六本木のアミューズメントカジノで「ポーカーの負け代250万円」が支払えなくなった客が警察に駆け込んだ 店側は取材に「無銭飲食と同じ。必ず払ってもらう」

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若者の間で起きているポーカーブームに乗って、この数年急増してきた「アミューズメントカジノ」で大変な騒ぎが起きている。六本木などの繁華街で闇カジノさながらの「高額ポーカー賭博」が横行。負け代が支払えなくなった客が警察に駆け込むトラブルまで発生しているのだ。(全3回の第2回)
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【写真】「300万円以上のチップが…」。恐ろしい金額が賭けられていた「証拠LINE」と身の毛もよだつ「追い込みLINE」
第1回【まるで闇カジノ…六本木のアミューズメントカジノで「高額ポーカー賭博」が横行 店から借りた「負け金250万円」を踏み倒す決意をした会社員の告白】からの続き
前編では今年1月、20代の会社員Aさんが六本木のアミューズメントカジノ「X」で行われたポーカーの「リングゲーム」で、たった2晩の間に750万円も負け、支払いが足りなくなったところまでを伝えた。
昨年末から高レート卓に挑み始めたAさんは、それまで絶好調で300万円以上勝ち越していた。ただし勝ち分のほとんどは現金ではなく、デジタル通貨「ウェブコイン」やウェブコインに切り替えることが可能な「店内ポイント」として所持していた。
実は、現在アミューズメントカジノ界隈で流通しているこのデジタル通貨には現金と変わらない価値がある。ウラで8~9掛けのレートで換金してくれる業者が存在するのだ。勝っても現金を直接渡さないことで、店側はこのような実質的な賭博行為を「合法」としているのである。
「店に通う中でオーナーやほかの客から、買い取り業者がいて換金できることや、オーナー本人も換金行為をしていること、店内ポイントは家電量販店やほかのポーカー大会での領収書を持参することで、ポイント分を100パーセントの割合で現金に換金できると聞きました」(Aさん)
Aさんが大敗を喫した晩、店側と交わしていたLINEには凄まじい記録が残されていた。
1月15日21時から翌16日朝8時までの間、Aさんは店側に、20分から3時間くらいの間隔で〈3000〉〈2000〉〈5000〉などとメッセージを送り続けている。その度、店から〈お渡し済み3000点〉〈お渡し済み5000点〉〈お渡し済み10000点〉と返信が入る。
「1点は100円で、3000点ならば30万円という意味です。参加者のほとんどが500万円~1000万円以上のチップを積んでいた恐ろしいテーブルでした」(Aさん)
驚くべきは、店側が、何の担保も示さなくても“無尽蔵に”チップを貸し続けた点だ。
「その前に大勝ちしていたからでしょう。私は完全にアツくなっていて、自分がいくら負けているかさえ把握していなかった。自分が支払える限度を超えて借りているのはわかっていましたが、自分を止めることができませんでした」(同)
徐々に借り出し額は〈8000〉〈10000〉〈15000〉と吊り上がっていった。2時間くらいのペースで、80万円、100万円、150万円と負け続けていることを示している。明け方8時に最後に送った金額は〈7000〉で、店から帰ってきたメッセージは〈お渡し済み50000点〉。なんとAさんは1晩で500万円も負けてしまったのである。
「前日にも250万円負けていて、私が元々所持していた約400万円分のウェブコインや店内通貨は150万円くらいしか残っていませんでした。財布の中の現金は50万円ほどで銀行口座はほぼ空っぽ。300万円の支払いが足らなくなりました」(同)
当然、待ち受けていたのは修羅場である。
Aさんはオーナーに「後日分割で返すから待ってほしい」と伝えたが、「払わないと帰さない」「他の客はツケ払いや分割払いが可能だが君は無理、信用がないから」「必ず今日中に支払わなければダメ」と言われ、帰ることができなくなったと言う。
「警察に行って相談したいと申し出ましたが、『不利になるのはあなただし我々も面倒ごとは避けたい』と言われました。それから必死に親や兄弟、友人に電話し続けましたが、誰も300万円を用立てられる人は出てこなかった。『君が払えないなら親の名前と仕事先を教えろ、言わなくても警察に頼めば親の名前や住所、仕事先も教えてもらえる』『消費者金融やお金を作る方法ならいくらでもある』と店員やオーナーからそう強く詰められ続けました」(同)
結局、Aさんは金を用意できず、免許証、社員証、保険証の写真や謝罪動画を撮られた上、1月末に50万円、2月末に100万円、3月9日に残りの額を支払う約束をして解放された。店を出た時には、ゲームを終えてから12時間くらいが経過していたという。
「2日ほぼ寝ずにポーカーをした後の出来事だったので、朦朧としていました。自宅に帰ってひとまず寝て、翌日から仕事を再開しましたが、手取り20万円の給料でどうやって300万円を用立てればいいか絶望的な気持ちになりました。何か助かる方法はないかと考え、3日後に麻布署に相談に行きましたが、担当した刑事は、『あの店は合法なやり方でやっているので 、 営業時間を守っていないことへの行政指導くらいしかできない』と言われてしまいました」
そうこうするうちに最初の支払い期限の月末がやってきた。Aさんの親は経済的な余裕がなかったが、何とか頼み込み、50万円だけ用立ててもらって振り込み、危機を乗り切った。だが、今後を考えると憂鬱だった。1カ月後にはまた100万円の返済期限が控えているのである。
そして、Aさんは再び愚かな過ちを繰り返してしまうのである。ポーカーで取り返そうと、消費者金融で用意した元手で他の店のポーカー大会に出場。約20万円をさらに失ってしまったのだ。しかもそれがXのオーナーにバレて、追及される“泣きっ面に蜂状態”に。 「丸2年くらいポーカー漬けの生活を送ってきたので、ポーカーに希望を見出してしまうバカな自分がいました」(同)
最後の希望が絶たれ、2回目以降の返済の目処が全く立たなくなってしまったAさん。そんな時、知人から紹介されたある男性が思いもよらない解決策を提案してくれたのだった。
「明らかな違法賭博なんだからバックれちゃえばいいだろう」
この言葉にAさんはハッとした。ネットでも調べたが、違法な賭博で作った借金は無効とあった。
「勝った時は勝ち分を受け取っておきながら、負けたら払わないのは、人として間違った行為であることはわかっています。けれど、あれは異常な空間だった。どんどんレートアップしていき、無尽蔵に貸し付けられる状況で…。そして、現に私は返済する力を全く持っていないのです。支払う義務がないならば逃れたい」
すでに会社もこのトラブルを把握しているという。 「私が電話などに出なかったため、オーナーが会社にまで電話をかけたからです。上司に事の経緯をすべて話したところ、上司からは『借金トラブルを早く解決するように。その後進展があればすぐに報告するように』と言われているのが現在の状況です」
以上がこのトラブルのAさん側の言い分である。実際、Aさんは残債の支払いを逃れることができるのだろうか。元テレビ朝日法務部長の西脇亨輔弁護士はこう指摘する。
「日本では賭博罪があるので、Aさんがやったポーカーは違法賭博だった可能性がある。民法では公序良俗に反する約束は無効と定められており、Aさんがやったポーカーが違法と認定されれば、支払い義務を負いません」
では開き直ったAさんに対し、店のオーナーはどうするつもりなのか。電話すると30分間の取材に応じ、次のような見解を述べた。
――Aさんは払わないと言っているがどうするつもりなのか。
「めちゃくちゃですよ。うちはお会計を踏み倒されている被害者なんです。ちゃんと法的ルールを守っているつもりで、警察にも相談させていただいています。弁護士を介してAさんには必ず残債を返済してもらうよう、今後も請求していくつもりです」
――Xで行われていたゲームは、違法賭博だったのではないか。
「うちはアミューズメントのルールに則って、現金は渡していません。金額が高額になるのはお客さんたちが勝手にアツくなっているだけ。お客さんが勝っても、店から渡すのは店内のポイントやウェブコインです。Aさんには支払えるか確認してからチップを渡しています。彼は大丈夫と言ってプレイを続行し、お金が払えなくなり、踏み倒そうとしているのです」
――担保も取らずに信用で貸し続けたから招いた結果なのでは。
「支払い確認だけで、お客さんの言葉を信用してしまったのは確かにこちらの落ち度でした。ただ先払いにしてしまうと、賭博になってしまう側面もあるのです。あくまでうちはチップのレンタルをしているだけで、お客さんが帰る時にチップのレンタル分を返してもらい、その不足分についてお金をもらっているだけです。飲み屋で高いシャンパンを入れる行為と同じで、いちいち、お会計大丈夫ですか?と聞きませんよね」
――Aさんは監禁されたと主張しているが。
「支払いどうするんですか、という話になっただけです。僕からは警察行きますか、と言ったんですが、彼の方から、警察は困ります、なんとかするんで待っててくださいと引き留められました。職場に電話したのも、連絡が取れなくなったからだけの話で、支払いを待ってください、と言って緊急時の連絡先として職場の連絡先を残したのはAさんの方です」
――仮にシステムが合法だったとしても、1晩で数百万も動くゲームは、公序良俗に反しているのではないか。
「土地柄によるんじゃないでしょうか。六本木ですからお客さんにはお金持ちが多いですから。換金できないゲームに100万円、200万円課金している子供たちがいるじゃないですか。あれと同じことです。こちらとしては、ビジネスとしてお客さんが求める場を提供しているだけに過ぎません。本音では、Aさんのようにお会計が払えなくなる人が出てきてしまうから、金額が高くなることは嫌なんです。うちは何回もAさんのような客を警察に突き出しています。店側の利益も1晩で30万円くらいにしかならないので割に合いません」
――ウェブコインは裏で換金する業者も存在する。
「勝手にウェブコインに価値を見出し、個人で買い取っている人が存在するのは事実ですが、ウチは一切関係ありません。ただし、この間、警察からウェブコインは『換金性があるとこちらは認識しているので、もう使うのを控えてください』との指摘を受けましたので、もう最近は使っていません。記者さんも、うちみたいな店よりも、ウェブコインの問題を追及してください。ウェブコインを使わなくなって以降、うちは競合店にお客さんを取られて苦しくなる一方なのです」
オーナーが主張するように、確かに“元凶”はウェブコインにありそうだ。運営している業者はなんと答えるのか――。
続編【オリックス・山岡もハマった「オンラインカジノ」を普及させた「日本最大ポーカー大会を運営する企業」の責任 元トップは「適法化に努めています」】では、ウェブコインを日本に導入させた「日本ポーカー連盟」の元代表のインタビュー記事を掲載している。
デイリー新潮編集部

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