ワンルーム退去費用「75万円」は高すぎる?X投稿が物議「ほぼフルリフォームでは」 妥当な金額なのか、弁護士が徹底解説

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ワンルームマンションの退去費用で75万円も請求された──。そんな投稿がXで注目を集めています。
投稿者の息子さんが6年弱住んでいたワンルームマンションを退去したところ、75万円もの「原状回復費」を請求されたそうです。
部屋には大きな破損もなく、通常の使用だったとのこと。たしかにタバコは吸っていたようですが、それでも「この金額は高すぎるのでは?」という声があがっています。
費用の内訳によると、居室だけでなく、廊下や玄関のクロスを張り替えたり、ユニットバスの折戸の交換などを予定しており、「ほぼオールリフォームでは」という指摘もありました。
原状回復トラブルは、賃貸契約においてしばしば発生します。では、今回のようなケースで75万円という原状回復費は法的に妥当といえるのでしょうか。
不動産の問題にくわしい秋山直人弁護士に聞きました。
–原状回復とはどのようなものなのでしょうか。部屋を借りた人は投稿にあるようにフルリフォームしなければならないのでしょうか。
賃借した居室の「原状回復」は、国土交通省の「原状回復をめぐるトラブルとガイドライン」(原状回復ガイドライン)で「賃借人の居住、使用により発生した建物価値の減少のうち、賃借人の故意・過失、善管注意義務違反、その他通常の使用を超えるような使用による損耗・毀損を復旧すること」と定義されています。
民法621条も、原状回復義務について「賃借物を受け取った後にこれに生じた損傷(通常の使用及び収益によって生じた賃借物の損耗並びに賃借物の経年変化を除く。)」を原状に復する義務としています。
要するに、普通に使っていて生じる汚れや破損については、賃借人に修復する責任は発生せず、賃借人の故意・過失、善管注意義務違反、通常の使用を超える使用による汚れや破損についてのみ、賃借人は責任を負うという考え方です。
賃貸マンションにおいては、賃借人が退去すれば、賃貸人としては、次に貸すために必要な修繕やリフォームをおこなったうえで賃貸に出すわけですが、その修繕・リフォーム費用のうち、賃借人の負担となるのは、通常、一部のみとなります。
どのような場合に「賃借人の故意・過失、善管注意義務違反、通常の使用を超える使用による汚れや破損」に該当するかについては、原状回復ガイドラインでも例示されています。
たとえば、壁の落書きやタバコなどによるヤニ汚れ、飼っているペットが柱やフローリングにつけた傷、カーペットに飲み物をこぼしたあと放置したことにより生じたカビなどが挙げられます。
–投稿者の息子さんはタバコも吸っていたといいます。喫煙による汚れやにおいが残っていた場合、壁や天井のクロスの張り替えは、6年近く居住していたとしても、賃借人の負担になってしまいますか。
タバコによるヤニ汚れは、通常、賃借人の故意・過失、善管注意義務違反による損耗と認められます。
原状回復ガイドラインでは、通常は、壁や天井のクロスは、6年で残存価値1円となるような直線を想定し、負担割合を算定する、という減価償却の考え方が採用されていますので、6年近く居住したのであれば、壁や天井のクロスの費用について、賃借人の負担割合はほとんどなくなります。
一方、タバコのヤニや臭いについては、原状回復ガイドラインでも「喫煙等により当該居室全体においてクロス等がヤニで変色したり臭いが付着した場合のみ、当該居室全体のクリーニングまたは張り替え費用を賃借人負担とすることが妥当と考えられる」とされています。
このようなガイドラインの記述に照らしても、喫煙によって居室全体のクロス等がヤニで変色したり臭いが付着している場合には、居室全体の壁・天井のクロスの張り替え費用を賃借人が負担することはやむを得ないと思います。
ただし、今回のケースで投稿されている修繕費用の見積りを見ると、廊下・トイレ・クローゼットの天井や壁のクロス張り替え費用も計上されていますが、これが認められるかは、廊下・トイレ・クローゼットにまでタバコのヤニによる変色等が認められるかによるでしょう。
–では、75万円の請求は「普通」なのでしょうか?
見積りには、ユニットバス・浴室折り戸の交換費用が約33万円計上されています。これが認められるには、ユニットバスや浴室折り戸が、賃借人の故意や過失、善管注意義務違反、通常の使用を超える使用によって破損したことが必要です。
6年間住んでいる間に、ユニットバスを通常の方法で使用して汚れたり、水アカが付いたにとどまる場合には、交換費用を賃借人に負担させることはできません。
次に貸すためにユニットバスを新品に交換することは賃貸人の自由ですが、その費用を賃借人に請求できるかは、まったく別の問題です。したがって、この請求には、おそらく無理があるように思います。
–請求に納得いかない場合、どのように対応したらよいのでしょうか。
このように高額な原状回復費用の請求がされた場合、今回でいえばユニットバスの交換費用のように、争える部分があることが多いと思います。
私が賃借人側で担当したケースでも、原状回復費用を500万円超請求されて、40万円程度で決着したケースや、300万円超請求されて、50万円程度で決着したケースがあります。納得いかない場合は、弁護士に相談することをおすすめします。
【取材協力弁護士】秋山 直人(あきやま・なおと)弁護士東京大学法学部卒業。2001年に弁護士登録。所属事務所は四谷にあり、不動産関連トラブルに特化して業務を行っている。不動産鑑定士・宅地建物取引士・マンション管理士・賃貸不動産経営管理士の資格を保有。事務所名:秋山法律事務所事務所URL:http://fudosan-lawyer-akiyama.com/

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