絶対に知られたくなかった…〈年金月20万円〉75歳・元教師の父、溺愛の孫さえ断固拒否。45歳娘が涙した「衝撃的な現実」

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長年、真摯に生きてきた親が、ある日突然、その生活に異変をきたしたら、家族はどのように向き合うべきでしょうか。老いとともに訪れる変化は、本人だけでなく家族にも大きな戸惑いをもたらします。
「お母さん、なんで? おじいちゃん、私のこと嫌いになっちゃったの?」
そう尋ねたのは、小学4年生の娘・奈々美でした。問いかけられた長女・吉田佳子さん(仮名・45歳)は、返す言葉を失ったといいます。父・吉田誠一さん(仮名・75歳)は、かつて県立高校で長年教師を務めていた真面目な人でした。若い頃から「教育とは人間をつくる仕事」が信条で、生徒たちからも「吉田先生は厳しいけど温かい」と慕われていたといいます。家庭でもその姿勢は変わらず、佳子さんをはじめ、3人の子どもたちにも礼儀や時間厳守を徹底。几帳面で、生活も家計もきちんとしており、定年退職後も日々の記録をノートに残すような性格でした。
しかし、近頃、誠一さんの様子が明らかに変わってきたと佳子さんはいいます。週末に孫を連れて訪ねても、玄関を開けようとしなくなりました。電話をかけても出ず、ポストには郵便物が溜まり、玄関前にはチラシや段ボールが散乱するように。
「忙しいのかな……」と最初は思いましたが、それにしては様子が不自然すぎました。意を決して訪ねたある日、郵便受けから落ちていた封筒に目をやると、電気・ガス会社からの「支払い督促状」がいくつも見つかったのです。
几帳面な父が、支払いを忘れる? しかも何ヵ月も?
混乱しているところに帰ってきた誠一さ佳子さんの存在に一瞬驚いた様子を見せましたが、「あれだけ来るなといっただろ」と怒った口調で家に入ろうとしました。佳子さん、誠一さんの腕をとり、疑問をぶつけます。
「お父さん、年金月20万円もらっているっていっていたよね。これだけあれば、生活に困ることないって。でも、これって払ってないんじゃない? お金、足りないんじゃない?」
そう問いかけると、「うるさい!」と父は怒鳴り、佳子さんの腕を払い、家の中に入っていきました。その後ろ姿を見た瞬間、佳子さんの目から自然と涙がこぼれました。
佳子さんの涙を見た瞬間、父・誠一さんの足が止まりました。そしてゆっくりと振り返り、観念したような表情で「……最近な、どうもおかしいんだ」と話し始めたのです。
「忘れっぽくなってな。支払いも抜けるようになった。……自分でもわかってる。おかしいと」
その言葉を聞いた佳子さんは、すぐに病院の受診を手配。付き添って診察を受けた結果、認知症の初期段階にあるという診断。
「わかってたよ、自分でも。そうだろうなって。でも、認知症って言われるのが怖くてな」
それは、長年「人の上に立つ者」として真面目に生きてきた父にとって、「自分が壊れていく現実」と直面することへの強い恐れでした。家族を拒んだのも、娘や孫にそんな自分を見せたくなかったから。その背後には、どうしようもない孤独と不安が潜んでいたのです。
涙を流しながら佳子さんは、「そんなこと、もっと早く言ってくれればよかったのに……」とつぶやきました。けれど父は、苦笑しながら「それが言えたら、こんなに苦労してないよ」と答えました。
65歳以上の認知症患者は2022年推計で433万人。軽度認知症障害は推計599万人で、65歳以上高齢者の27.8%、4人に1人以上を占めます。
年を取れば誰もがすぐに思い出すことができなかったり、新しいことを覚えられなかったりするもの。この「加齢による物忘れ」と「認知症」は混同されがち。認知症はごはんを食べたこと自体を忘れるなど、体験したことのすべてを忘れたり、もの忘れの自覚がなかったりなどします。不安感が強くなり、「頭が変になった」と訴えるということも。
また認知症の7割弱を占めるとされるアルツハイマー型認知症については、進行を遅らせることが期待される抗アミロイドβ抗体薬による治療も。認知症の早期診断・早期治療につなげるために、家族など、周囲の人も含めて「もしかしたら……」と疑われる症状があるなら、早めの受診が重要となります。
「父は今でも頑固で、相変わらず『自分のことは自分でやる』って言い張ります。今は、その気持ちを尊重してあげたいと思っています」と話す佳子さん。週に何回か実家を訪れては、冷蔵庫や郵便受けの確認し、できるだけ「見守る」ことを大切にしているといいます。
[参考資料]
政府広報オンライン『知っておきたい認知症の基本』

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