【綾部 まと】「盛り付けが遅い」だけで太ももを蹴られる…地下の焼肉店で起きた「奴隷労働」の一部始終

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労働基準法の中に“幻”と呼ばれる条文がある。暴行、脅迫等による強制労働を禁じた「第5条」だ。極端に悪質なケースにのみ適用されるもので、“伝家の宝刀”そのもの。年に1件あるかないかのレベルだ。それがいま、ある事件で適用の可能性が出ているという。
事件の舞台は焼肉店。そこで行われていたのは想像を絶する「奴隷労働」だった。一体何が起きたのか。労働基準法第5条とは何か。事件の被害者と弁護士に話を聞いた。
被害を訴えるのは内海智覚氏(27歳)。バイトとして働いていた東京・新宿にある焼肉店「李苑」で、店長をしていた男性「M」から暴行を受けたのだ。Mは当時お笑い芸人をしており、同じくお笑い芸人だった内海氏の先輩だった。
元々名古屋にいたという内海氏が東京に来たのは、Mからある誘いが理由だった。当時の状況を次のように話す。
「名古屋でアマチュアで芸人活動していたときに、先輩芸人のMから『東京で焼肉店をやる』と誘いを受けました。芸人活動に専念したいという理由から当初は断っていましたが、何度も説得され、『週1回でもいいから』という言葉を聞いて、最終的に応じることにしました」
内海氏は名古屋にいたときからご飯をご馳走になったり、ネタのアドバイスをもらったりとMの世話になっていた。そんな負い目と、芸人と飲食店経営という二刀流に挑む先輩芸人への憧れが上京を後押しした。
焼肉店でのアルバイトは2024年の1月から始まり、当初は簡単なホール業務を任されていたが、2月末には肉のカットや簡単なキッチン業務も行うようになった。内海氏は「仕事の負荷はそこまで重くはなく、豪華なまかないが食べられてラッキーだ。もっと一生懸命やっていこう」と感じていたという。
3月に入り、本店に業務を集中したいというオーナーの意向に従い、内海氏は別の店舗に移ることになる。ここで状況は一変する。「これが地獄の始まりでした」と内海氏は振り返る。
「新店舗ではホール、キッチンの他に、新しいアルバイトスタッフの管理も一部任されました。これまでにない業務量で忙しくなり、ミスもするようになりました」
それもあってか、4月末、内海氏は業務時間外にMからかかって来た電話で『アルバイトの管理がなってない。シフトの提出期限を守らせろ』と1時間ほど叱責を受けたという。はじめは単なる厳しい指導だと思われたが、 5月に入り次第にエスカレートしていく。
「Mから『お前のせいで人がやめた。お前が現場に立て』と、人員不足を私のせいにされ、1日15時間働くようになりました。それだけではありません。新店舗では時給は1350円に上がるはずだったのですが、『業務ができてない。お前のせいで元々いた店長やアルバイトが辞めたから、責任をとれ』と、給料を最低賃金まで下げられてしまったのです」
しかし、内海氏は契約内容と異なるのはさすがにおかしいと思いつつも、自分に非があるのかもしれないと、Mに改善を訴えることはできなかった。
時間もおカネも奪われ疲弊していく。それに追い打ちをかけるように、5月初旬、内海氏はMから身体的な暴力を受け始める。
「ランチ時に『盛り付けが遅い』と怒鳴られ、太ももを数発蹴られました。翌日には『仕事を完璧にします』という誓約書を書かされ、何か不手際があるたびに、『誓約書(に書かれていることが)、できてないよな』と、従業員用のロッカーで胸倉をつかまれて壁に押し付けられたんです。階段で胸倉をつかまれて、壁にぶつけられたこともありました」
勢いを増していく暴行と脅迫。5月18日には、流血沙汰へと発展する。
【後編】『防犯カメラの電源を切られ、10発殴られる…労働基準法を揺るがす、新宿の焼肉店で起きた「暴力指導」』に続く。
【後編】防犯カメラの電源を切られ、10発殴られる…労働基準法を揺るがす、新宿の焼肉店で起きた「暴力指導」

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