〈トヨタは「監視国家」に変わりつつある…ディーラー関係者が明かす“社内の忖度”と“章男氏の前でやってはいけないこと”〉から続く
自動車業界のみならず、日本を代表する企業の「トヨタ自動車」。世界での販売台数も2024年まで5年連続の1位に輝いており、その原動力には商品力もさることながら徹底的な効率化がある。
【画像】2024年、国内で売れた「トヨタ車」トップ5
しかしそれが度を超して、かつて“情のトヨタ”と呼ばれるほど良好だった下請け会社との関係が、ギクシャクしつつある。特に豊田章男氏が社長に就いてからそれが加速しているようで――祖父の代から販売会社という立場でトヨタに仕え「伝説のカリスマディーラー」と呼ばれた小栗成男氏による新著『トヨタの曲がり角』(幻冬舎)から一部抜粋し、お届けする。(全3回の3回目/初めから読む/前回を読む)
「トヨタ式生産方式」を確立したとされる5代目社長の豊田英二氏 文藝春秋
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私はこれまでの人生で2回ほど髭を伸ばしている。オペラを始めたとき、髭を生やしている男性オペラ歌手が多いことから、格好いいなと思って伸ばしてみたのだ。
髭を伸ばしていたとき、ちょうどトヨタの代表者会議が開かれ、私は販売店の代表者として販売店表彰の際に壇上に上がった。すると、トヨタ側から「髭を剃れ」と言われたのだ。一度ではない。その後、会合などことあるごとに「剃りなさい」と言われるのだ。
当時、髭を生やしていたトヨタ自動車の役員もいたのだが、彼のことは看過し、私には言ってくる。私が再三「なぜ髭がだめなのか?」と聞いても明確な回答は返ってこない。あまり言うなら「そんなものはパワハラだ!」と意を固め、結局私はそのまま髭を伸ばすことにした。
しかし相手もさるもの。1年ほど経った頃、今度はある販売店チャネルの代表を使って、「髭を剃れ」ときたのだ。「壇上に上がるとみっともないから」という、よくわからない理由だ。要はトヨタの嫌いな「目立つから」ということだったのだろう……。あまりのしつこさに、私はその1年後くらいに剃ることにした。
しばらくして、2019年のゴールデンウィークから2度目の髭を生やし始めた。
もちろんコロナというマスクをする時期ということもあっただろうが、おもしろいことに今度は誰もが黙認……なのである。髭を生やすビジネスマンも増えたし、グローバル化も進み外国人ビジネスマンで髭を生やしている方も少なくない。
「ついに、時流には勝てないと思ったのか」と髭を生やしたままでいると、ある会合で役員がまたも髭のことを言ってきた。私が「パワハラですよ!」と言ったところ、彼は「いつでも訴えていいよ、勝つから」と言うではないか。身体的な極めてプライベートなことを平気で指摘するその感覚が、私には信じられなかった。
トヨタはグローバル企業であり、そこで働くイスラムやヨーロッパやアメリカなど多くの海外出身の方が髭を生やしている。その後も私は気にせず髭を生やし続けたが、なんとも言えない不快な思いが残った。
(小栗 成男/Webオリジナル(外部転載))