【伊藤 将人】「生活保護を受けるだけでは済まないんです」…車上生活で命を落とす日本の高齢者たち

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この世界には「移動できる人」と「移動できない人」がいる。
日本人は移動しなくなったのか? 人生は移動距離で決まるのか? なぜ「移動格差」が生まれているのか?
発売即重版が決まった話題書『 移動と階級 』では、通勤・通学、買い物、旅行といった日常生活から、移民・難民や気候危機など地球規模の大問題まで、誰もが関係する「移動」から見えてくる〈分断・格差・不平等〉の実態に迫っている。
(本記事は、伊藤将人『 移動と階級 』の一部を抜粋・編集しています)
車上生活が社会問題化している状況に関心をもち、独自に取材活動を展開したのがNHKである。NHKは、成果を「NHKスペシャル」で放送すると同時に、書籍『ルポ 車上生活』にまとめた。
NHKが日本全国に1160ヵ所ある道の駅(2020年2月時点)すべてで調査を行った結果、2014年から2019年までの5年間で、車上生活の果てに命を落とした事例は12事例あることが明らかになった。注目すべきはその年代であり、12人のうち少なくとも8人は60歳以上であったという。『ノマド』と同様に、さまざまなリスクを抱えながら移動する/移動せざるをえない暮らしを送る人々は、道の駅に関して言えば、日本でも若者ではなく高齢者を中心としているのである。
10年以上にわたり、車上生活者の支援をしてきたNPO越冬の会の阿英紹さんは次のように語る。
「車上生活者の問題は、『貧困』だけで一くくりにはできません。いわゆるホームレスの方々と車上生活の方々では、困難の性質が異なります。かつてのホームレス対策のように、とにかくアパートに入ってもらって生活保護を受けるだけでは済まないんです」(NHK「車上生活」取材班・Yahoo!ニュース特集編集部:2020)
引きこもり、DV、虐待、認知症、拗れた家族関係、リストラなど、現代社会で人々を孤立させるさまざまな問題と車上生活は密接に結びついている。ただし、繰り返しになるが、移動を規定する要因は複雑である。既存の取材や研究から、高齢や貧困は強く車上生活と関連していることは明らかだが、それだけに理由を求めることはできない。
「車の中は閉ざされた世界ですから、自分の状態が見えなくなってしまう人もいると思います。『自分はこれを好きでやっている』という人もいますが、話を聞いていくと車上生活を選ばざるを得なかった、車にしか居場所がなかったという人たちがほとんどなんです」(NHK「車上生活」取材班・Yahoo!ニュース特集編集部:2020)
停滞する経済と社会的な不安の高まりとともに、大量生産・消費型経済の限界が意識される時代、人々は場所や時間、お金、モノに縛られない新たな基準の豊かさを求めて、マイホーム主義や所有主義とは対極にある「小さくて動く」住まいを選び取っている(左地:2024)。
しかし、一見するとポジティブな語りで、自発的かつ主体的に選択した移動・移動生活に見えても、実は大きな社会や経済動向によって選択せざるをえなかった、消極的な選択であったということは、私が移動者に聞き取りを行う中でも時折ある。
私たちは、移動する人々の自発性や主体性を尊重すると同時に、自発性や主体性を特権化しない態度で、移動と移動をめぐる格差や不平等を見つめていく必要があるのである。
本記事の引用元『 移動と階級 』では、意外と知らない「移動」をめぐる格差や不平等について、独自調査や人文社会科学の研究蓄積から実態に迫っている。
【つづきを読む】この世界には「移動できる人」と「移動できない人」に大きな格差があるという「深刻な現実」

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