ポツンと街の片隅にある“えっち本自販機”…近隣住民に「迷惑だ」と言われながらも設置され続ける深い理由と「意外な客層」

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暗闇の中でぼうっと光る謎の自販機。その昔、ジュースでもアイスでもないモノを売る自販機として子どもながらに不思議に思って眺めていたが、昭和の時代にこのようなえっち本の自販機は数多く存在していた。かつては全国で2万台以上稼働していたというが、最近は目撃することも少なくなってきている。令和のこの時代にも生き残るえっち本自販機の“いま”を追った。
【画像】「お客様へ…」自販機コーナーに書かれた衝撃のお知らせ
国道沿いや、街の片隅にあるえっち本自販機。古ぼけた建物の1階やトタン小屋などの中にあることが多かった。
平成後期に発刊された『全国版 あの日のエロ本自販機探訪記』によれば、1970年に老舗自販機メーカーが雑誌販売機にえっち本を導入し、急速に全国的に展開、1976年には自販機の数は全国で2万3260台にものぼったという。
ネットで検索すると、今も愛好家たちが都内だけでなく関東近郊の街角にポツンと存在する販売機をめぐり、品ぞろえなどを解説している。
だが、インターネットが存在しなかった昭和ならまだしも、いつでもどこでもセクシーコンテンツが見られる令和において、いったい誰が、なぜわざわざ自販機でえっち本を買うというのか。現地におもむき街の人に話を聞いた。
まず訪れたのは、お色気グッズをはじめとした販売機が10台設置された、都内最大級と噂される販売機小屋。
東京都八王子市内にあるこの場所は、周囲には木々が生い茂り、畑や牛舎がある自然豊かで静かな場所で、小屋の前は車がすれ違えないような細い一本道だ。
通りは特に汚れていないのに、建物周辺はなぜかストロング缶やタバコの吸殻などが目立つ。
やはりこういった本を購入するなら夜なのだろうか。19時台に現地付近を歩く高齢男性に声をかけた。
「3、4年くらい前に一度買ったことあるよ。今日は買いに来たわけじゃない(笑)。俺の若い頃にはウラ本って言ってボカシがない本があったのよ。だからそういうのを求めて買ったのに、ここで買った本はボカシ入りだったよ。毎晩、この時間を散歩してるけど、この小屋に入って行く人はほとんど見たことがないね」
近くの住宅街に住む20代男性は言う。
「ここに住んで5年ほどですが、販売機があるのは去年くらいにSNSでバズってた記事で知りました。友人は記事を見て行ったそうですが、本だけでなくDVDとかが売られてたみたいです。でも、DVDプレイヤーなんていまどき誰も若い人は持ってないですからね」
付近の住民らの中には「すごく迷惑、早く取り壊してほしい」と不快に感じている人も少なからずいた。近隣の女性は言う。
「去年あたり、車で通りがかった時、小屋の中で宴会してる人たちを見ました。若い男性がストロング缶を飲んでて“嫌だなー”と思って見てました」
自販機で売っているえっち本やDVDを見ると、最新号や最新作が売られているというよりも、少し古めの商品が売られている印象だ。
こういったセクシー系自販機は、23区内の葛飾区と練馬区の2か所にも存在する。
葛飾区内にある白い2階建ての建物の1階スペースには4台の自販機と免許証読み取り装置があった。ここにはセクシービデオや大人のおもちゃ、避妊具や媚薬らしきモノが売っていた。
この販売機ではかつて本も売っていた時代もあるようで、数年前に本とビデオの両方を買ったことがあるという80代男性はこう証言する。
「何年も前からあったから、ずっと気になってて、5年くらい前に勇気出して入ったのよ。当然、モザイクなしのウラ本があると思ってさ。でも、みんなモザイク入りだし、セクシービデオもモザイク入りでガッカリだった」
だが令和のこの時代にモザイクなしのセクシービデオや本が公然と売られていたら大問題である。
練馬区の販売コーナーも訪ねてみたところ、こちらは徒歩では非常にアクセスの悪い立地だった。自販機は古ぼけた青色のトタン屋根の小屋内に置かれていた。
約10平方メートルの無人の店内には、スプレーで落書きされた跡があり、殺伐とした雰囲気だ。販売機で売られている本は2022年や2023年に発刊されたものだった。
付近に住む男子大学生に話をきいた。
「いやー、入ったことないです! もちろん高校の時とかは『あそこ、なんだ?』って噂になったことはあるけど、誰も入ったことないと思います。
あとここ、意外と人通りが多いし、知り合いにいつどこで見られるかもわからないから恥ずかしい。スマホでいくらでもセクシーコンテンツが見られるのに、わざわざリスクを冒してまで買わないっすよ」
いったい、これらの販売機はどんな人たちに需要があるのか。販売機に掲示された業者の電話番号に、恐る恐るかけてみた。
記者がかけたのは都内最大級のえっち本販売機小屋の販売機に「業者」として掲示されていた番号である。
3コールほどで男性が出て、取材の意向を伝えると「1年に1回くらい、このようなご連絡が来ます。どうぞ、なんでも聞いて下さい!」と意外にも若々しく爽やかな声の50代男性オーナーが対応してくれた。
「実は、八王子の小屋は元々『こっそり堂』という、関東、東海、九州地方に2020年頃まで1000台以上もの自販機を所有していたグループが運営していたんです。でもそのグループが愛知県青少年保護育成条例違反(有害図書などの収納)で摘発され不起訴となりましたが、その後、私が引き継いだという形です」
オーナーによれば「えっち本販売業者は今は全国で10人前後だと思います」と言う。
「私もこの業者を始めて22年になりますが、八王子をはじめ葛飾や関東近県、中部、東北エリアなど全国15か所の販売機の運営をしています。月に1回、内容物の仕入れをして、毎月1回は15か所の販売機に商品を補充しに行きます」
毎月1回必ず商品を補充しに行くということは、売り上げもそこそこ安定しているのだろうか。すべての自販機でどのくらいの売り上げかというと「数字は言えませんが、なんとか暮らしが成り立つ程度」だと言う。
「私はだいたい、商品の補充は夜に行なうのですが、意外にも20代くらいの男性や女性をお見かけすることもあります。女性が『ねえ、いいの、ない?』と聞いてきたことがあって、僕はイジワルしてわざと『いいのって、なんのことですか?』なんて言っちゃったこともありますけどね(笑)」
商品が2、3年前に発刊されたものなどビミョーに古いのはなぜなのか。
「月1で私が自ら問屋に仕入れているのですが、それらがすべて売れ残った雑誌などだからです。また、なるべくDVD付きじゃないものを探してますよ。こういった本好きの人は映像をほしがらない傾向にあるからですね。かつて本屋で売れ残った本が販売機で買い手がついたら、敗者復活戦のようで嬉しいでしょう。買う人いるの?ってよく聞かれますけど、いまだにアナログなものを求める方はいるんです」
ただもちろん、えっち本販売機ということで街の住民から苦情が入り、対応に追われたことも何度となくあるという。
「PTAを名乗る方から電話がかかってきたり、時には地域の方に撤去してくれと言われ、話し合いの場を持ったこともあります。それでもなんとかこれまで自分が運営してきた販売機においては撤去に追い込まれたことはありません」
なぜ、そんなことまであって自販機を続けていくのか。オーナーはこう答えた。
「こういった自販機は街の景観にとっては確かによくないかもしれない。でもネットとか見えない所で危ない何かを購入できてしまう時代だからこそ、見える所で買える場を保つのは大事なのではないか」
自販機は今日もポツンと立っている。
取材・文/集英社オンライン編集部ニュース班

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