「この歳でびっくりしませんか。生きていられないでしょう」
長期間の求刑をした検察側に対し、88歳の男は法廷で小さな声でこう主張していた――。
６月４日に行われた裁判員裁判でさいたま地裁（佐伯恒治裁判長）は、殺人未遂や監禁致傷などの罪に問われた無職・鈴木常雄被告（88）に懲役24年の判決を言い渡した。黒いジャージ姿で車イスに乗り出廷した鈴木被告は、うつむきながら静かに判決を聞いていたという。
「事件は’23年10月に起きました。鈴木被告は、埼玉県戸田市のアパートの自室を放火。同市にある戸田中央病院に侵入し医師や患者に向け拳銃を撃ち、全治３週間の大ケガを負わせたんです。さらに蕨市内の郵便局近くにいた警察官へ発砲し、20代と30代の女性局員２人を監禁したうえ同局に立てこもり。約８時間後の夜10時過ぎに、突入した捜査員により身柄を確保されました」（全国紙社会部記者）
法廷では、鈴木被告の口から衝撃の犯行動機が語られていた。
「事件現場となった病院や郵便局と、以前からトラブルになっていたようです。鈴木被告は、犯行前日にトラブルを思い出し『我慢できなくなり事件を起こしました』と供述しています。弁護側は『アンガーコントロール（怒りの抑制）ができず犯行に及んだ』『脅かしたり威嚇するためで殺人未遂罪は成立しない』と訴えました。
一方の検察側は『（病院や郵便局に）報復しようと考えていた』『殺意が認められるうえ、犯行動機は身勝手で正当化する酌むべき事情もない』と主張。懲役25年を求刑したんです。監禁された女性２人も心的外傷後ストレス障害（ＰＴＳＤ）を負い日常生活が送れなくなったとし、厳しい処罰を望んでいました」（全国紙司法担当記者）
鈴木被告は30年ほど前に、指定暴力団の二次団体に所属していたとされる。犯行に使った拳銃は、その当時入手したのかもしれない。元神奈川県警刑事で、犯罪ジャーナリストの小川泰平氏が解説する。
「元暴力団員であることや、80代の年齢がクローズアップされますが、犯罪の凶悪性を考えれば妥当な判決といえるでしょう。自室に火をつけ複数の人に発砲したうえ、女性２人を長時間監禁し立てこもったのですから。亡くなった方がいないのが不思議なくらいです。懲役24年の実刑は当然だと思います」
法廷で鈴木被告は「非常に後悔している」と話したが、判決で裁判長は「形ばかりの反省の言葉を述べるばかり」「凶悪で大それた犯行」と断罪。長期の実刑判決が下された。