは早計ではないだろうか。
「確かに人間関係を築くには、最初は我慢が必要な部分もあると思います。でも、最近の人はSNSなどで他の人の勤務環境の情報が早く入ってくる。他と比較してしまうから判断が早くなっているのではないでしょうか」(同前)
今後も「合わない」「思っていたのと違う」というインスピレーションで辞めていく新人はどんどん増えていくように思える。もしかすると上司や先輩世代であるわれわれも、彼らに合わせるためにいろいろとアップデートする必要があるのかもしれない。

取材・文:白紙緑

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