物価高騰が続く今、家計のやりくりに悩む家庭は少なくありません。もしあなたが専業主婦で、「夫からもらっている生活費が明らかに少ない」と感じているなら、それは目に見えにくい“経済的圧迫(経済DV)”という暴力の可能性もあります。今回は、その実態について考えていきます。
えりさん(32歳)は1歳半の子どもを育てる専業主婦。短大卒業後は地元企業の事務員として働いていましたが、出産を機に退職。保育園の空きがなく、認可外は高額。遠方に住む母にも頼れず、育児に専念せざるを得ない状況です。
しかし、えりさんは少しでもいいから働きたいと焦りを募らせています。その理由は、切迫した家計の状況にあります。
マッチングアプリで知り合い結婚した5歳年上の夫は、結婚してからも自分の収入を一切明かしません。家賃や水道光熱費は引き落としで負担する一方で、食費や雑費などの生活費については毎月えりさんに手渡し。その額、5万円です。
この5万円で、夫婦2人の食費と子どものミルク代、日用品費、おむつ代や洋服代などをやりくりしなければなりません。えりさんは昼夜問わずの育児に追われながら、自転車でスーパーやドラッグストアをめぐり底値の商品を探す日々。それでも「とてもじゃないけれど足りない」といいます。
「食費を2万5,000円ぐらいに抑えたいのですが、夫はたくさん食べますし、今、なんでも値上がりしているので、どんどん大変になっています。実家から食材を送ってもらえるような恵まれた状況でもありません。ティッシュやトイレットペーパー、洗剤は絶対に切らせない。子どもにもお金はかかりますし……」
それでも、夫に「もっと生活費が必要」と強く訴えることはできないといいます。理由は、自分が収入を得ておらず、夫の収入で暮らしていることに対する引け目です。
「一度だけ、やんわりと『この金額じゃ厳しい』と言ったことがありました。ですが、夫から『友達の夫婦も同じ金額でやりくりしてる』『俺も節約してる』と言われてしまって。私が働いていないのは事実ですし、5万円でやりくりできる人もいるのかもしれません。夫は毎朝早く出て行って夜も遅い。疲れている様子を見て、もう何も言えなくなりました」
今は赤字になった分を独身時代に貯めた貯金で補っているというえりさん。しかし、それも、そのうち底をつきます。それまでに働かないと……。
「夫も、実際は足りていないとわかっていると思います。でも何も言っていません。私自身のものは何も買えないです。プライドが高いと言われそうですが、友達には相談できないし、心配させたくないので親にも言えないです。このままだとどうなるんだろう。先が見えず苦しいです」
えりさんのように、努力しても成り立たない家計を強いられる場合、それは「経済的な暴力(経済DV)」にあたる可能性があります。
内閣府男女共同参画局が実施した「男女間における暴力に関する調査(2021年)」によれば、結婚経験者の25.1%が配偶者から何らかの暴力を受けた経験があると回答。暴力の内容は、「身体的暴行(13.5%)」「心理的攻撃(18.0%)」「経済的圧迫(7.8%)」「性的強要(6.5%)」の4つに分類されます。
このうち「経済的圧迫」とは、生活費を渡さない、給与や貯金を一方的に管理される、外で働くことを妨げられるなどを指します。えりさんのように、十分な生活費が渡されず、働く選択肢も制限されているケースは、この「経済的圧迫」に該当する可能性があります。
加えて、経済DVは身体的暴力に比べて可視化されにくいため、周囲からも深刻さが理解されにくく、被害者が孤立しやすいという課題があります。
同調査では、配偶者から何らかの被害を受けた人に「誰かに打ち明けたり相談したりしたか」という問いをしたところ、「相談した」は52.8%、「相談しなかった」は44.2%。相談しない理由は、「相談するほどのことではないと思ったから」が 52.5%と最も多く、「自分さえ我慢すれば、なんとかこのままやっていけると思ったから」(28.9%)、「自分にも悪いところがあると思ったから」(28.9%)が続いています。
しかし、専業主婦であることは、家庭の運営に重要な役割を果たす「労働」であり、生活費について意見を持つことや話し合うことは当然の権利です。
えりさんの場合、改めて夫と話し合いをすることが先決です。話し合いが難しい場合には、全国にある「配偶者暴力相談支援センター」や「女性相談センター」など、外部の支援機関に相談する方法があります。
もし、配偶者の経済的管理や生活費の制限により、「自由がない」「声を上げられない」と感じるなら、それは見過ごしてはならないサインかもしれません。あなたの生活と心の平穏を守るために、まずは声を上げること。そして、必要ならば第三者に助けを求めることも考えましょう。
【参考】内閣府男女共同参画局「男女間における暴力に関する調査(2021年)」chrome-extension://efaidnbmnnnibpcajpcglclefindmkaj/https://www.gender.go.jp/policy/no_violence/e-vaw/chousa/pdf/r05/r05danjokan-4.pdf
【参考】
内閣府男女共同参画局「男女間における暴力に関する調査(2021年)」chrome-extension://efaidnbmnnnibpcajpcglclefindmkaj/https://www.gender.go.jp/policy/no_violence/e-vaw/chousa/pdf/r05/r05danjokan-4.pdf