米棚が空っぽのスーパーも多いのに「3000円前半のコメが報道されるように…」 江藤農水相「謝罪」のウラでまたもや消費者感情“逆なで発言”

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確かに国民には謝った。しかし税金と社会保障の負担、そしてコメやガソリンなどの物価高という三重苦に苦しむ庶民の台所事情を、どれほど理解しているのか疑問は残った。4月22日、江藤拓・農林水産大臣は閣議後の会見で「備蓄米を出しても店頭価格が下がらないということについては、責任を重く感じておりますし、申し訳ないと思っております」と謝罪した。(全2回の第1回)
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【画像】コメの“不都合な真実”を明らかにする衝撃データ…コメ消費を減らしているのは「若者」ではなかった
江藤農水相は、いわゆる世襲政治家だ。父親は建設相、運輸相、総務庁長官を歴任した江藤隆美氏。大物政治家として知られる隆美氏は1925年、宮崎県日向市で農家の二男として生まれた。生活は苦しく、小学5年生で出稼ぎに出されたこともあったという。
隆美氏は苦学して宮崎農林専門学校(現・宮崎大学農学部)を卒業。政治家を志した動機を後に「豆腐を食べられる身分になりたかった」と語った。宮崎県議を経て自民党の衆議院議員になると、様々な機会で「自分は農家の出身」と語った。そして正真正銘の農水族として存在感を発揮した。
一方、息子の江藤農水相は名門の県立宮崎西高校から成城大学経済学部に進学。卒業するとハーバード大学国際問題研究所客員研究員となったという経歴の持ち主だ。
その江藤農水相の大臣会見における発言を丁寧にチェックすると、意外に“問題発言”が少なくないことに気づく。
デイリー新潮は、これまでに2回、江藤農水相の問題発言を指摘した。1回目は2月10日に配信した【スーパーのコメが「5キロで5000円」の異常事態に…「新米が出回ればコメ問題は解決」と繰り返してきた「農水省」に批判殺到】との記事だ。
江藤農水相がコメの高騰を巡って謝罪したのは、今回の4月22日が初めてではない。
2月3日の衆院予算委員会で立憲民主党の神谷裕議員が「コメ高騰が続いたのは、農水省の対応が遅れたのが原因ではないか」と質問すると、江藤農水相は「大いに反省はある」と認めた。この発言を一部のメディアが「謝罪」と報じたのだ。担当記者が言う。
「消費者がコメ不足と高騰を実感したのは昨夏からでしょう。ところが日本農業新聞などの専門紙は昨年2月の段階でコメ不足を報じていたのです。にもかかわらず、農水省は何の対策も講じませんでした。しかも、当時の坂本哲志・農水相はコメ高騰を不安視する国民に向かって『秋には新米が出回る。コメが品薄になっている状況は回復していく』との説明を繰り返しました。しかし、これは希望的観測に過ぎなかったのです」
江藤農水相は2月の衆院予算委で「反省」したのだから、坂本前農水相の判断ミスに関しても国民に謝ったと誰もが思うだろう。
ところが、である。江藤農水相は「コメの値上がりは一時的なものだと当時の農水相が判断したことは無理もないこと」と答弁した。つまり坂本前農水相を擁護したのだ。
こうなると江藤農水相の反省は、何のための反省なのか全く分からなくなってくる。
「現在では『昨夏に素早く備蓄米の放出を決めていれば、これほどコメの価格は高騰しなかった』という分析は広く共有されており、コメの集荷業者、流通業者、元農水省キャリア官僚、大学教授など、多くの関係者と専門家が『正しい分析だ』と認めています。つまり江藤農水相は予算委で『値上がりが一時的なものと判断したことが何より間違っていました』と反省する必要があったはずです。ところが口にしたのは逆の擁護発言でした。これでは反省が口先だけであり、『絶対に政策ミスではない』という本音を隠し持っているように見えてしまいます。原点のミスを認めていないのですから、今回の会見での謝罪も額面通りには受け取れません」(同・記者)
ちなみに、2月の予算委では他にも江藤農水相の答弁が問題視された。産経新聞(電子版)が2月7日、「『貧乏人は麦を食え』は誰の発言か…クイズ質問に江藤拓農水相、答えられず 衆院予算委」との記事を配信しているのだ。
産経新聞は、れいわ新選組の共同代表を務める櫛渕万里議員が「『貧乏人は麦を食え』と言ったのは誰か」と質問すると、江藤農水相が「不勉強で知識がない」と答弁したことを伝えた。
この「貧乏人は麦を食え」は、現在と同じようにコメの価格が高騰していた1950年12月、参院予算委員会で当時の池田勇人蔵相が「所得の少ない人は麦を多く食う」という「経済の原則」について言及したことを指す。翌日の新聞各紙が「貧乏人は麦を食え」と報じたことで池田蔵相に国民の批判が集中した。
つまり江藤農水相は「池田勇人氏」と答弁すべきだったが、それができなかったというわけだ。
産経新聞は《国会質疑での「クイズ質問」には以前から批判がある》と櫛渕議員の質問を問題視しながらも、《多くの政治家が知っているエピソード》だとも指摘した。
暗に江藤農水相の勉強不足も批判したと読むべきだろう。実際、父親の江藤隆美氏なら難なく即答したに違いない。
話をデイリー新潮に戻すと、2回目の記事は【再び「コメ5キロ5000円」突破が秒読み段階! 沖縄ではすでに「5000円超」まで高騰も…江藤農水相「トイレットペーパー騒動と同じ」発言への強烈な違和感】とのタイトルで4月18日に配信した。
江藤農水相は4月1日の大臣会見で備蓄米の放出について記者から質問されると、いきなり「トイレットペーパーがオイルショックの時になくなりました。各ご家庭で、家庭の暮らしを守るためにみんなが買ったので、一気になくなりました」と切り出したのだ。
1973(昭和48)年に第4次中東戦争が勃発。中東の産油国が原油の生産量を減らしたことで第1次オイルショックが起きた。この時、日本では「トイレットペーパーが不足する」というデマが飛び交い、多くの国民が買い占めに走った。
「トイレットペーパー騒動は、嘘の情報に日本人が踊らされたことで起きました。しかしコメの高騰問題は今、目の前で起きているリアルな現象です。コメが棚にないスーパーさえあるにもかかわらず、江藤農水相はコメなら足りているという認識を改めません。それどころか、『コメがないのではないかという不安感』が消費者、流通関係者、集荷業者に存在し、それが『ネットや伝聞』によって増幅したことが高騰の原因だと指摘しました。これでは私たち国民全員がデマに踊らされてコメの買い占めを続けており、その結果コメが安くならないと断じるのと同じです」(同・記者)
さらに4月1日の会見では、依然として“転売ヤー”の問題にもこだわった。ちなみに江藤農水相の選挙区は宮崎2区(延岡市や日向市など)だ。
会見では「山の奥の高千穂でも、宮崎弁とは全く言葉で違う話をする人が突然来て、全部売ってと言われたという話もありました(註)」とのエピソードを披露。転売ヤーの暗躍がコメ価格高騰の一因だと力説した。
だが、この問題についても専門家は「たとえ転売ヤーが存在するにしても、その数は少ない。まして全国のスーパーでコメ販売価格が2倍に高騰するほどの影響力があるはずもない」と一笑に付している。幻の転売ヤーよりは、外国人観光客が食べるコメの量のほうが、よほど影響力は大きいだろう。
そして江藤農水相が「申し訳ない」と謝罪した4月22日の会見でも、消費者目線では気になる発言がいくつか散見された。
「江藤農水相は備蓄米が放出された結果として、『ようやく、テレビなどでも3000円前半とか、そういう米が報道されるようになってきました』と歓迎したのです。この発言は一部のメディアが伝えたとはいえ、もしテレビで大々的に放送されたら批判が殺到したのではないでしょうか。視聴者の多くは『3000円前半とは一体、どこの都道府県で売られているコメだ』と首を傾げたに違いありません。何しろ首都圏を筆頭に備蓄米など全く見たことがない人のほうが全国では圧倒的多数を占めるからです」(同・記者)
第2回の【江藤農水相は「コメ輸入拡大」に懸念を表明したが韓国米は軽視…高い関税を払って外国米を輸入しても「高騰のおかげで採算がとれる」皮肉な状況に】では、備蓄米が3000円前半で販売されたと本当にメディアが報じたのか、出所を探してみた。
さらに江藤農水相が4月22日の会見で披露した「お金を出しさえすれば手に入るということを、日本人が信じすぎたゆえに、食料自給率が低過ぎたという側面があると思っています」との自説の問題点や、韓国米を「在日韓国人の方々が好んで召しあがっている」と軽視するなど、輸入米の脅威を全く考慮していない疑問点などについて詳しくお伝えする──。
註:農水省公式サイトの「大臣等記者会見」から引用し、全て原文ママ。正しい表記は「宮崎弁とは全く違う言葉で話をする人」か?
デイリー新潮編集部

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